太陽光パネル“大廃棄時代”がやってくる

太陽光パネル“大廃棄時代”がやってくる
再生可能エネルギーの代表的な存在、太陽光発電。
日本の太陽光発電は10年前から急速に拡大し、中国、アメリカに次ぐ世界第3位の規模を誇ります。
ただ、太陽光発電に使われるパネルには寿命があるって知っていますか?その寿命は20年から30年。
迫り来る、太陽光パネルの“大廃棄時代”にどう対応すればいいのでしょうか。
(仙台放送局記者 高垣祐郷)

産廃工場に大量のパネルが…

先月下旬、私は太陽光パネルの廃棄の実態を取材するため、岩手県奥州市にある産業廃棄物の処理工場を訪ねました。

すると、敷地には使用済みの太陽光パネルがぎっしり。

およそ1000枚になるというパネルは、私の身長ほどの高さにまで積み上げられていました。
「これでもだいぶ処分したほうなんですけどね…」

こう話すのは、この会社の取締役、菊地信一さんです。

去年1年間に、会社に運び込まれた太陽光パネルはおよそ3万枚。

その多くは雪の重みなどで破損したものでしたが、なかにはまだ使えそうな状態のパネルも持ち込まれているといいます。
廃棄物処理会社 菊地取締役
「10年くらい前のパネルは発電効率が悪いんです。
日本は発電設備を置ける場所が限られているので、発電効率を上げようとすると、新しいパネルに換えたほうがいいということになるんですよね。
今後、パネルの大量の入れ替えがどんどん出てくるのではないでしょうか」

日本の太陽光発電 10年で20倍以上

日本で太陽光発電が急速に広がったのは、10年前の2012年に導入された、国の「固定価格買取制度」がきっかけでした。

この制度では、太陽光や風力、地熱などの再生可能エネルギーで発電した電気を電力会社が高値で買い取ってくれたため事業者の参入が急拡大。

日本の太陽光発電の累計の導入量はおよそ6000万キロワットと、この10年で20倍以上に増えています。
しかし、屋外で風雨にさらされる太陽光パネルには寿命があります。

耐用年数は20年から30年ほど。

このため2030年代半ば以降、寿命を迎えるパネルが大量に出ると予想されているのです。

環境省は、2040年ごろには現在のおよそ200倍にあたる年間80万トンもの使用済み太陽光パネルが排出されると試算しています。

大廃棄時代 不法投棄のおそれも

迫り来る、太陽光パネルの“大廃棄時代”

太陽光パネルは厳しい自然環境にも耐えられるよう頑丈に作られているため、リサイクルのための分解には手間や費用がかかります。

このため、廃棄する際には多くが埋め立て処分されているとみられています。

ただ、埋め立て処分にも費用がかかるため、発電事業が終わってもそのままパネルを放置したり、不法投棄されたりするおそれがあると指摘されているのです。

国は、太陽光パネルの不法投棄を防ぐため、発電事業者に、電気を売って得た収入の一部を撤去や廃棄の費用として、あらかじめ積み立てるよう義務づける制度をことし7月に始める予定で、同じような制度は、環境への取り組みで先行するヨーロッパでも導入されています。

しかし、環境経済学の専門家は、日本の対策は十分ではないと指摘しています。
中部大学 細田教授
「2018年の時点で日本の太陽光パネルの排出量は4400トン。
国の推計ではこのうち3400トンがリユース、1000トンがリサイクルまたは埋め立て処分されているといわれていますが、実態はよく分かっていません。
国の新たな制度では、リサイクルするか埋め立て処分するか事業者が自由に選べるので、多くの業者がリサイクルより費用がかからない埋め立て処分を選ぶ可能性があります。
ただ、埋め立て処分場の容量には限界があるので、リサイクルが広がらなければ、結局、不法投棄や不正な輸出につながってしまうことが懸念されているのです

太陽光パネルをイチゴの栽培に

こうした中、民間企業の間では、使用済み太陽光パネルのリサイクルを進めようという取り組みが始まっています。
このうち、大手商社の丸紅が宮城県の農業法人と共同で進めているのが、イチゴの栽培に使用済みの太陽光パネルを利用できないかという研究です。
利用するのはパネルに含まれるガラスの部分。
ガラスに貝殻などを混ぜて焼き固め、イチゴの栽培用の土に混ぜ合わせると、土の中に適度な空間ができ、保水性と通気性が高まるといいます。
一般のガラスを使って実験した結果、ガラスを混ぜた土で栽培したほうが、イチゴの苗がよく育つことが確認できました。

このため、商社と農業法人は新年度以降、使用済み太陽光パネルのガラスを使った実験を本格化させることにしています。
丸紅 渡辺さん
「今後の大きな課題はどう収益を上げていくかです。
ビジネスとして成立させるには、まだしばらく時間はかかるんじゃないかと思います。
収益が見込めないビジネスにはほかの事業者の参入も見込めないので、われわれが先陣を切って新しい形で収益を上げる仕組みをいかに作るかが重要になります。
誰かがやらないと循環型ビジネスは始まりません。
辛抱強く取り組んでいきたいと思います」
農業法人GRA 勝部さん
「太陽光発電で出た廃棄物を有効に活用する取り組みには大きな意義があります。
コスト面や効果の分析など、実際に導入するまでには時間がかかりますが、環境に優しい方法で栽培したイチゴを選ぶという流れが消費者側に出てくると、非常に面白くなると期待しています
動き始めた太陽光パネルのリサイクル。

このほか、石油元売り大手の出光興産は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、新年度から、コストや環境負荷を抑えた使用済み太陽光パネルのリサイクル技術の開発を本格化させることにしています。

また、太陽光パネルの販売を手がける岡山県の中小企業はパネルの大部分を熱分解技術でリサイクルする装置を開発し、新年度から商品化することにしています。

専門家はリサイクルを促す法整備と官民が連携する必要性を指摘しています。
中部大学 細田教授
「ことし4月から、プラスチックごみを大量排出する事業者にリサイクル目標を作成するよう求める法律が施行されますが、太陽光パネルも同じように発電事業者がリサイクルを進めるように促す法律を整えることが今後求められると思います。
また、リサイクル製品を扱う市場を育てるため、国による技術開発の支援のほか、民間企業による販売先の開拓など官民連携の取り組みもいっそう重要になります」

太陽光発電 負の部分にも対応を

脱炭素社会の実現に欠かせない再生可能エネルギー。

国は2030年度に国内の電源構成の「36%から38%」を再生可能エネルギーでまかなう計画で、太陽光発電はその担い手として期待されています。

ただ、自然環境や景観が損なわれることへの懸念から、大規模な太陽光発電の建設に住民が反対している地域もあり、太陽光パネルの建設を規制する条例を定める自治体も増えています。

自然に優しいエネルギーといわれる太陽光発電。

真にクリーンなエネルギーとして受け入れられるため、寿命を迎えた太陽光パネルの処理などについて、地に足をつけて議論する時期が来ています。
仙台放送局記者
高垣祐郷
平成26年入局
山口局 秋田局を経て3年前から仙台局で経済担当