薬がない…代わりの薬はどこに 相次ぐ業務停止で広がる波紋

薬がない…代わりの薬はどこに 相次ぐ業務停止で広がる波紋
いつもの薬局で飲み慣れた薬を受け取ろうとしたら
「実は、薬が不足していまして…」

突然別の薬に切り替えることになり、不安を抱える人や薬代の負担が上がった人も。
そんなケースが各地で相次いでいます。

発端は1年前に発覚した医薬品メーカーの不祥事でした。
今、何が起きているのでしょうか。

(福井放送局 鈴木翔太)

薬局で何が

薬をめぐって異変が起きていると聞き、私(記者)は11月下旬、福井市にある調剤薬局で取材しました。

薬局は総合病院を出てすぐの場所にあり、この日も病院から出された処方せんを持った患者さんが次々に訪れていました。

薬剤師さんに案内されてカウンターの向こう側へ入ると、部屋の中ほどに薬が置かれている棚があります。
(薬剤師 西田敦司さん)
「ふつう薬が置いてあるんですけれども、このように不足しています」

「安定供給」のはずが急に…

「不足」と聞いてよく見ると、棚にはあちこちに「欠品中」、「欠品予定」と書かれた札が貼られていました。
不足している薬がわかるように貼っているということです。

薬局によると、不足している医薬品は潰瘍性大腸炎の薬や花粉症の治療薬など約160品目にのぼります。これはこの薬局で扱う約1600品目全体のうちの1割にあたるということです。

入手が難しい薬が増え始めたのはことしの春ごろからで、9月ごろには今のような状況になっていたということです。

多くは先発医薬品に比べて価格が安い「ジェネリック医薬品」=後発医薬品です。
やむをえず別のメーカーが製造する同じ成分の薬や価格が高い先発医薬品に切り替えて発注するケースも相次いでいるということです。
(薬剤師 西田さん)
「安定供給しているものだと思ってますから。それが急になくなって患者さんにご迷惑をおかけするのは非常に心苦しいです」
待合室にいた患者さんにも話を聞いてみました。

10人ほど話しかけたうちの2人が「別の薬に切り替えることになった」ということでした。
2人とも飲み慣れた薬を急に切り替えることへの戸惑いを口にしました。

薬を切り替えることになった人は

このうち甲状腺の病気で数か月前からジェネリック医薬品を服用しているという20代の女性は、ちょうどこの日に薬局から薬の不足を知らされたばかりでした。

別のメーカーの先発医薬品への切り替えとあって薬代の負担も増えたうえ、薬が合うかどうかも不安だといいます。
「えーって感じでした。この先何年と飲んでいかないといけない薬なので、負担は大きいです。薬剤師の方から効用は変わらないと言われたんですけど、薬の名前が違うから不安だなっていうのはあって、ちょっと飲んでみないとわからないんですけど…」(20代女性)
薬剤師の西田さんは「薬が合うかは相性もあるので人によっては副作用が出るケースもある」として、切り替える患者への説明は通常以上に慎重に対応することにしています。
(西田さん)
「この薬じゃないと合わない、だめだという患者さんは大勢います。メーカーにはしっかりと供給と安全性を確保してほしい」
こうした状況は今、全国に広がっています。
医薬品メーカーでつくる日本製薬団体連合会が11月、医薬品約1万5000品目の供給状況の調査結果を発表したところ「欠品」や「出荷停止」などで入手が困難になっているのは3143品目と実に全体の約20%にのぼっているということです。

SNSでも「限界」の声

ネット上でもさまざまな声が上がっています。
「子供のアレルギーの薬、いつも1ヶ月分もらいに行くんやけど、昨日薬局行ったら、この薬次はもうないかもです。いろんな薬が手に入らないんですよ。。って言われたー。うちの子そのアレルギーの薬しか飲めないから困ったもんだよ」
患者に医薬品を渡す医療現場からも苦悩や限界を訴える声が。
「お薬はないです。薬局をかえても卸をかえても手にはいりません。処方を出す立場の方々、常に代替薬剤を想定してください。薬剤部は頑張っていますが、我々も限界です…」
「薬剤師として必死にかき集めています。どうか状況をご理解いただき薬剤師に当たらないようにお願いします」

なぜ不足?背景に1年前の不祥事

どうしてこんなことが起きているのでしょうか。

ことの発端は1年前の去年12月に発覚した、福井県のジェネリック医薬品メーカー「小林化工」が製造した水虫など真菌症の治療薬に睡眠導入剤の成分が混入した問題にあります。

私(記者)は小林化工が開いた最初の会見から取材を続けていますが、あまりにもずさんな製造工程の実態と起きてしまった健康被害の両方に大きなショックを受けました。
いつもの薬を飲んだだけなのに急に意識を失って救急車で運ばれた人、運転中にもうろうとして事故を起こしてしまった人、中には事故の原因がわからず自分を責め続けた人にも会いました。

健康被害が出た人は全国各地の245人に上ります。

一方で会社は、睡眠導入剤の成分が混入した際に2人で行うはずの作業を1人で行っていたのをはじめ多くの製品で国が承認していない工程で製造していたほか、そうした不正が発覚しないよう「二重帳簿」を作成するなど組織的な隠ぺいを長年続けてきたことも明らかになりました。

こうした不正を県の査察でも見抜くことはできなかったのです。
ことし2月、小林化工は福井県から過去最長となる116日間の業務停止命令を受けるに至りました。

行政による処分は定まった一方で、問題の波紋はこのあとさらに広がっていくことになります。

「業務停止命令」相次ぐ

この問題の発覚後、都道府県による査察が強化され、業界団体の呼びかけで自主点検も行われました。

その結果、別の医薬品メーカーでも製造工程での問題が相次いで見つかり、富山県の「日医工」をはじめ「北日本製薬」(富山)「長生堂」(徳島)「松田薬品工業」(愛媛)と全国で4つの企業が業務停止命令を受けました。中でも「日医工」はジェネリック医薬品業界で大手3社の1つに数えられていますが本格的な再開には至っておらず、幅広い種類のジェネリック医薬品などが供給停止や出荷調整を行う事態が続いているのです。

医薬品政策に詳しい専門家は、今回の事態を「これまでに例のない大規模な医薬品の供給不足だ」としたうえで、背景について次のように話しています。

「玉突き状態」で供給不足に

(神奈川県立保健福祉大学大学院 坂巻弘之教授)
「ある会社が出荷停止になると、同じ成分のジェネリック医薬品を販売しているほかの会社に注文が集中します。その結果、注文を受けた会社でも自社の供給量を上回るため出荷調整をすることになり、まるで「玉突き状態」のように出荷調整や供給不足が広がっていくという状態です」
坂巻教授は各メーカーごとに精緻な出荷計画がある以上、足りなくなった多品目の医薬品をすぐに供給できるわけではなく、影響はしばらく続くことが見込まれるとしています。
そのうえで、今すぐ必要なこととして現場への情報提供の仕組みを整えることの必要性を指摘しました。
「アメリカでは供給不足になった場合に代替薬がどういうものかや不足の解消にどのくらいの期間がかかるのかということをデータを集めて分析し、医療現場に情報提供する仕組みがかなり進んでいる。こうした仕組みを日本でも作ることを考える必要がある」

医薬品「安定供給」の行方は

小林化工は12月3日、医薬品の製造工場などの設備を他社に譲渡し、医薬品の製造・販売から撤退する方針を発表しました。

1年前、私たちが毎日頼りにしている医薬品の「安全」という前提が崩れる大きな問題が発覚しました。
一方でそれから1年がたって医薬品業界全体では、今度は医薬品の「安定供給」というもう1つの大前提が脅かされる事態となっています。

広がる影響の実態や対応に追われる現場の模索など、この問題を今後も引き続き取材していきます。
以下の「NHK医薬品不足取材班」の投稿フォーム(URL/QRコード)から情報をお寄せください。