国土交通省統計データ書き換え「無批判に継続」検証委員会
国土交通省が国の統計の中でも特に重要な「基幹統計」のデータを書き換えていた問題で、弁護士などの第三者による検証委員会が報告書をまとめ、以前からの手順に従って黙々と業務をこなすことに疑問を持たなかった結果、不適切な処理が無批判に継続したと考えられると指摘しました。
また、問題を公表してこなかったことについても、「『隠ぺい工作』とまでいうかどうかはともかく、幹部職員が責任追及を回避したいといった意識があったと考えざるを得ない」と、厳しく批判しました。
国の統計の中でも特に重要な「基幹統計」の1つで、建設業の毎月の受注動向などを示す「建設工事受注動態統計」をめぐって、国土交通省は、データを書き換えたり、二重に計上したりするなどの不適切な処理を続けてきたことを先月明らかにしました。
この問題を受けて、弁護士などの第三者による検証委員会は14日、検証結果を報告書にまとめ、斉藤国土交通大臣に提出しました。
報告書では「以前から行われている手順に従って黙々と業務をこなすことに疑問を持たず、その結果、不適切な処理が永年無批判に継続して行われることとなったと考えられる」と指摘しました。
また、
▽データの書き換えについて、開始時期ははっきりしないものの、統計が今の形になった2000年度よりも前から行われていたとしたうえで、
▽二重計上については、2013年度に統計の手法を見直したことで生じたと認定しました。
ただ、当時の担当者の証言などから、いずれも、統計の結果をより大きく見せようという意図があったとは認められないなどとしています。
一方、3年前、「毎月勤労統計」をめぐる厚生労働省の不適切な処理を受けて政府が一斉点検を行った際、国土交通省の当時の担当係長が書き換えを報告するか直属の上司に相談したものの、報告しなくてよいと言われたことを明らかにし、「事なかれ主義の現れ」などと指摘しました。
そして、問題を公表してこなかったことについても、「『隠ぺい工作』とまでいうかどうかはともかく、幹部職員が責任追及を回避したいといった意識があったと考えざるを得ない」と、厳しく批判しました。
報告書は結びに「国土交通省のみならず、政府全体で、省庁横断的かつ抜本的な対策をできるかぎり速やかに立案して実施されることを願っている」と、信頼の回復と再発防止に取り組むよう求めています。
国土交通省は今後、関係者の処分や具体的な再発防止策について検討する方針です。
斉藤国土交通相「信頼回復に向け全力あげて努力」
国のマニュアルと指示メールの内容
マニュアルは「受注動態統計調査調査票審査の手引き」というタイトルで、5年前(平成29年)の5月に都道府県の統計担当者を東京に集めて開かれた研修会の場で配布されたということです。
9枚にわたってまとめられていて、このうち「万が一、複数月で提出されてしまった場合について」と書かれた項目にはすべての調査票の受注高を足し上げ、提出があった月にまとめ、それ以外の月については受注高を空欄にすることなどが指示されていました。
一方、会計検査院がこの問題の調査を始めたあとのおととし1月、国土交通省は全国の都道府県に対して1通のメールを送っていました。
メールのタイトルには「依頼」などと書かれ、本文は数行の箇条書きで「複数枚提出の場合調査票表面受注高は1枚目に合算しない」などと書き換えをやめるよう指示する内容が書かれていました。
一部の県の担当者は「メールの受信を見逃していたため、内容を把握し、書き換えを中止したのは、3か月後になってからだった。重要な連絡だという認識があったならば、もっと丁寧に説明を行うのが筋ではなかったのか」と国土交通省の対応に不信感を募らせています。
“なぜ従ったか” 自治体の説明は
また、一部の県の担当者からは「建設業者から報告された数字を消しゴムで消す作業に疑義を感じていた」などと国の指示に当時、疑問を持っていたという声も聞かれました。
東海地方の県の元幹部「国にあらがいたくてもあらがえない」
また、国土交通省がおととし、データの書き換えを都道府県にやめさせる指示をメールを送って周知したことについては「『こうやれ』と指示しておきながら書き換えの中止もメール1本という国のやり方は不真面目、不誠実で、乱暴だ」と述べ、国の対応を批判しました。
国土交通省の統計問題とは
国土交通省が毎月、公表していて、国の統計の中でも特に重要な「基幹統計」に位置づけられています。
データは「調査票」の形で都道府県を通じて事業者から集めていて、その月の受注額などを翌月10日までに提出するよう求めています。
国土交通省のこれまでの説明によりますと、締め切りに遅れた場合や、数か月分がまとめて提出された場合、その分を提出された月に合算した形でデータを書き換えるよう、都道府県の担当者に指示していたということです。
国土交通省は、こうした指示がいつ、どういう経緯で出されるようになったか、明確には分からないとしていました。
さらに、この書き換えが二重計上という問題にもつながりました。
国土交通省は2013年度、データの新たな処理方法を導入。
期限までに提出がなかった事業者も実績をゼロとはせず、推計の受注額を計上することにしました。
一方で、処理方法の変更以降も、都道府県へのデータ書き換えの指示を撤回しなかったことから、新たに入力されるようになった推計値と、従来行っていた書き換えで合算したデータとを二重で計上していたのです。
こうした取り扱いについて、会計検査院から2019年の11月に不適切だという指摘があり、国土交通省はおととし1月以降、都道府県に書き換えをやめるよう指示したとしています。
ただ、国土交通省は、前の年度と統計の比較ができなくなることを理由に、去年3月分まで国土交通省の職員がみずからデータを合算し、二重計上を続けていました。
松野官房長官「再発防止に取り組むよう首相から指示」
また、記者団からGDP=国内総生産への影響を問われたのに対し「直接の影響はないものと聞いているので、その旨を説明していく」と述べました。
北海道の幹部「国の指示に基づき特段の疑問持たずに作業した」
道によりますと、建設業の毎月の受注動向などを示す統計データについて、業者から複数月の調査票が提出された場合、国の指示に従って直近1か月の受注額に合算して書き換えていたということです。
書き換えは、少なくとも資料が残っている平成28年4月以降、3年8か月の間、行われていたということです。
道建設部の斎藤知郷建設業担当局長は「過去の担当者何人かに聞き取りをしたが、国の指示に基づいて作業し、特段の疑問を持たずに事務処理を行っていた。国の手引きや説明どおりに作業を進めていたので、当時の担当者が疑問を持つことはなかったのだろうと思う」と述べました。
そのうえで「不適切な事務処理は国民の信頼を損ねる、あってはならないことで大変遺憾に思っている。国の統計は大変重要なので信頼回復に努め、再発防止にしっかりと取り組んでほしい」と述べ、第三者による検証委員会の報告書を受けて再発防止に努めるよう求めました。
専門家「すべての省庁で統計専門家 育成する仕組みを」
その上で、「検証委員会の報告書を読んで、改めて思ったのは、統計の重要性に対する認識が不足していることだ。統計は、国の政策を立案・実行するために欠かせないもので、信頼の回復に向けて、国土交通省だけでなく、すべての省庁で統計の専門家を育成する仕組みをつくる必要がある」と指摘しました。