子どもへのワクチン接種 対象を5歳以上に拡大 承認方針を決定

新型コロナウイルスワクチンの接種について厚生労働省は5歳から11歳までの子どもも対象に加える方針を決定し、21日にも正式に承認する見通しです。

子どもへの接種をめぐっては去年5月に接種の対象が12歳以上になり、11月には5歳から11歳までも対象に加えるようファイザーから承認の申請が行われました。

厚生労働省は20日夜、専門家でつくる部会で検討した結果、ワクチンの有効性や安全性が確認できたとして申請を承認する方針を決定しました。

21日にも正式に承認する見通しです。

現在、日本で承認されているワクチンの対象年齢は、
▼モデルナが12歳以上、
▼アストラゼネカが原則40歳以上となっていて、
12歳に満たない子どもの接種が承認されるのは初めてです。

厚生労働省は5歳から11歳への接種を3月以降に開始することを想定していて、来週26日に専門家でつくる分科会を開き接種をどのように進めるか検討することにしています。

5歳から11歳を対象にしたワクチンの特徴は

5歳から11歳を対象にしたワクチンは、同じファイザーが開発した「mRNAワクチン」と呼ばれるタイプのものですが、12歳以上を対象にしたこれまでのワクチンに比べて、1回に接種する有効成分の量が3分の1になります。

このため厚生労働省は自治体に対して、別の種類のワクチンとして取り扱うよう求めています。

▽見た目

取り違えを防ぐため容器のふたの色も違います。

12歳以上は紫色、5歳以上はオレンジ色です。

▽接種方法

接種の際も注意が必要です。

接種前にはバイアルと呼ばれる容器に生理食塩液を入れて希釈しますが、12歳以上では0.45ミリリットルの薬液に対して1.8ミリリットルの生理食塩液で、5歳以上は1.3ミリリットルの薬液を同じ1.3ミリリットルの生理食塩液で薄めます。

また、1つの容器で接種できる回数は12歳以上が6回なのに対し、5歳以上は10回となっています。

▽接種間隔・回数

接種の間隔はどちらも同じ3週間です。

接種回数は5歳から17歳までが2回で、18歳以上では3回目の接種も認められています。
▽効果

厚生労働省によりますと、アメリカなどで5歳から11歳の2000人余りが参加して行われた臨床研究では、2回目の接種後7日以上たった人に対する発症予防効果が90.7%だったと報告されています。

ただし、いずれもオミクロン株の感染が拡大する前のデータで、ファイザーはオミクロン株に対する有効性は評価中だとしています。

▽副反応

副反応については、接種を受けた5歳から11歳の子どもの多くが軽度から中等度で、症状が持続した期間は1日から2日だったとしています。

また、アメリカのCDC=疾病対策センターが、接種を受けた人から直接、健康状態の報告を受ける「v-safe」という仕組みで去年11月から12月にかけて調査した結果、5歳から11歳の4万1000人余りのうち、「登校できない」という子どもは1、2回目ともに10%前後で、医療行為が必要だった子どもはおよそ1%だったとしています。

保護者「ワクチン接種の情報が少ない」

5歳から11歳の子どものワクチン接種について、保護者からは「子どもの情報が少ない」や「情報が氾濫し何を信じてよいかわからない」といった意見が聞かれました。

5歳の男の子の母親は「海外でも子どもへの接種が進み安全性は証明されつつあると思うので、後遺症や重症化した場合を考えるとできれば打たせたいです。ただ、対象年齢の最年少なので副反応などの不安もあります。情報が少ないので、かかりつけの医師に聞いたり実際に接種した人の話も聞いて最終的に判断したいです」と話していました。
5歳の女の子の母親は「子どもの接種が気になってインターネットをずっと調べていますが、何を信じたらよいか分からなくなり不安です。自分の接種は怖くなかったのですが、子どもに接種させることは怖いと感じてしまいます。今のオミクロン株の話を聞くかぎりでは打たせたくないと思います」と話していました。

専門家「子どもも親も納得して進めて」

小児科医でワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は、5歳から11歳への新型コロナウイルスワクチンの必要性について「これまでこの年齢層には接種できるワクチンがなく、無防備の状態で社会に出ていたので、予防の手段、選択肢ができるのはよいことだ」と話しています。

中山特任教授は、子どもたちが接種するメリットについて「社会全体で感染が拡大していて、子どもたちの間でも感染が増えるのは当然だ。塾や学童保育、お稽古事など、不特定多数が密に集まる場面での感染事例は実際に起きている。感染して隔離されると子どもにとって大きな負担で、接種のメリットはある」と述べました。

一方、子どもは、新型コロナに感染しても重症化する子どもが少ないことを踏まえ、子どものワクチン接種をどう考えるかについては「どの子が感染してどの子が重症化するか事前に特定はできず、ワクチンを接種して備えるのは大切なことだ。オミクロン株は上気道、鼻やのどで増えると言われていて、子どもはたんを出しにくかったり、気道が小さかったりして、激しくせきこんだり呼吸困難になったりすることも考えられる。子どもにとっての上気道の感染症は侮ってはいけない」と指摘しました。

そのうえで「子どもでも5歳から11歳だと、ある程度ワクチンについて理解することができる。親が何も言わずに接種会場に連れて行くとパニックになる可能性もあり、あらかじめ親子でワクチンについて理解して接種することが大切だ。ワクチンを受けることのメリットとデメリット、副反応をよく考えて、子どもも親も納得して進めなければならない」と述べました。

効果や安全性は

新型コロナウイルスのワクチンを5歳から11歳に対して接種した臨床試験では、発症を防ぐ効果は90.7%で、接種後に出た症状もおおむね軽度から中程度で安全だとしています。

ファイザーなどの研究グループがまとめた臨床試験の結果は、去年11月、国際的な医学雑誌「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に掲載されました。
それによりますと、臨床試験にはアメリカやフィンランドなど4か国の5歳から11歳の子ども2200人余りが参加し、大人のワクチンに含まれる3分の1の量、10マイクログラムを3週間空けて2回接種する1500人余りと、ワクチンに似せた物質、プラセボを投与する750人とで効果や安全性を確認しました。

その結果、ワクチンを接種することで、
▽中和抗体の値は16歳から25歳にワクチンを接種したときと同じ水準まで上昇し、
▽2回の接種を受けてから7日以上たったあと新型コロナウイルスに感染し発症した人の数は、ワクチンを接種した人で3人プラセボを投与した人で16人で、発症を防ぐ効果は90.7%だったとしています。

接種後には接種した部位の痛みや倦怠感など、症状が出たケースが報告されていますが、ほとんどは1日から2日ほどで収まり、軽度から中程度だったとしています。
具体的な症状は、
▽接種した部位の痛みが1回目の接種後で74%、2回目の接種後で71%、
▽けん怠感が1回目で34%、2回目で39%、
▽頭痛が1回目で22%、2回目で28%、
▽接種部位の赤みが1回目で15%、2回目で19%、
▽接種部位の腫れが1回目で10%、2回目で15%、
▽筋肉痛が1回目で9%、2回目で12%、
▽寒気が1回目で5%、2回目で10%、
▽38度以上の発熱が1回目で3%、2回目で7%などでした。

解熱剤を服用した人は、1回目で14%、2回目で20%だったということです。

また、症例が少ないとしながらも、心筋炎や心膜炎は確認されていないとしています。

重症化を防ぐ効果 12歳~18歳の調査では

アメリカのCDC=疾病対策センターなどの研究グループは今月、医学雑誌の「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」に12歳から18歳までの世代でワクチンが重症化を防ぐ効果についての調査結果を発表しました。
調査では、アメリカで去年7月から10月にかけて新型コロナウイルスに感染して入院した445人と新型コロナ以外で入院した777人を比較しました。

その結果、新型コロナで入院した445人のうち96%にあたる427人がワクチンを一度も接種していなかったということで、これを元に分析するとワクチンが入院を防ぐ効果は94%になったということです。

さらに、445人うち、ICU=集中治療室で治療を受けた180人を調べたところ、ワクチンを接種済みだったのは2人だけで、ワクチンがICUでの治療が必要になるほど悪化するのを防ぐ効果は98%になりました。

一方で、新型コロナウイルスでは若い世代が感染した場合、まれに全身に炎症が起きる小児多系統炎症性症候群=「MIS-C」と呼ばれる症状が出る場合があることが知られています。

これについて同じCDCなどの研究グループが今月、ワクチンが「MIS-C」を防ぐ効果があるかどうかを調べた調査結果を公表しています。

調査では去年7月から12月にかけて、新型コロナウイルスに感染して「MIS-C」になった入院患者102人を対象にワクチン接種率を調べました。

その結果、「MIS-C」で入院した102人のうち97人はワクチンを接種していなかったということで、ワクチンが「MIS-C」を防ぐ効果を分析すると91%になったということです。

これらの調査を行った研究グループの1人でアメリカ・エモリー大学の紙谷聡助教授は「MIS-Cは全身に症状が出て治療が大変な合併症だ。子どもは軽症や無症状が多いという側面ばかりがクローズアップされがちだが、重症化することもあれば、重い合併症が起きることもある。それらを防ぐことができるのであれば、ワクチンを接種する意義はある」と話しています。

課題1 打ち間違い防ぐ体制づくり

5歳から11歳の子どものワクチン接種は3月以降の開始を想定して自治体や医療機関で準備が進められています。
このうち東京 練馬区では5歳から11歳の子ども、およそ4万2000人が新たに接種の対象となり、医療機関で行う個別接種と、自治体の会場などで行う集団接種を組み合わせて接種を進める方針です。

区が先月、区内のおよそ350の医療機関にアンケートをとったところ、小児科を中心におよそ100の医療機関が接種に協力する見込みだということです。

このうち区内の小児科、内田こどもクリニックでも準備を進めていて、保護者からも接種させたほうがいいのかといった相談が増えているということです。

子どもの接種では大人用のワクチンとの打ち間違いを防ぐ体制をいかにつくるかが課題となっていて、クリニックでは大人用のワクチンと保管場所を変えたうえで、接種の日や時間を完全に分けて対応することを検討しています。

また、廃棄を少なくする工夫も必要で、1瓶当たり10人分の接種ができるため、10の倍数で予約人数を確保することや、急なキャンセルが出た場合、希望する子どもをどう見つけるかも考えておく必要があるといいます。
内田寛医師は「使用する瓶も量も、注射器も大人用とは全く異なるので、別のワクチンとして扱うことが間違いをなくすため重要だ。保護者からの質問も多いが、まだわかっていないことやリスクについても伝え患者に提供していくことが重要だと考えている。子どもの接種は、祖父母と同居しているかや受験があるかといった個別の事情によってもどれくらいメリットを感じられるかが異なるので、かかりつけ医としてそうした点も考慮しながらアドバイスしていきたい」と話しています。
練馬区住民接種担当課の中島祐二課長は「接種を検討する人が判断の材料にしてもらえるよう今後、ホームページなどに11歳以下の接種に関する情報提供をしていきたい。接種を希望する人が3月以降、ミスなく速やかに打てるよう準備を進めたい」としています。

課題2 小児科医が不在

新型コロナウイルスワクチンの5歳から11歳の子どもへの接種について、北海道では小児科医が不在の地域もあり、接種の体制づくりが課題となっています。

子どもへの接種をめぐり、NHKが北海道の道南の18の自治体を調べたところ、3分の2にあたる12の自治体で小児科医が不在、または今後不在になる見通しで中には接種の体制づくりが課題となっているところもあります。
およそ150人の子どもが接種の対象となる知内町では、小児科医がいないため、町内の医療機関に依頼しましたが、子どもの接種について情報が少なく、また、副反応への対応が難しいと言われたいうことです。

また、隣接する木古内町の小児科医に接種を要請しましたが、ほかの自治体の対応までは難しいなどと言われたということです。

知内町に住む、10歳の子どもがいる30代の女性は「接種させる場合は安心のためにもできれば町外のかかりつけ医の小児科医で打ちたいです。副反応やその後の健康に影響が出るのかどうかなど情報が少ないので、少し不安で、まだ迷っています」と話していました。

また5歳と11歳の子どもがいる30代の女性は「接種させる場合、小児科医でなくても相談できるのであれば抵抗はないです。子どもが副反応に耐えられるのかや将来も大丈夫なのか不安ですし、オミクロン株は重症化のリスクが低いと言われているので、そこまでして接種するメリットがあるのかなと感じています」と話していました。
知内町生活福祉課の鳴海英人課長は「地元の診療施設に他の地域から小児科医を呼んで接種体制がとれるかどうかや町外のかかりつけ医で接種できるかなど、これから検討していきたい」と話していました。