高校生読書体験記コンクール「聾」の生徒の作品が最優秀の賞に

全国から8万を超える応募があった高校生の読書体験記のコンクールで、耳が聞こえない「聾」の生徒の作品が最優秀の賞に選ばれました。自分と異なる人を排除するのではなく、尊重し合うことの大切さを訴え、選考に当たった作家などから高い評価を受けています。

コンクールは、出版社などで作る「一ツ橋文芸教育振興会」が読書を通じて起きた内面や行動の変化について、高校生から体験記を募るもので、全国から8万3500余りの作品が寄せられました。

選考の結果、最優秀の文部科学大臣賞に千葉県市川市にある筑波大学附属聴覚特別支援学校3年の奥田桂世さんの作品、「聾者は障害者か?」が選ばれました。

作品には、「聾者」の奥田さんが脳科学者の中野信子さんと漫画家のヤマザキマリさんの共著、「生贄探し 暴走する脳」を読んで考察したことが記されています。

この中で奥田さんは「聾者」について、手話という独自の言語を使い、視覚や触覚を重視した生活を送る「少数民族」のようなもので、自分自身、誇りを持っているとしました。

一方で耳の聞こえる健聴者を中心とした社会が自分たちを「障害者」と名付けていることについて、「異なる人間を『異質なもの』として敬遠したり排除したりすることを『ヒトの脳はそういうもの』と当然のように考えて放置していたら、私たちの未来は明るくない。異なった文化を持っていても、異質であっても、何であっても、この世界に生きていることをお互いに受け入れる、尊重し合う姿勢が必要だ」とつづっています。

作品について選考委員からは、「読む前と読んだあとでは世界の見え方が変わる」などと高い評価が寄せられました。

今回の受賞について奥田さんは手話で、「驚きのほうが大きかったのですが、自分の思いを多くの人々に伝えることができたのだと思うと、うれしくなりました」と話していました。

奥田さん「耳の聞こえない人たちの力になりたい」

今回の「全国高校生読書体験記コンクール」には全国から449校が参加し、応募は8万3500余りに上りました。

この中から最も優れた作品に贈られる文部科学大臣賞に奥田桂世さんの「聾者は障害者か?」が選ばれました。

表彰式は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で中止となりましたが、奥田さんはオンラインでの取材に手話で応じました。

奥田さんは生まれたときから耳が聞こえず、両親や祖父母も「聾者」です。

コミュニケーションには「聾者」どうしが使うという手話を主に使ってきましたが、日本語をそのまま手話にしたものとは違うため、奥田さんは「日本語とは異なる独特の語順や文法が存在する全く別の言語を、第一言語として身につけた」としています。

低学年のころまでは日本語の読み書きを十分にはできなかったということですが、漫画に親しむことで徐々に分かるようになっていったといいます。

奥田さんは、「小学3年生か4年生のころから漫画にはまり始め、何回も読み返しました。それによって家や学校で教えられた日本語が漫画のセリフと結び付き、意味を理解できるようになりました。苦労よりも楽しいという思いのほうが大きく、漫画は私にとって『日本語の教科書』と言える存在です」と話しました。

受賞した作品は、学校の夏休みの課題として書いたものだということで、「もともと作文は得意ではなく、そんな私が受賞できるとは思いませんでした。ただ、自分の思いを多くの人に伝えることができたのだとうれしくなりました」と話しました。

奥田さんは、「多様性」ということばが日常的に使われようになった一方で、以前より少なくなってはいるものの障害者を敬遠したり排除したりする風潮は残っていると感じていたといいます。

このため、「さまざまな人が存在するこの世界で生きるからには、当然うまく分かり合えない状況が生まれます。この難しい状況こそを『障害』と呼ぶべきなのではないでしょうか。誰が『障害』なのかを決めつけていたらきりがありません。『聾者』に限らず、体の不自由な人が健常者もできないようなことを成し遂げることもあります。それぞれの個性を認め、自分と異なる人をお互いに尊重できるような社会が『多様性』のある社会だと思っています」と話していました。

高校卒業後は大学に進学して社会学や心理学などを学ぶ予定だということで、「耳の聞こえない人がコンプレックスを感じることは多くあると思うので、そうした人たちの力になりたい。将来は自分の考えを発信しながら人と関われるような仕事に就くことができれば」と今後の抱負を述べました。

選考委員らから高い評価「ぜひ多くの人に」

選考委員の1人で歌人の穂村弘さんはオンラインで取材に応じ、奥田桂世さんの作品について「自分の中で長年、深く考え抜いてきたことが読んだ本に触発されて文章になったという印象を受けました。読む前とあとでは、世界の見え方が変わるような力がありました」と述べました。

また、奥田さんが「聾者」について、手話という独自の言語を使い、視覚や触覚を重視した生活を送る「少数民族」のようなものだと表現したことについて、「インパクトのある文章で驚きがあった。数が多いか少ないかというだけのことで、上だとか下だとか、普通かどうかという線引きは一切ないということが直感的に伝わる表現で、すばらしいと思った」と高く評価しました。

そのうえで、「単純な異議申し立てのような文章ではなく、とてもクリエーティブで大きな魅力を感じた。ぜひ多くの人に読んでもらいたい」と話していました。

選考会では、ほかの委員からも「斬新で、それまでの世界観を一新させられるような“英知”に出会うことがある。奥田桂世さんの文章はそのような“英知”にみちている」、「限られた文字数のなかで、世界が揺らぎ反転し、深く考えるという体験を読む側にさせてくれる、柔軟でありながら強固な体験記だ」などと、高い評価が寄せられたということです。