【詳しく】オミクロン株急増で何が 世界の対応は 必要な対策は

オミクロン株の急拡大で連日過去最多の感染者数を更新している日本。3回目のワクチン接種が進まない中、高齢者、そして子どもたちにも感染が広がり、影響が日に日に大きくなっています。

去年11月下旬にWHO=世界保健機関が「懸念される変異株」に指定したオミクロン株による感染は、その後、世界各地で急増しています。日本より早くオミクロン株の急拡大に見舞われた国では何が起き、どう対処したのか。どのような対策で乗り切ろうとしているのか。
詳しく解説します。

(ヨーロッパ総局・古山彰子/エルサレム支局・曽我太一)

オミクロン株各地で急増 その実態は?

アメリカで1日に報告される感染者の数が一時、100万人を超えるなど、オミクロン株は世界中で猛威を振るい、新型コロナの感染者数は世界各地で急増しています。

その中でも、100万人当たりの1日の感染者数(7日間平均)で見るとアメリカを大幅に上回るペースで増えているのが、フランス、そしてイスラエルです。

1月26日時点でアメリカが100万人当たり1834人なのに対し、フランスはおよそ3倍の5418人、イスラエルは8672人と5倍近くにまでなっています。

オミクロン株感染力どれぐらい強い?

古山(ヨーロッパ総局):
フランスではことしに入って1日の感染者数が30万人を超える日が相次ぎ、1月25日には初めて50万人を超えました。デルタ株の感染が広がった去年8月の感染者数の平均が1日当たりおよそ2万人だったことを考えると、オミクロン株の感染拡大のスピードは格段に違います。

年末以降、私の友人や取材先でも常に誰かしら感染しているといった状態が続いています。

曽我(エルサレム支局):
人口900万人余りのイスラエルでも1月はじめに1日当たり5000人だった新規の感染者数が2週間後には5万人を超え、1月17日以降は連日7万人を超えるなど、驚異的なスピードで感染が拡大しています。

オミクロン株急増にどう対応?

古山:何十万人と感染者が出ているフランスですが、現在、外出制限のほか、飲食店などの営業時間の制限は行われていません。以前は厳しい外出制限や違反者への罰金を設けていた時期もありましたが、今回はそうした規制はなく、ルーブル美術館やエッフェル塔などの周りには観光客の姿もみられます。
曽我:イスラエルでも、いわゆる「ロックダウン」のような厳しい制限は行っていません。ワクチンの接種証明や陰性証明があれば、レストランなどを利用することもできます。

また、濃厚接触者になっても、ワクチン接種の有効期限内で検査の結果が陰性であれば、隔離の必要はなく、普通の生活を送ることができるのです。

なぜ厳しい対策を行わないの?

曽我:それは経済への影響を避けたいからです。

ただ、今回それを可能にしている背景には、デルタ株のときと比べても重症患者や死者の数の割合が少ないことがあります。イスラエルでは1月26日時点の重症患者は915人でデルタ株のピーク時を100人余り上回っていますが、そもそも現在の1日の感染者数はおよそ7倍です。つまり割合にすれば、7分の1程度にとどまっていることになります。

さらに死者の数も現在1日当たり20人前後と、デルタ株のときよりも少なくなっています。
古山:フランスでも重症化して入院している人や死者の数自体はデルタ株のときを上回りますが、感染者数自体が20倍、30倍となっているため、割合で見ると大幅に低くなっています。

フランス政府は、新型コロナウイルスの感染拡大が始まったおととしなどには、営業できる店舗を限定し、外出も自宅から半径1キロ以内に制限するなど、極めて厳しい措置をとりました。その結果、経済が落ち込み国民からは不満の声が続出したのです。

今は、以前ほど病床もひっ迫しておらず、マクロン大統領としても大統領選挙を4月に控える中、これ以上、国民の痛みを伴う措置はとりたくないというのが本音だと思います。

対策が厳しくなくても問題はないの?

古山:影響は出ています。感染者の急増とともに隔離対象となる人が相次ぎ、人手不足の問題が表面化しています。鉄道は運行本数を減らし飲食店の中には休業に追い込まれる店が出ています。

そして、大きな影響が出ているのが学校です。子どもたちの間で感染が急増し、フランスでは1月21日時点で全国で1万8000余りの学級が閉鎖となっています。

曽我:イスラエルでもオミクロン株の急拡大で、隔離措置の対象となった子ども(5歳から11歳)の数は1月15日時点で1万1000人を超え、12月上旬と比べるとおよそ4倍に増えました。

教師が隔離措置となって授業がなかなか進められないといったケースも相次いでいます。

学校への影響 どう対応しているの?

曽我:イスラエル政府は濃厚接触者の隔離措置の見直しで対応しようとしています。

学校現場だけではありませんが、濃厚接触者になった場合、イスラエルでは10日間の隔離措置が義務づけられていました。しかし、オミクロン株の急増を受け、1月に入ってから7日に短縮され、さらに5日になりました。学校については5日間の隔離措置でも影響が大きいとして、子どもの隔離措置は免除してもいいのではないかといった案まで出てきています。

古山:フランス政府の対応は二転三転しています。もともと、小学校ではクラスの中に感染者が出た場合、学級閉鎖するという措置をとっていました。

しかし、閉鎖する学級が相次ぐ中、1月からはほかのクラスメートが全員検査を受けて陰性であれば登校してもよいとガイドラインを変更しました。
しかし、その後もガイドラインは頻繁に変更され、政府の対応を批判する教師によるストライキやデモも起きています。

デモに参加した教師は「変更の詳しい内容も分からないまま出勤せざるをえず、保護者から質問攻めにあっている」などと不満を口にしました。

どうやってオミクロン株を押さえ込もうとしているの?

古山:フランス政府の対策の柱は“ワクチン接種”です。

フランスでは1月26日時点で78.3%の人が2回目のワクチン接種を終えていますが、接種を拒む市民も一定数います。政府は重症化する人の多くはワクチンを接種していない人だと指摘し、1月24日からはすべての人に飲食店などを利用する際、接種証明の提示を義務づけました。
この政府の方針に対して、「選択の自由を奪うものだ」として全国でデモが行われるなど反発もあります。

マクロン大統領は「ワクチンを接種しない人をうんざりさせたい。徹底的にやる」とまで述べ、あくまでもワクチン接種を進めようとしています。
曽我:イスラエルは4回目のワクチン接種を進めています。

20歳以下の人口が全体の3分の1を占めるなど、高齢者の割合が少ないイスラエルですが、すでに全人口の47.7%(1月26日時点)が3回目の接種を終え、4回目の接種も26日までに高齢者を中心におよそ61万人が終えました。そのうえで、イスラエル政府が対策の柱としているのが、検査による感染者の早期特定です。

イスラエルでは街のいたるところに簡易の検査会場が設けられ、1日に40万件以上の検査が行われています。これは1日で全人口のおよそ4%が検査をしている計算になり、私の周りでも毎日誰かしらが検査を受けています。

また、子ども1人につき検査キット3つを無料で配布することを決めるなど、ワクチンを接種していない子どもの対策も進めています。

オミクロン株いま必要な対策は?

古山:フランス政府も、オミクロン株による重症化を防ぐのに有効だとされている3回目のワクチン接種を重視しています。2回目接種終了後3か月で3回目のワクチンを打つことを認めたこともあり、26日時点で全人口の51.5%が3回目の接種を済ませました。

連日、数十万人の感染者が出る中、市民の間では周りに感染者が出ても批判するのではなくいたわることばを掛け合うのが日常の風景になっています。専門家が2月以降、感染者数が減っていくとの見通しを示す中、政府もテレワークなどの規制を段階的に緩和していく方針を示しています。
曽我:イスラエルではまだ感染拡大が収まる気配はありませんが、これだけ感染が広がると、マスクの着用や在宅勤務といった基本的な感染予防をしている人でも感染するケースがあり、大切なのはいかに感染を広げないための対策をとるかだと感じます。

イスラエルでは、感染者数の増加だけにとらわれるのではなく、普通の生活をしながらも経済活動を維持する方法が模索されています。