大阪 クリニック放火事件 どう進める 被害者側の長期的な支援

大阪のビルでクリニックが放火され巻き込まれた25人が死亡した事件では、専従の警察官らが遺族やけがをした人などの支援にあたっています。発生直後は80人態勢でしたが、現在は縮小していて、長期的な支援をどのように進めていくかが課題となっています。

先月、大阪 北区曽根崎新地のビルに入るクリニックが放火された事件では、巻き込まれた25人が死亡、1人が重体になっていて、警察は事件で死亡した谷本盛雄容疑者(当時61)を殺人と放火の疑いで捜査しています。

大阪府警は被害者支援の講習を受けた専従の警察官らおよそ80人で態勢を組み、事件発生直後から遺族やけがをした人などの支援にあたりました。被害者ごとに担当を決め、2人1組で見舞い金など自治体の支援制度や、刑事手続きの説明をしたり、報道機関への対応などさまざまな相談に応じたりしたほか、心の不調を訴える人にカウンセリングを行う団体を紹介したということです。

ただ、支援の期間は事件発生から1週間がめどとなっていて、現在は縮小しているということです。

大阪府警は要望があれば個別に対応するほか、被害者支援を行うNPO法人への引き継ぎなども行っていますが、長期的な支援をどのように進めていくかが課題となっています。

大阪府警は「引き続き、被害にあった方々に寄り添いながら対応していきたい」としています。

容疑者が死亡した事件は過去にも

事件の容疑者が死亡し、真相を解明できなくなったケースはこれまでにもあります。

平成27年6月、東海道新幹線の車内で、71歳の容疑者がみずからガソリンをかぶって火をつけた事件。巻き込まれた乗客1人が死亡、28人がけがをし、容疑者も現場で死亡しました。

警察によりますと、容疑者は周囲に年金の受給額が少ないことや家賃の支払いに困っていることなどをもらしていたということですが、詳しい動機は明らかになりませんでした。

令和元年の5月、川崎市多摩区の路上でスクールバスを待っていた小学生と保護者が次々と包丁で刺され、2人が死亡、18人が重軽傷を負った事件。

警察などによりますと、現場で自殺を図り死亡した51歳の容疑者は、長年、引きこもり傾向にあったとされ、親族がたびたび自治体に相談していたということです。

事前に凶器を準備し、計画的に事件を起こしたとみられることがわかった一方、親族への聞き取りなどを進めましたが、動機の解明には至りませんでした。

これらの事件は、警察が書類送検し、捜査が終結しています。

長野県での容疑者死亡事件 遺族の思いは

長野県に住む市川武範さん(56)は、おととし、自宅で長女の杏菜さん(当時22)と次男の直人さん(当時16)を暴力団員に殺害されました。

暴力団員はその場で自殺し、警察が殺人などの疑いで書類送検したあと、検察は容疑者死亡で不起訴としています。

容疑者が死亡したことについて、市川さんは「怒りをぶつける相手がいないということと真実を知る機会が得られないという、2点が大きいと思う。(容疑者が)生きていれば怒りをぶつける、あるいはなぜこんなことをしたのかと直接疑問をぶつけられるが、その相手がいないというのが、まず第一に大きい。もし生きていれば、もっとすんなりと早い段階で胸に落とすことができたかもしれないが、本人の口から聞けるのと、想像することしかできない、その差というのはやはり大きいと思う。あくまでも想像するしかできない結論という部分で苦しさはありました。事実や情報を知ることが私にとっては重要で、容疑者本人から聞けない分、立ち直りには時間がかかりました」と話しました。

そのうえで、市川さんにとっては、捜査を尽くしてもらい事件の経緯などを詳しく知ることが大切だったと述べました。

市川さんは「被害者それぞれの性格とか環境、時期もあると思うが、私自身は事実を知らなければ乗り越えられないタイプなので、(事件の経緯などについて)調べ上げたものとか、こうだったのではないかという、答えに近いものが示されるように、警察、検察、行政等も動いていただくことが被害に遭った方々の心を救う道になるのではないかと思う。私が捜査終結の報告を受けて疑問をぶつけたことに対し、警察はすべて答えてくれたので、だんだんと気持ちの整理をつけるという段階に入れたのかもしれない」と話しました。

また、当時、必要だと感じた支援については「やはり寄り添い、支えてくれる人の力が第1に必要だと思う。わかってくれる人がいる、その存在は大きい」と話していました。

遺族支援のNPO法人「途切れない支援が必要」

この事件で遺族の支援を行っている「大阪被害者支援アドボカシーセンター」の事務局長の木村弘子さんは、容疑者が死亡したため事件がなぜ起きたかなどを明らかにする裁判が開かれず、刑事責任を問うこともできなくなり、遺族にとっては、気持ちの区切りとなる場が失われたと指摘します。

木村さんは「遺族にとって、被告に直接質問して意見陳述することは大きな負担で大変なことだが、前を向いて生きていこうというきっかけになることもある。そうした場も失われてしまった」と話しています。

そのうえで、捜査が終われば事件をめぐって遺族と関わる人も少なくなり、自治体や支援団体などからの長期的な支援が必要になるとしています。

木村さんによりますと、発生から1か月がたち、今回の事件の遺族からは家族を失った悲しみや容疑者が死亡したことに対するやるせなさや怒りの声も出ているということで、「書類送検されて捜査が終わったら、そのあとは『支えてくれる人がいない、放っておかれている』と感じる人もいると思う。心のケアなどをして私たちが途切れないように支えていきたい」と話していました。

団体では、被害者や遺族などからの相談を平日の午前10時から午後4時まで受け付けています。電話番号は06-6774-6365です。

大阪府も、警察や被害者支援団体などと連携して情報共有を図り、必要な支援策を検討していくことにしています。

府はこの事件の関係者などからの相談の専用窓口を設けていて、電話番号は06-6697-0877で、平日の午前9時30分から午後5時まで受け付けています。

事件の遺族は国の犯罪被害給付制度により遺族給付金を申請することができ、給付金は被害者の収入や年齢などに応じて支払われることになっています。

犯罪被害者に詳しい弁護士「できるだけ早く精神的ケアを」

犯罪被害者の状況に詳しく、容疑者が死亡した事件で遺族の支援にも携わってきた上谷さくら弁護士は「裁判によって事実が明らかになることは、遺族にとってつらいことでもあるが、一つの区切りになることは間違いない。加害者が生きていれば、裁判に関わるか関わらないか、どちらの選択もできるのに、死んでしまえば選択肢すら無くなってしまい、精神的な面での回復にも、より時間がかかってしまう」と話しています。

今回の事件の遺族に対してこれから必要な対応については、「遺族は事件の直後は起きたことを現実として受け止められないが、そうした時期を過ぎると、大きな悲しみと喪失感が襲ってくる。できるだけ早いタイミングで精神的なケアをすることが重要だ」と指摘しています。