【詳しく】ロシアがウクライナで軍事侵攻 いま何が?(2/24)

ロシアのプーチン大統領は24日、国民向けのテレビ演説で、ウクライナ東部の住民を保護するためとして特別な軍事作戦に乗り出すことを明らかにしました。
この後、ロシア国防省はロシア軍がウクライナに対して、攻撃を開始したと明らかにしました。

これに対しアメリカのバイデン大統領は「プーチン大統領は破滅的な人命の損失と苦痛をもたらす戦争を選んだ」と声明を発表するなど国際社会に反発が広がっています。

新たな局面を迎えたウクライナ情勢、今何が起こっているのか、詳しく解説します。

ロシア軍はどの地域で軍事作戦を開始したの?

ウクライナ軍参謀本部は公式フェイスブックで「ロシアの武装勢力は、24日午前5時、東部にあるわれわれの部隊への集中砲撃を開始した」と、ロシア軍がウクライナ東部で攻撃を始めたと発表しました。
攻撃は、南部や西部でも行われているとしています。
具体的な場所として、
▽首都キエフの郊外に位置するボリスピルのほか、
▽西部ジトーミル州にあるオジョルノエ、
▽ハリコフ州にあるチュグエフ、
▽ウクライナ軍の東部の拠点となっているクラマトルスク、
それに
▽ウクライナ南部にあるクリバキノや
▽チェルノバエフカを挙げています。

ウクライナ軍によりますと、ロシア軍は、これらの地域にある飛行場と軍事施設に対して攻撃を開始したということです。
一方「ロシア軍が南部のオデッサに上陸したという情報は、真実ではない」として一部のメディアの情報を否定しました。
ロシアの複数の国営通信社が、ロシア国防省の話として伝えたところによりますと、「ロシア軍はウクライナの軍の施設や飛行場を高性能の兵器によって無力化している」として、攻撃が始まったと明らかにしました。
また、ロシア国防省は「民間人を脅かすものではない」と述べたとしています。

現地の様子は?

ウクライナ西部のリビウに夫と2人の子どもと暮らしているマリア・ペヴナさんが現地時間の24日朝、日本時間の午後3時にNHKの取材に応じました。

ペヴナさんは現地の状況について「朝5時に起きると、軍事基地に爆弾が落ち、戦争が始まったというニュースが入ってきました。ここリビウはなんともありませんが、断続的にサイレンの音が聞こえています。爆弾が落ちたという首都キエフや東部ハリコフの友人に電話をかけたところ、キエフでは窓が震えるほどの衝撃があり、ハリコフでも家の窓から爆発の現場が見えたと話していました」と語りました。

また「ウクライナに残りたいが、子どもたちが心配なので、国外に避難する準備もしています。9歳の子どもは、これまでも恐怖で夜に起きて泣くなどしていたので、今回のことでとても心配に感じると思います」と不安を口にしていました。

そのうえで「私たちは30年前に民主主義の道を選び独立のために戦ってきました。私たちはロシアから何かをほしい訳ではないのになぜ私たちを攻撃するのか。怖いという気持ちと、さみしい、悲しい、そして怒りを感じています。ウクライナだけではロシアを止めることは難しい。各国がロシアに対して、きぜんとした態度を取って、止めてほしい」と訴えていました。

なぜウクライナ東部で軍事作戦を?

ロシアの議会下院は2月15日、ウクライナ東部の親ロシア派の支配地域を、独立国家として承認することを検討するよう、プーチン大統領に求める決議を可決しました。
プーチン大統領は15日、民族などの集団に破壊する意図をもって危害を加える「ジェノサイド」という表現まで用いて、ウクライナ軍が停戦合意に違反して、親ロシア派の武装勢力への攻撃を激化させていると主張しています。

こうした動きに呼応するかのように、親ロシア派は政府軍による攻撃を理由に住民を隣国のロシアに避難させると発表し、ロシア政府もロシアに避難してきた住民に1万ルーブル、日本円にしておよそ1万5000円を支給するなど支援しています。

これに対してウクライナ政府は攻撃を否定するなど非難の応酬となっています。
またアメリカのバイデン政権は「ロシアが侵攻を正当化するため偽りの口実を作る可能性がある」として虚偽の情報を拡散しようとしていると、警鐘を鳴らしています。

ウクライナ東部とは?

ウクライナ東部は、2014年からロシアの後ろ盾を受けた親ロシア派の武装勢力が一部を占拠し、ウクライナ政府軍との間で散発的に戦闘が続き、ロシアとウクライナの対立の要因の1つとなっています。
親ロシア派の武装勢力が占拠しているのは、東部のドネツク州とルガンスク州の一部で、いずれもロシアと国境を接しています。
歴史的にも経済的にもロシアとつながりが深く、ロシア語を母国語とする住民が多い地域です。
ソビエト時代に開発された炭鉱や、鉄鉱石の鉱山があり、豊富な資源を背景にした鉄鋼業が盛んで、ウクライナ有数の工業地帯となっていました。
しかし2014年、ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合すると、直後の4月、親ロシア派の武装勢力が、州政府庁舎や治安機関の建物に押し寄せ、次々に占拠。
その後、ウクライナからの独立を一方的に表明しました。

ウクライナ政府は、これに対して軍を派遣して、強制排除に乗り出しましたが、各地で武装勢力と激しく衝突し、死者が多数出る事態に発展しました。

混乱が続いていた2014年7月には、オランダ発のマレーシア航空の旅客機がドネツク州の上空で撃墜され、乗客乗員298人が死亡する事件が起き、オランダなどの合同捜査チームは親ロシア派の支配地域から発射されたと発表しましたが、親ロシア派は否定しています。
一方、政府軍と親ロシア派の武装勢力との間の紛争を解決しようと、2014年9月、それに2015年2月にはフランスとドイツの仲介で「ミンスク合意」という停戦合意が結ばれましたが、その後も散発的な戦闘が続きました。

OHCHR=国連人権高等弁務官事務所によりますと、これまでに双方で1万4000人以上が死亡したということです。

8年にわたる紛争の影響で、生活に不可欠な水道や暖房施設などインフラが破壊される甚大な被害が出ていて、これまでに150万人の人々がこの地域からの避難を余儀なくされています。

親ロシア派の武装勢力について、ウクライナや欧米は、ロシアが軍事的な支援を行い後ろ盾となっていると指摘しています。

ロシアのプーチン政権は、紛争への関与を否定する一方、2019年からこの地域の住民に対するロシアのパスポートの発給手続きを簡素化し、これまでに70万人以上がロシア国籍を取得したとされ、ロシアへの依存度を高めています。

軍事作戦までの経緯は?

2014年 ロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合
2014年9月、2015年2月 フランスとドイツの仲介で「ミンスク合意」という停戦合意を結ぶも、その後も散発的な戦闘続く。

ー8年にわたる紛争ー

2022年2月21日 プーチン大統領は、ウクライナ東部の親ロシア派が事実上、支配している地域について独立国家として一方的に承認する大統領令に署名し、国防省に対して「平和維持」を名目として、軍を派遣することを指示。

2月23日 ロシア大統領府は、ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力からプーチン大統領に軍事的な支援の要請があったと明らかに。

2月24日 日本時間の正午前、プーチン大統領が国民向けのテレビ演説で放送。
ウクライナ東部の住民を保護するためとして特別な軍事作戦を実施することを明らかに。

ウクライナ大統領は?

ロイター通信によりますと、ウクライナのゼレンスキー大統領は、SNS上にビデオメッセージを投稿しロシアがウクライナ国内の軍事施設と国境警備隊にミサイル攻撃を行い、複数の都市で爆発音が確認された、と述べたということです。
そのうえで、アメリカのバイデン大統領と電話会談を行ったとしています。

プーチン大統領の主張は?

ロシアの国営テレビは24日朝、日本時間の24日正午前、プーチン大統領の国民向けのテレビ演説を放送しました。

このなかでプーチン大統領は、ウクライナ東部2州の親ロシア派が事実上、支配している地域を念頭に「ロシアに助けを求めている。これに関連して特別な軍事作戦を実施することにした。ウクライナ政府によって8年間、虐げられてきた人々を保護するためだ」と述べ、ロシアが軍事作戦に乗り出すことを明らかにしました。
また、プーチン大統領は「われわれの目的はウクライナ政府によって虐殺された人を保護することであり、そのためにウクライナの非武装化をはかることだ」としましたが「ウクライナ領土の占領については計画にない」と述べました。

さらに「われわれの国と国民に脅威をあたえようとするものにはロシアが即座に対応することを知らせなければならない」と述べ、NATO=北大西洋条約機構の加盟を目指しアメリカなどとの軍事協力を進めるウクライナを非難しました。

そして「現代のロシアは、ソビエトが崩壊したあとも、最強の核保有国の1つだ。最新鋭の兵器についても一定の優位性を持っている。ロシアへの直接攻撃は、潜在的な侵略者にとって、敗北と壊滅的な結果をもたらすことは間違いない」とアメリカなどをけん制しました。

バイデン大統領や欧米首脳の反応は?

各国に衝撃と反発が広がっています。

ウクライナのクレバ外相はツイッターに「ロシアのプーチン大統領はウクライナへの全面的な侵攻を開始した。平和なウクライナの都市が攻撃を受けている。ウクライナは防衛し、勝利するだろう。世界はプーチン大統領を止めなければならない。今こそ行動を起こす時だ」と投稿しました。
アメリカのバイデン大統領は23日、声明を発表し「プーチン大統領は破滅的な人命の損失と苦痛をもたらす戦争を選んだ。この攻撃がもたらす死と破壊の責任はロシアだけにある」として、プーチン大統領の決定を強く非難しました。
そのうえで「アメリカは同盟国、友好国と結束して断固とした措置で対応する。世界はロシアに責任を取らせるだろう」として、攻撃によってもたらされる被害の責任はロシアが負うことになると強調しています。
そして24日には、G7=主要7か国の首脳と協議を行ったうえでアメリカ国民に向けて今後の対応などについて演説を行うとしています。
また、NATO=北大西洋条約機構のストルテンベルグ事務総長は24日、声明を出し「ロシアのウクライナに対する無謀で正当な理由のない攻撃は大勢の市民の命を危険にさらすものだ。われわれが繰り返し警告し、外交努力を続けてきたにもかかわらず、ロシアはウクライナの主権と独立を侵害する道を選んだ」と述べ、ロシアを強く非難しました。
そのうえで、ロシアに対し、軍事的な行動を直ちにやめるよう求めるとともに、加盟国で今後の対応を協議する考えを示しました。

これからどうなるの?

ロシアが専門で、アメリカのオバマ政権下で、国務長官の政策立案スタッフを務めたマイケル・キメージ氏は今後の展望について「西側の政治家がモスクワに行って外交で進展を得ようというフェーズではすでになく、外交は終わった」と述べました。

そのうえで「全面戦争が起きるとは限らないが、同時に、プーチン大統領が今のままとどまるとも思わない。ウクライナ東部の2州の独立を承認したところで彼が追い求めるウクライナの政治的中立が実現するわけではないからだ」と指摘しました。

そしてプーチン大統領のねらいについて「最も低いレベルでは、ウクライナが特に軍事的に、アメリカやNATO=北大西洋条約機構と関係を強化することを防ぐことにある」とする一方「考えられる最大のレベルは、プーチン大統領が望む政治体制をウクライナに作り出すことだ。それは国を分割することで成し遂げられるかもしれない。さらにもっとも過激な選択肢は国を完全に征服することだ」と述べました。

また、キメージ氏は、バイデン政権が打ち出した経済制裁の効果について「プーチン大統領はすでに制裁を予想しており、侵攻を抑止する効果は薄いだろう」と分析しました。

そのうえで「バイデン政権は事態を抑え込むための強力な手段を持ち合わせていない。アメリカにできることは、ウクライナに隣接するNATO加盟国が、紛争の影響を受けないようにすることだ」と述べました。