再婚後に出産の子どもは“今の夫の子”に 民法見直しへ要綱案

妊娠や出産の時期によって父親を推定している「嫡出推定」の制度をめぐり、法制審議会の部会は、再婚している場合は離婚から300日以内に生まれた子どもでも今の夫の子と推定するなどとした要綱案をまとめました。

これに伴って、女性に限って離婚から100日間、再婚を禁止している規定を廃止するとしています。

明治31年から続く民法の「嫡出推定」の制度では、離婚から300日以内に生まれた子どもは前の夫の子と推定することなどが規定されていて、これを避けたい母親が出生届を出さず、戸籍のない子が生じる主な原因と指摘されています。

これを受けて、法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会は1日の会合で、民法の見直しに向けた要綱案をまとめました。

要綱案の内容です。

▽再婚している場合は離婚から300日以内に生まれた子どもでも今の夫の子と推定する。
▽「前の夫」と「今の夫」で法律上、父親が重複する可能性がなくなることから、女性に限って離婚から100日間、再婚を禁止している規定を廃止する。
また、「嫡出推定」による父親と子どもの関係を解消するための「嫡出否認」の手続きについてです。

▽現在は父親だけに認められている、申し立ての権利を子どもと母親にも拡大する。
▽出生を知ったときから1年以内に限られている申し立ての期間について、出生か、それを知ったときから原則3年に延長するほか、一定の要件を満たす場合にかぎり子どもが21歳になるまで申し立てができるようにする。
法制審議会は、今月の総会で要綱を決定し、古川法務大臣に答申することにしています。

見直しの背景に無戸籍の問題

120年以上前から続いてきた「嫡出推定」の制度。

見直しの背景にあるのは無戸籍の問題です。

民法772条の「嫡出推定」は、妊娠や出産の時期によって子どもの父親が誰かを定めるルールで、法律上の親子関係を早期に確定させ子どもの利益を守るために設けられています。

しかし、この制度があるためにかえって子どもの立場が不安定になる「無戸籍」の問題が生じています。
現在の制度では、離婚が成立する前や300日以内に生まれた場合は法律上は夫の子とされるため、それを避けようと、母親が出生届を出さなかった場合子どもは無戸籍になってしまいます。

法務省によりますと、1月10日時点で、無戸籍の人は少なくとも全国で825人いて、このうち72%の人が嫡出推定の規定が原因だと回答しているということです。

戸籍がないと行政サービスの基盤となる住民票や、本人であることを証明するパスポートなどの作成は困難で、日常生活にさまざまな不利益が生じます。

「嫡出推定」を外す裁判手続きもありますが、夫や元夫の協力を求められる可能性があり、DVなどの事情があるケースを中心に利用をためらう人も多いと指摘されていました。

息子が無戸籍だった女性「存在していない扱いに…」

関東地方に住む30代の女性は、息子が2年半近く無戸籍の状態でした。

夫のDVが原因で別居中に出会った男性との間に子どもを授かったということです。

出産は離婚が成立する前で、法律上、夫の子となるのを避けるために出生届を出せず、生まれた男の子は無戸籍となりました。

女性は「無戸籍だとこの世に存在していない扱いになってしまう。運転免許やパスポートの取得、結婚など、普通の人なら当たり前にできることができないのではないか、災害が起きたときに息子は救助されるのかなど、不安と子どもへの申し訳なさをずっと感じていました」と胸のうちを語りました。

その後、離婚が成立し、子どもの父親と再婚。
しかし、実の父親の子として戸籍を作るには、前の夫に「嫡出否認」の訴えを起こしてもらい、自分の子ではないと証明してもらう必要があります。

協力を得るのは難しく、再婚相手に対する裁判手続きで前の夫と長期間別居していたことを示すさまざまな証拠を提出し、ようやく認められたということです。

嫡出推定が見直されても、女性のように出産時に再婚できていないケースは救済の対象にはなりません。

「嫡出否認」の手続きは母親や子どもでも起こせるようになりますが、女性は「子どもに危害を加えられたらと不安で、前の夫に接触することがどうしてもできません。子どもには罪がないので、大人の事情にかかわらず戸籍ができるようにさらに変わっていってほしいです」と話していました。

見直されても救済難しいケースも

今回の見直しが実現しても救済が難しいケースもあります。

夫のDVから逃げるために別居していたという30代の女性は、離婚ができない中、別の男性との間に子どもを授かり、出産しました。

嫡出推定によって法律上は夫の子どもとなってしまうため、戸籍を作ると夫に居場所を知られるのではないかという恐怖から出生届を出せず、子どもは無戸籍となりました。

無戸籍の問題に詳しい弁護士によりますと、女性のようにDVの被害がある場合は夫と離婚の協議を進めることさえ難しく、別居中に新たなパートナーができても再婚できないケースが少なくないということです。

さらに女性の場合、子どもの実の父親である男性からもその後、激しい暴力を受けるようになり、子どもとともに命からがら家を飛び出し、自治体の支援を受けて男性から逃れる生活を続けているということです。
なんとか子どもの戸籍を作りたいと自治体や弁護士に相談していますが、実際の親子関係を反映した戸籍を作るには、夫か子どもの実の父親のいずれかを相手に裁判所での手続きを申し立てる必要があります。

制度が見直されてもそれは変わらず、手続きをとるのは難しいと考えています。

女性は、「子どもが大きくなって海外旅行や車の運転、結婚したいと思っても戸籍がないとそのつど壁にぶつかることになる。子どもには本当に申し訳ないし私が産んだ子どもであることに間違いはないのに、親子と認めてもらえないのが苦しいです」と話しています。

審議会の委員「無戸籍の問題は一歩前進」

家族法が専門で法制審議会の部会で委員を務めた早稲田大学の棚村政行教授は嫡出推定の見直しについて、「120年以上前にできた戦前のルールが戦後そのまま引き継がれ、社会の実情や医学などさまざまな進歩にも対応できずずいぶんずれているところがあった。無戸籍の問題には一歩前進になると思う」としています。

ただ、課題も残ったとして「再婚によって救済される割合はさほど高くないと思う。DVなどの事情があってもよりスムーズに親子関係を決められる手続きの在り方を検討したが、今回は十分取り入れられなかった」と話しています。

そのうえで、「無戸籍の問題にはさまざまな要因があり民法の改正だけではカバーしきれない。関係する機関がワンストップで対応するなど総合的な支援と対策が必要だ」と話しています。

支援する弁護士「救済は限定的」

法制審議会の要綱案について無戸籍の人たちの支援を続けている高取由弥子弁護士は、「今回の改正によって一定数の人が無戸籍にならず救済されるようになるが、限定的な救済にとどまる。出産時に親が再婚できていたかどうかで戸籍ができずに救われない子どもが生じるのはおかしい」と指摘します。

高取弁護士によりますと、何年も別居するなどして婚姻関係が破綻していてもDVが原因で逃げていたり夫が同意しなかったりして離婚の成立が難しく、母親が再婚できないケースも少なくないということです。

高取弁護士は「離婚や再婚が一般的な現代で無戸籍は特殊な問題ではない。子どものときはなんとかなっても、大人になると就職や結婚でさまざまな不都合が生じて、人生の選択肢が極端に狭まる。一刻も早い救済が必要だ」と話しています。

そして、子どもの戸籍を母親のみの手続きで作れるようにすることや、夫や前の夫を相手方にしない裁判手続きを設けること、記憶喪失の人や親がいない子どもの救済手段として使われる「就籍」という手続きを無戸籍の人が広く使えるようにすることなどを提言しています。

「懲戒権」は削除へ

一方、要綱案には、親が教育や監護を目的に子どもを懲戒することができる「懲戒権」について、児童虐待を正当化する口実に使われるケースがあることなどから、規定を削除することも盛り込まれました。

そのうえで、教育や監護にあたっては、子どもの人格を尊重するとともに年齢と発達の程度に配慮しなければならず、体罰などの心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないとする規律を設けるとしています。
しつけと称した虐待で子どもが亡くなる事件が相次いだことを踏まえ、おととし4月に改正児童虐待防止法が施行され、親がしつけにあたって子どもに体罰を加えることが禁止されました。

さらに、監護や教育に必要な範囲内で親が子どもを懲戒できるとする民法の「懲戒権」についても、改正法の施行後2年をめどに見直すことが盛り込まれ、法務大臣の諮問機関である法制審議会の部会で議論が進められてきました。

懲戒権の規定の削除は12年前(2010年)にも部会で議論され、本来、必要なしつけができなくなるおそれがあるなどと反対する意見もあり、結果として見送られていましたが児童相談所からは削除を求める声が出ていました。
法制審議会の部会で委員を務めた、早稲田大学の棚村教授は懲戒権について「児童虐待が非常に増える中、欧米の国々と同じように『懲戒権』ということばを民法の規定からなくして、子どもの人格を尊重し、体罰やそのほかの有害な行為も禁止するという態度を示すことで、子どもを守ろうという雰囲気が社会全体に広がることが大きなねらいだ」と説明しています。

支援するNPO代表は見直しを歓迎

子育て中の親の相談に応じるなど支援に取り組んでいる東京 世田谷区のNPO法人、「せたがや子育てネット」代表の松田妙子さんは「『懲戒権』は親に懲戒する権利があるような誤解を招くことばでずっと違和感を持っていた。また、『親としてしっかりしつけなさい』という社会からの圧力のようなものを感じることもあった」として今回の見直しの動きを歓迎しています。

そのうえで「ただ法律だけが変わっても意味がない。今回はあくまでスタートで、どう周知してみんなに理解してもらい、生かしていくかが大変になるのではないか」と指摘しました。