「民主主義サミット」始まる バイデン大統領のねらいは?

アメリカのバイデン大統領が日本やヨーロッパ諸国の首脳などを招いた「民主主義サミット」が日本時間の9日夜、始まりました。サミットの冒頭バイデン大統領は「民主主義は世界中で憂慮すべき挑戦を常に受け続けている」と危機感を示し、民主主義を旗印に友好国との結束をはかることで対抗していきたい考えを強調しました。

「民主主義サミット」はバイデン大統領の呼びかけで初めて開かれ、岸田総理大臣を含むおよそ110の国や地域の首脳などがオンラインで参加しています。

バイデン政権は中国やロシアなどとの関係を「民主主義と専制主義の闘い」と位置づけ、今回のサミットで同盟国や友好国との連携を強化し対抗していきたい考えです。

またサミットでは中国の新疆ウイグル自治区などでの人権問題を理由に、来年の北京オリンピックとパラリンピックに政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」をすると表明したことについてアメリカの考えを改めて説明するものと見られます。

開催の背景にはアメリカの危機感か

「民主主義サミット」には日本やEU=ヨーロッパ連合、イギリス、オーストラリア、それに台湾などおよそ110の国や地域からの参加が予定されている一方、バイデン政権が「専制主義国家」と位置づける中国やロシアは招待されていません。

サミット開催の背景には中国の影響力が増す一方で、世界的に民主主義の退潮に歯止めがかからないことへの危機感があると見られます。

バイデン政権は中国やロシアなどとの関係について「民主主義と専制主義の闘い」と位置づけ、専制主義国家の指導者たちがうその情報を拡散し、さまざまな課題に対し民主主義国家より効果的に対応できると主張し、民主主義を弱体化させようとしていると指摘しています。
長年、民主主義や人権などの価値観を広げる外交を展開し国際秩序の構築を主導してきたと自負するアメリカとしては、民主主義の退潮がみずからが築いてきた秩序の根幹を揺るがしかねないと警戒感を強めているものと見られます。

このためバイデン政権としては民主主義や人権、法の支配など共通の価値観を持つ国や地域の首脳らが一堂に集まることで民主主義の重要性を改めて確認するとともに、経済や安全保障など幅広い分野で連携の強化を図りたい構えです。

この「民主主義サミット」について、バイデン大統領は1年後をめどに対面式で開催したいとしています。

中国 ロシアはサミットを厳しく非難

一方、今回のサミットについて中国は「冷戦的な思考の産物でイデオロギー的な対立と世界の分断をあおる」と強く批判しているほか、ロシアも「新たな境界線をつくる試みだ」などと厳しく非難していて、アメリカのねらいどおり民主主義を旗印に結束をはかれるのか国際社会の目が注がれています。
中国外務省の汪文斌報道官は9日の記者会見で「国際的な公益のためではなくアメリカの自己利益や覇権を守るために行われるものだ。民主主義を旗印に政治的な操作をすることは国際社会から反対されるだけだ」と述べました。

研究機関「民主主義が退潮している」

スウェーデンの首都ストックホルムに拠点を置く研究機関「IDEA=民主主義・選挙支援国際研究所」は先月発表した報告書で「世界で民主主義が退潮している」と分析しています。

報告書では世界165の国と地域を公正な選挙が行われているかや報道の自由があるかなど116の指標をもとに「民主主義」「権威主義」そしてその中間にあたる「ハイブリッド」の3つに分類しています。
それによりますと、2020年の時点で
▽「民主主義」は日本やアメリカなど98
▽「ハイブリッド」はロシアやトルコなど23
▽「権威主義」は中国や北朝鮮など44となっていて
「民主主義」は2015年と比べて6つ減った一方「権威主義」は4つ増えました。

そしてことしは
▽軍事クーデターが起きたミャンマーの分類が「民主主義」から「権威主義」に変わるほか
▽イスラム主義勢力タリバンが再び権力を掌握したアフガニスタンの分類が「ハイブリッド」から「権威主義」に変わる見通しだとしています。
さらに2016年以降「民主主義」の方向に向かって分類が変わった国や地域は7つだったのに対し「権威主義」の方向に向かって変わったのは3倍近くの20に上ることなどから「世界では民主主義が退潮している」と分析しています。

民主主義の退潮が進んだ背景には
▽大衆迎合的な政権が権力維持のため、言論や集会の自由などを徐々に制限しているほか
▽新型コロナウイルスの感染拡大を受け、指導者たちが抑圧的な政策を正当化していることなどがあるとしています。

さらに報告書では「民主主義」に分類されているアメリカについても「トランプ前大統領が大統領選挙の結果について根拠のない主張を繰り返したことで、選挙の正当性に疑問符がついた」などとして、民主主義が退潮していると指摘しています。

注目される台湾の参加

民主主義サミットで特に注目されているのが台湾の参加です。

バイデン政権が台湾を招待したのはアメリカが「最大の競合国」と呼ぶ中国を強くけん制するねらいがあります。

バイデン政権は台湾を「民主主義の成功例」と位置づけ、とりわけ新型コロナウイルスへの対応を評価しています。台湾は新型コロナ対策として徹底した情報公開を進め成果をあげました。

バイデン政権は中国やロシアを念頭に専制主義国家が新型コロナ対策を理由に監視の強化や集会の制限など反体制派への締めつけを正当化していると主張していて、民主的な手法で成果をあげた台湾を招待することで民主主義の優位を強調するねらいもあると見られます。

さらにアメリカが期待しているのが、高速・大容量の通信規格「5G」やAI=人工知能などハイテク分野での協力です。

先端技術に欠かせない半導体の生産能力で世界トップを誇る台湾の重要性は中国企業をサプライチェーン=供給網から締め出そうというアメリカにとって、一段と増しているためです。

ロイター通信はホワイトハウス高官の話として、今回の民主主義サミットでは人権侵害につながるおそれがある技術の輸出規制について議論が行われると伝えていて、バイデン政権はみずからが構築を進めるサプライチェーンで台湾が果たす役割に期待しているものと見られます。
一方、今回台湾から参加するのは蔡英文 総統ではなく
▽IT担当の閣僚の唐鳳氏、英語名オードリー・タン氏と
▽ワシントンにある台湾当局の代表機関「駐米台北経済文化代表処」の蕭美琴 代表です。

関係者によりますと、これはアメリカと台湾の当局者による緊密なやりとりの結果、決まったということです。アメリカ側には台湾の参加に反対する中国を過度に刺激することを避けたい思惑があったものと見られます。

蔡英文総統「アメリカとの固いパートナーシップの表れ」

サミットに台湾が招待されたことについて蔡英文総統は「近年の台湾とアメリカの固いパートナーシップの表れだ」としたうえで「台湾がいかに科学技術とデジタル民主主義を通してガバナンスを強化しているかということと、台湾の民主主義のサクセスストーリーを、国際社会と分かち合えるよう期待している」と、フェイスブックに投稿しました。

サミットに出席する唐政務委員は、行政の徹底した透明化を政治的な信条とし、「開かれた行政」の推進などを担当しています。また、心と体の性が一致しないトランスジェンダーであることを公表しています。

蔡英文政権としては、デジタル技術を活用した民主主義の推進や多様性をアピールすることで、「デジタル監視社会」とも指摘される中国との違いを際立たせ、台湾に対する国際的な支持を広げようというねらいがありそうです。

中国では アメリカに対抗する宣伝キャンペーン

「民主主義サミット」を前に、中国では、政府や研究機関がアメリカの民主主義の問題を指摘したり、中国式の民主主義を称賛したりする、大々的な宣伝キャンペーンを展開しています。

このうち、中国政府は今月4日「中国の民主」と題した白書を公表し、「中国の近代化では、西洋の民主主義モデルをそのまま模倣するのではなく、中国式民主主義を作り上げた」として、独自に質の高い民主主義を実践してきたなどと主張しました。
その翌日の5日には、中国外務省が「アメリカの民主の状況」と題する文書を公表。

アメリカ国内では、人種差別の問題が根深く存在し、貧富の格差が広がっている上、国外では民主主義の旗印を掲げて他国の内政に干渉して戦争を行うなど人道的な悲劇を生んできたと強く批判しています。

アメリカへの対抗姿勢は、こうした文書の公表だけにとどまりません。

中国共産党と政府は、今月4日から、120以上の国や地域、それに20以上の国際組織から専門家などを招いて、民主主義をテーマにした国際フォーラムを開催。

この中で、党の幹部は「民主主義はすべての人たちの権利であり、少数の国の専売特許ではない。国が民主的かどうかは、その国の国民が判断するもので外部が口出しするものではない」と主張しました。

さらに、王毅外相は、このところ各国の要人との会談の中で、「民主主義サミット」を念頭にした発言を積極的に行っています。

このうち、今月3日のパキスタンの外相との電話会談では「民主主義の名を借りて、世界における覇権的な地位を守り、他国の内政に干渉し、世界に分裂を作り出すものだ」と批判しています。

また、党や政府にとどまらず、研究機関も同様の主張を繰り返していて、今月6日には、北京にある中国人民大学のシンクタンクが、アメリカの民主主義の問題を指摘する研究報告を発表したほか、国営の新華社通信のシンクタンクも、7日に中国の民主主義を称賛する内容の文書を発表しています。

こうした動きを国営メディアなどは繰り返し詳しく伝えていて、中国としては、バイデン政権が「民主主義サミット」を契機に「中国包囲網」の動きをさらに強めることをけん制するねらいがあるとみられます。

中国専門家「アメリカの覇権は落ちぶれ 虚勢」

アメリカの民主主義の問題を指摘する研究報告を発表した中国のシンクタンクのトップで、中国人民大学の王文教授は、NHKの取材に対し、アメリカのバイデン政権が「民主主義サミット」を開催するねらいについて「アメリカの覇権が落ちぶれ、世界の模範になれることがなくなった。唯一残ったのが民主主義で、このサミットを開くことで、虚勢を張りながら、わずかな尊厳を取り戻そうとしている」と指摘しました。

また、アメリカが今回のサミットにおよそ110の国や地域の首脳などを招待する一方、中国などを招待していないことをめぐって「招待の基準は奇妙であり、中には、明らかに民主主義国家と言えない国もある。どの国を招くかを、民主主義国家かどうかではなく好き嫌いやみずからの利益で選んでいる。そして、みずからが、依然、世界の覇権を握っているという虚像を、空虚に作り出している」と批判しました。

そのうえで王教授は「アメリカが中国への攻撃を強めれば強めるほど、中国社会はより団結する。中国の人たちはアメリカの焦りを見抜いている」とも指摘しました。

「問題の本質は米中の覇権争い 今後も改善可能性は低い」

元外交官で東アジアの安全保障に詳しいキヤノングローバル戦略研究所の宮家邦彦 研究主幹は「問題の本質は米中の覇権争いだ。トランプ前大統領はアメリカ単独で中国と対立したが、それではだめだという反省からバイデン政権はより多くの国を巻き込む形で中国との対抗軸を作っている。今回の民主主義サミットもその中に位置づけられると思う」と指摘しました。

そのうえで「中国はアメリカが望む民主主義を採用する気はないので、両者の関係は対立が深まることはあっても改善していく可能性は極めて低いと思う」と述べました。

一方で「ヨーロッパや韓国など、あまり中国を刺激したくない国もあるだろうし、ほかのアジアやアフリカでも同じように考える国があるだろう」と述べ、サミットに参加した国々が中国との対決姿勢を強めるとは限らないという見方を示しました。

そして日本の立ち位置については「民主主義を含む普遍的な価値に同調しない国との対立という構図の中で、アメリカと中国のどちらをとるかという問題ではない。日本は国際社会の一員として、中国に言うべきことはしっかりと言い、民主主義や人権の分野で政策を変更するほうが利益になるということを繰り返し説得していく必要がある」と述べました。