新たな「着床前検査」 来年4月から実施へ 流産の減少に期待

受精卵の染色体を調べて異常がないものを子宮に戻す「着床前検査」の新たな技術について、日本産科婦人科学会は、流産を減らす効果が期待されるとして、来年4月から、2回以上流産した経験がある夫婦などを対象に、年齢制限は設けず、学会の認定施設で行う方針を決めました。

日本産科婦人科学会は11日、理事会を開き、受精卵の染色体を調べ、異常がないものを子宮に戻す「PGT-A」と呼ばれる着床前検査の新たな技術について議論が行われました。

その結果、来年4月から、体外受精を2回以上連続して行っても妊娠に至らない夫婦や、流産や死産の経験が2回以上ある夫婦を対象に、年齢制限は設けず、全国に100施設余りある学会の認定施設で行うとする方針が了承されました。

実施を決めた理由として、学会は、おととしから臨床研究を行い、流産を減らす効果が期待できるという一定の結論が出て、ルール作りが必要な段階になったなどとしています。

一方で、検査を行うには、体外受精が必要なうえ、受精卵が傷つくなどリスクも伴うことや、誰を対象に行うと最も効果があるのか、世界的にも、まだはっきり分かっていないため、対象を限定したとしています。

記者会見した日本産科婦人科学会の木村正理事長は「子どもを望む人たちにとって、決して夢の技術ではないが、流産で苦しむ人たちにとっては福音になる可能性がある」と話していました。

着床前検査「PGT-A」とは

日本産科婦人科学会によりますと、医療機関で妊娠が確認されたケースのうち、およそ15%は出産に至らず、流産するとされています。

このうち、初期の流産は、受精卵の染色体の異常が原因で起こることが多く、染色体に異常が見つかる割合は女性の年齢が上がるにつれて増えていきます。

「PGT-A」と呼ばれる着床前検査の新たな技術では、体外受精させた受精卵の細胞の一部を採取し、特殊な解析装置を使って染色体を調べて異常がないものを子宮に戻します。

学会はこの技術を使うことで出産に至る率や流産する率に差が出るかどうか、体外受精を2回以上連続して行っても妊娠に至らない夫婦や、流産や死産の経験が2回以上ある夫婦、合わせて4000人余りを対象におととしから臨床研究を行ってきました。

臨床研究では流産を減らす効果がみられた一方、およそ60%のケースでは染色体に異常が見つかったため受精卵を子宮に戻せなかったことから、出産に至った人の割合はこの技術を使わずに体外受精を行った場合と差は出ませんでした。

この結果を受け、学会はこの技術を使うメリットとして出産に至らないとみられるのに受精卵を子宮に戻すケースを避けることができ、流産を減らす効果が期待できるとしている一方、国内や、海外の多くの研究からも、出産できる確率を上げる効果はみられないとしています。

さらに、学会はこの技術の課題として染色体を調べるために、受精卵から細胞の一部を採取するため、受精卵を傷つけてしまうことや正常な受精卵を誤って異常と診断してしまうケースがまれにあることなどをあげています。

「PGT-A」受けた夫婦「精神的負担減った」

「着床前検査」の新たな技術について、学会の臨床研究に参加した夫婦は、不妊治療を続ける上での精神的な負担が軽くなったと話しています。

大阪府に住む40代半ばの麻緒さんと文孝さんの夫婦は3年前、妻が41歳のときに地元のクリニックで不妊治療を始め、体外受精で2回妊娠しましたが、2回続けてつわりが始まって間もない妊娠初期に流産しました。

夫婦は、精神的に厳しい状態になったことから不妊治療を続けるのをちゅうちょするようになりました。

その後、「着床前検査」の新たな技術の臨床研究が行われていることを知り、夫婦は話し合ったうえで去年3月から臨床研究に参加しました。

受精卵の染色体の異常は女性の年齢が上がるにつれて多くなることがわかっていて、この夫婦の場合、染色体に異常がない受精卵が見つかったのは、4回目の採卵のとき、8個目の受精卵でした。

この受精卵を子宮に移植して妊娠し、ことし7月に男の子の出産に至りました。

麻緒さんは、流産の経験について「流産をしたときは、一瞬でも自分のおなかの中に赤ちゃんがいるという実感があったので、それがなくなったときのむなしさや悲しみが強かったです。このつらいことを何回もしなければいけないんだったら子どもを諦めたほうがいいかなというくらい心が折れていました」と話しました。

そして、「着床前検査」の新たな技術について「年齢的に妊娠への焦りがある中で、流産による精神的なアップダウンがなく、精神的負担を少しでも減らして不妊治療をすすめることができました」と話していました。

また、夫の文孝さんは「妻は流産を繰り返して体がしんどくなっていたので、検査で受精卵を選ぶことで、妻の体への負担が少しでも軽減できたのではないか」と話していました。

倫理的な課題の指摘も

「着床前検査」の新たな技術では、異常がなく、出産に至る可能性が高い受精卵を選んで子宮に戻しますが、受精卵の染色体の数に異常があっても出産に至ることはあります。

ダウン症や18トリソミーなどでは染色体の数が1本多く、ターナー症候群では染色体の数が1本少ないなどとなっていて、新たな技術では受精卵の染色体に異常があると流産のリスクが上がるとして子宮に戻さないため、こうした人を排除することにつながる倫理的な課題があると指摘されています。

この技術について、生命倫理に詳しい北里大学の齋藤有紀子准教授は「染色体の異常がある受精卵を選別することが、染色体の異常を持って、生まれてくることを否定する、あるいは、そうした人たちが生まれてくる多様性のある社会を否定することにつながりうるという倫理的な課題がある」と指摘しています。

そして、日本産科婦人科学会が実施の方針を決めたことについて「流産を繰り返している人の切実な気持ちに寄り添って解決に臨むのは、専門家としてあるべき姿だとは思う。ただ、その一方で、技術のニーズがあるから、技術が存在しているからという理由で、倫理的な問題が解決するかのように説明するのではなく、どのような倫理観でこの技術を採用するのか、双方の当事者や社会に対して説明する責任がある」と話しています。