日銀短観 旅館やホテルに飲食業 企業の生産活動 各地域では?

日銀が発表した短観=企業短期経済観測調査で、大企業の製造業の景気判断を示す指数は前回と変わらず、横ばいとなった一方、非製造業は緊急事態宣言の解除を受けて宿泊・飲食サービスなどで持ち直しの動きが強まり、プラス9ポイントと大きく改善しました。各地域の景気の現状をまとめました。

函館朝市 観光客戻り始める

北海道函館市の観光名所、函館朝市では新型コロナウイルスの影響で減少していた観光客が戻り始めていて、関係者は年末年始の観光需要などに期待を寄せています。

函館朝市によりますと、緊急事態宣言の期間中は休業する店もありましたが、解除後はほぼすべての店が営業を再開したということです。

海産物などを販売している店の従業員は、「先月ごろから観光客が増えてきました。北海道に住む人向けの割引きも始まったので、この調子で年末年始はもっと観光客が増えてくれるとうれしいです」と話していました。

一方、別の海産物販売店の店長は、「以前に比べるとまだまだ観光客が少ない状況なのでさらなる増加を期待しています」と話していました。
青森県から朝市を訪れた60代の夫婦は「緊急事態宣言の期間中は青森から出ないようにしていましたが、全国の感染者数が減少している今がチャンスだと思い観光に来ました」と話していました。

仙台のホテル 先月から満室の日が続くも…

今後の需要回復を見込んでいた仙台市の温泉街の宿泊施設では、新たな変異ウイルス「オミクロン株」の拡大で先行きに不安を感じています。

仙台市中心部から車で40分ほどの「作並温泉」にあるホテルでは、感染状況が落ち着いたことし10月以降、予約が入り始め、先月からは満室の日が続くようになりました。

年末年始もほぼ予約で埋まっていて、ホテルでは今後も需要の回復が続くとみて、この秋、大規模な改装工事に踏み切りました。
新型コロナで客層の中心が団体から個人や少人数に移ったことを受けて、およそ3200万円かけて、宴会場を個室の食事スペースにつくり替えるほか、仕事をしながら観光も楽しむ「ワーケーション」専用の客室も設ける計画で来年2月に完成する予定です。

ただ、工事にとりかかったばかりのタイミングで新たな変異ウイルス「オミクロン株」が拡大し、先行きに不安を感じているといいます。

「湯の原ホテル」のおかみ、菅原由香里さんは「工事費用も大きいですが、ホテルとしては前に進むしかないので思い切って決断しました。ただ、今後も予約が埋まらないと経営は大変です。オミクロン株の広がりや感染者数の増加が気がかりですが、今の状況が続くよう祈るしかありません」と話していました。

旅行会社 「オミクロン株」で事業計画の修正も

新たな変異ウイルス、「オミクロン株」の影響で旅行業界の中には事業計画の修正を迫られる会社も出ています。
東京 渋谷区の旅行会社「令和トラベル」では、去年の感染拡大後、ツアーの販売を取りやめていましたが、ことし10月に緊急事態宣言が解除されたため、今月からは年末年始の需要も見据えて海外旅行を含めたツアーの販売の開始を予定していました。

しかし「オミクロン株」の拡大で海外旅行から帰国した日本人などは入国後に14日間、自宅などで待機することが必要になったため、会社では一転してツアーの販売をとりやめる判断をしました。

会社では少しでも売り上げを確保するため、海外への渡航の際に必要となるワクチン接種証明書や渡航証明の取得などの手続きを代行するサービスを始めています。

「令和トラベル」の受田宏基 執行役員は、「海外でオミクロン株の感染がさらに拡大すれば、日本からの渡航自体ができなくなってしまうので、私たちの事業を直撃する状況だ。コロナが落ち着き、日本に帰国した際の隔離の条件が緩和されなければ利用者も安心できず、海外旅行の需要は戻らないと思うので、今は我慢の時期だと考えている」と話しています。

居酒屋チェーン 新たな店舗運営を模索

居酒屋チェーンの間では「ウィズコロナ」の時代に合った新たな店舗の運営方法を進める動きが出ています。

全国に110店舗を展開する焼き餃子の居酒屋チェーン「肉汁餃子ダンダダン」では、ことし10月以降、飲食店への時短営業の要請が解除されたことで通常の営業時間に戻しています。

客足は徐々に回復し、忘年会シーズンを前にさらなる売り上げの拡大を見込んでいますが、会社では、新型コロナの感染が再拡大する可能性も見据えてDX=デジタル変革に取り組み店舗の運営方法の見直しを図っています。

新たな変異ウイルス「オミクロン株」の影響も踏まえて今後もテイクアウトの需要が続くと見込んでいて、今月からは店舗の外で利用客がスマートフォンで注文することができるシステムを導入し、店舗内で待たずにすぐに料理を受け取れる取り組みを一部の店舗で始めました。
また、店内でも、メニューなどに多くの人が触れないようにするため、利用客自身のスマホでQRコードを読み取り、注文ができる仕組みも取り入れているということです。

今後、需要が本格的に回復した際にはアルバイトなどの人手不足も課題となることから、AI=人工知能を活用して店舗ごとの利用客の数を予測し、料理に使う食材を自動で発注するシステムも導入しています。

食材の発注業務は、これまで各店舗で1時間以上かかっていたということですが、新たなシステムの導入で不慣れなアルバイト店員でも5分ほどに短縮することができるということです。

会社ではDX化を進めることで、「ウィズコロナ」の時代に対応した新たな店舗の運営方法を進めていきたい考えです。
「肉汁餃子ダンダダン」社長室の大林大輔さんは「オミクロン株については、先行きがわからないので、DX化などの新たな取り組みで備えなければ居酒屋もやっていけない時代になった。コロナ禍で変わったお客様の考え方に合わせて、店の運営方法も見直していきたい」と話しています。

プラスチック加工メーカー 受注はコロナ前の水準に回復も

大阪市内のプラスチック加工メーカーでは、自動車関連などの受注は新型コロナの感染拡大前の水準に回復したものの、原材料価格の高騰が経営の不安材料になっています。
大阪 東成区にある「旭電機化成」は、収納ケースや調理器具といったプラスチック製の日用品を自社で製造・販売しているほか、自動車や医療機器などの部品の製造を請け負っています。

このうち、部品の製造については新型コロナの感染状況が落ち着いてきたことし秋ごろから受注が徐々に回復し始め、足もとではコロナ禍前の水準に戻ってきているということです。

一方、原油価格の高騰を背景に原材料の仕入れ価格が高騰していて、中には、この半年でおよそ2倍まで値上がりした素材もあるということです。さらに、人件費の上昇に伴って工場での加工費用も増えているため、受注が回復しても利益を十分に確保できない状態だといいます。

会社では取引先に対して、原材料価格の上昇分の補填(ほてん)を依頼したり、社内でコスト削減を進めたりしていますが、今のような状況が続くと経営が圧迫されると懸念しています。
「旭電機化成」の原守男 専務は「受注が戻っても原価が上がるので利益は下がっている。簡単に値上げはできないので、いろいろなところでコストダウンを行って耐えていきたい」と話していました。

自動車部品などのメーカー 人手不足が…

広島県の自動車部品などのメーカーでは、取引先の半導体不足が解消されつつあることから生産は感染拡大前の水準まで回復しています。ただ、生産の急速な回復に伴う人手不足や原材料価格の高騰が新たな課題となっています。

ゴムと金属を加工する自動車部品などのメーカー、「モルテン」の北広島町の工場では、半導体不足の影響でことし9月の生産量は、感染拡大前と比べて4割減少しました。しかし、先月から取引先の半導体不足が解消されつつあることから受注が急増し、生産量は感染拡大前の水準まで回復しました。
こうした中、生産の急速な回復に伴って新たな課題となっているが、人手不足です。

ことし4月から工場の減産が続いたため、この期間に仕事を辞める期間従業員が相次ぎ、今の人員は計画よりも1割ほど少ない体制です。会社では採用活動を強化していますが、平日の残業や休日出勤を増やすことで増産に対応せざるをえない状況になっています。

さらに、経営の大きな負担となっているのが原材料価格の高騰です。

ゴムや金属などの仕入れ価格がこの半年間で1割ほど値上がりしたうえ、輸送コストも上昇しています。このため、生産量が増えても思うように収益が上がらない状況が続いているといいます。
モルテン千代田工場の新谷充弘 工場長は、「半導体不足が想定よりも長引いたが、今後の生産回復に期待している。一方で、採用活動を強化してもなかなか人が集まらず、原材料価格の高騰も利益を圧迫している。生産性を改善することで乗り越えていきたい」と話しています。