核兵器禁止条約発効から1年 核軍縮は停滞 会議での議論が焦点

核兵器の開発や保有、使用などを禁止する核兵器禁止条約が発効して、22日で1年となりました。
核兵器の保有国などは条約に反対していますが、ことし3月に予定されている初めての締約国会議にオブザーバーとして参加する意向を示す国は増えていて、核軍縮が停滞するなか、会議でどのような議論が交わされるのかが焦点になります。

核兵器禁止条約は、核兵器の使用は非人道的で国際法に反するとして、開発、製造、保有、使用を禁じる初めての国際条約で、2017年に国連で採択され、50の国と地域の批准をもって、去年1月22日に発効しました。

条約には、これまでに86の国と地域が参加の意思を示す署名を行い、批准の手続きを終えた国と地域は、この1年で9増えて59になりました。

一方で、アメリカやロシア、中国などの核保有国や、アメリカの核の傘のもとにあるNATO=北大西洋条約機構の加盟国や日本などは、条約に参加していません。
こうした中、条約の初めての締約国会議が、ことし3月にオーストリアの首都ウィーンで開かれる予定です。

会議には条約を批准していない9か国も、オブザーバーとして参加すると国連に正式に通知しているほか、NATO加盟国のドイツやノルウェーもオブザーバーとして参加する意向を示していて、今後こうした国がさらに増える可能性があります。

世界の核軍縮をめぐっては、NPT=核拡散防止条約の再検討会議が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で再三延期され、核軍縮の交渉が停滞するなか、核兵器禁止条約の締約国会議でどのような議論が交わされるのかが、焦点になります。

世界の核弾頭の総数は1万3000発余り

世界の軍事情勢を分析するスウェーデンの研究機関が去年6月に発表した(2021年)報告書によりますと、各国が保有する核弾頭の総数は1万3000発余りと、前の年よりおよそ300発減少している一方で、ロシアとアメリカを中心に実戦用の配備数が増加しているなどとして、各国が核戦力を近代化し拡大していると指摘しています。

世界の軍事情勢を分析するスウェーデンのストックホルム国際平和研究所の年次報告書によりますと、各国が保有する核弾頭の総数は去年1月時点で(2021)1万3080発と推定され、前年の推計から320発減少しました。

国別では
▽最も多いロシアが6255発と前年より120発減り、
▽アメリカは5550発と250発減った一方、
▽中国は350発と30発増え、
▽フランスは290発と前年と同じ、
▽イギリスは225発で10発増えたとしています。

▽6番目はパキスタンの165発、
▽7番目はインドの156発、
▽8番目はイスラエルの90発となっています。

また北朝鮮は前の年から10発程度増え、40発から50発を保有しているのではないかと分析しています。

そのうえで報告書は、核弾頭の総数が減少した理由として、全体のおよそ9割を保有するアメリカとロシアが老朽化した弾頭の解体を進めたことを挙げています。

一方で、ミサイルに搭載されているなど実戦用に配備された核弾頭数は前の年の3720発から3825発に増えたということです。

またアメリカとロシアが核弾頭やミサイル、それに製造設備を最新型に更新するなど核戦力の近代化を進めているとして、
▽ロシアが迎撃がより難しいとされるミサイルを増強し、
▽アメリカも「低出力核」と呼ばれる威力を抑えた核弾頭を搭載した弾道ミサイルの配備などを進めているとして「米ロの安全保障戦略において核兵器がより重視されている」と指摘しています。

また、
▽イギリスが去年、核弾頭の保有数の上限を180発から260発に引き上げ、「核軍縮の政策を転換した」としているほか、
▽中国、インド、パキスタン、それに北朝鮮の核戦力が近代化や拡大化の傾向にあると分析しています。

核保有国の動き

核保有国のアメリカ、ロシア、中国、フランス、イギリスの5か国は1月3日、共同声明を発表し「核戦争に勝者はおらず、決して戦ってはならない」として、外交的なアプローチで衝突の防止に努め、核の拡散防止や核軍縮に取り組む姿勢を強調しました。

その一方で共同声明は、現状では防衛や抑止のために核兵器を保有しているとして、核兵器禁止条約にも言及していません。

世界のほとんどの核弾頭を保有しているとされるアメリカとロシアは、核弾頭の数を減らす一方、運搬するミサイル技術の向上を図るなど「核兵器の近代化」を進めていると指摘されています。

また、中国も急速に核軍備を進めていて、アメリカ国防総省は去年11月に公表した報告書で、2030年までに少なくとも1000発の核弾頭の保有を目指している可能性があると分析しています。

一方、北朝鮮も2021年に示した「国防5か年計画」で核・ミサイル開発を推し進める姿勢を鮮明にしています。

北朝鮮はことしに入りすでに4回、合わせて6発のミサイルを日本海に向けて発射し、国連の安全保障理事会でも緊急の会合が繰り返し開かれ、アメリカや日本などが強い懸念を表明する共同声明を出しています。

交渉会議の元議長「透明性を確保して核軍縮を」

条約の交渉会議の議長を務めたコスタリカの外交官、エレイン・ホワイト氏がNHKのインタビューに応じ、核の脅威は世界でさらに高まっているという認識を示し「核保有国は、透明性を確保して核軍縮を進める必要がある」と指摘しました。

核兵器禁止条約は、核兵器の使用は非人道的で国際法に反するとして開発、製造、保有、使用を禁じるもので、122の国と地域が賛成して2017年に国連で採択され、このとき議長を務めたのがコスタリカの外交官、エレイン・ホワイト氏でした。

その後、条約は、50の国と地域の批准という要件を満たして去年1月に発効しました。

ホワイト氏はまず、核保有国の核弾頭の削減が進まず、核兵器の近代化も進み、より核の脅威が高まっているとして重大な懸念を示し「核保有国は透明性を確保し、もっと建設的な対話をして核軍縮を進めなければならない」と指摘しました。

さらに、ホワイト大使は「今後、批准国を増やして条約への支持をさらに広げ、核保有国が核軍縮を進めざるをえない道筋を作っていきたい」と述べました。

そして、ことし3月に予定されている初めての締約国会議に向けて、ホワイト氏は、この条約に署名、批准していない日本に対し「唯一の被爆国として核廃絶に向けさらに踏み込んで役割を果たしてほしい」として、オブザーバーとしての参加に期待を示しました。

ICAN事務局長 日本のオブザーバー参加に期待

核兵器禁止条約の成立に貢献しノーベル平和賞を受賞した国際NGOのICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのフィン事務局長は、NHKのインタビューで、条約の発効から1年を迎えたことについて「条約が核軍縮にもたらした変化や影響について考える機会となる、とても喜ばしい日だ。条約を批准する国が増え、規範がより強力になり前進していると感じる」と述べました。

一方で核兵器をめぐる国際情勢について「核保有国は核兵器の近代化を進め、イギリスや中国は核弾頭数を増強し、中国とアメリカの緊張はインド太平洋地域全体を新たな『冷戦』に巻き込もうとしていて、極めて危険な状況だ」と強い懸念を示したうえで、各地で緊張が高まる今こそ核兵器の廃絶に向けて世界が取り組むべきだという考えを示しました。

またフィン事務局長は、ことし3月に予定されている核兵器禁止条約の初めての締約国会議について「核実験の被害者などの支援について具体的な議論が行われる見通しで、日本政府はこの分野で高度で専門的な知識を持っている。日本の知見は条約に貢献できる」と述べ、日本がオブザーバーとして参加することに強い期待を示しました。

締約国会議の議長「日本は貢献できること多い」

ことし3月22日から3日間にわたってオーストリアの首都ウィーンで開かれる予定の、核兵器禁止条約の初めての締約国会議では、条約の成立に向け主導的な役割を担ったオーストリア外務省のクメント軍縮軍備管理局長が議長を務めます。

条約の発効から1年に合わせてNHKのインタビューに応じたクメント氏は、締約国会議について「新しい条約が今後向かう方向性を決める大切な会議だ。条約の手続きの規則や被ばく者の支援に加え、条約をまだ批准していない国を取り込んでいくには何が最善の方法か、意思決定をしたい」と述べました。

またクメント氏は、締約国会議に先立つ3月21日に、オーストリアが主催して核兵器の非人道性を話し合う国際会議を開き、最新の研究に基づいて核兵器の使用がもたらす人道上のリスクについて議論し、締約国会議での議論にも反映させたいとしています。

締約国会議をめぐっては、条約を批准していない9か国もオブザーバーとして参加すると国連に通知しているほか、アメリカの核抑止力に頼るNATO=北大西洋条約機構の加盟国のドイツとノルウェーも、参加する意向を示しています。

これについてクメント氏は「極めて重要で歓迎すべきステップだ」と述べ、会議にオブザーバーとして参加する国は意思決定には関われないものの、発言の機会を与えられ議論に参加できるとしています。

そのうえで日本について「会議に参加するかどうかは日本政府が決めることだが、締約国は条約を批准していない国にも会議に貢献してほしいと考えている。原爆の被害を実際に受けた日本は会議に貢献できることが多くあり、参加を歓迎したい」と述べ、唯一の戦争被爆国として被爆者支援などの知見を持つ日本の参加に期待を示しました。

一方でクメント氏は、世界で新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、締約国会議を予定どおり3月に開催できるかどうかは依然として流動的だとして、今月中に結論を出したいという考えを示しました。

専門家 「日本は核軍縮や廃絶に向けた議論主導を」

軍備管理・軍縮に詳しい一橋大学大学院の秋山信将教授は日本が中国や北朝鮮の核の脅威にさらされる厳しい状況の中でも、唯一の戦争被爆国として核軍縮や廃絶に向けた議論を主導していくべきだと、強調しています。

NHKの取材に対して秋山教授は「核軍縮を進めていく環境が年々厳しくなっている現実があるからといって、取り組まない理由にはならない。軍備管理や地域の安定について考え、どう核の脅威を削減できるかを政府や研究者、そして市民社会といったさまざまなレベルで議論しないといけない」と述べました。

そのうえで「核の脅威を抑えつつ、安全保障や核の削減の在り方を探る取り組みを粘り強く続け、多国間の対話など今できることを着実に進めていく必要がある」と述べ、NPT=核拡散防止条約や核兵器禁止条約など、核軍縮に向けた国際的な取り決めや枠組みを強化していくために、日本がさまざまな場を通じて貢献していく重要性を訴えました。