自宅療養者を取り残さないために 東京 大田区で第6波への備え

自宅療養者のいのちをどう守るのか、新型コロナの第5波で大きな課題となりました。第6波に向けて、東京 大田区は、感染拡大で業務が滞ってしまう保健所を通さずに、地域のかかりつけ医が直接「抗体カクテル療法」を行う病院と連携して自宅療養者を治療していく態勢作りを進めています。

「抗体カクテル療法」診察したかかりつけ医が病院に直接依頼

感染が急拡大した第5波で、東京 大田区では保健所の業務が集中し、陽性者への最初の連絡までに数日かかるなど自宅療養者への対応に課題を残しました。

これを教訓に、大田区の保健所と区の医師会は、軽症患者などに2種類の抗体を同時に投与する「抗体カクテル療法」を迅速に行う態勢作りを進めています。

具体的には、区内の8つの病院を抗体カクテル療法を行う病院に指定し、治療薬を集めるなど、効率的に投与が行えるようにしました。

そして、これまでは抗体カクテル療法を行うかどうかは、多くを保健所が患者に状態を聞き取って病院につないでいましたが、第5波では保健所がひっ迫したことから、今後は保健所を通さず、患者を診察したかかりつけ医が直接、病院に依頼し、病院の外来で自宅療養者に抗体カクテル療法を受けてもらおうとしています。

感染が拡大し、8つの病院もひっ迫してきた場合には、地域のかかりつけ医が直接、抗体カクテル療法を行うことができないか検討を進めています。

ほかにも患者への健康観察についても、かかりつけ医が保健所に代わって行うなど、自宅療養者を取り残さない態勢作りを進めています。

大森医師会の理事で、地域で診療所を営む石田博文医師は「次こそは患者が自宅に取り残されるということを避けたい。あの第5波を繰り返したくない、その一心です。新型コロナは診断をして家で寝ていてもらうだけではダメで、そこから悪化してしまう非常にリスクのある病気だと思い知らされたので、患者を抗体カクテル療法などベストな治療に導くことが大事だと思う」と話しています。

「抗体カクテル療法」効率的投与のため8病院を指定

東京 大田区で「抗体カクテル療法」を迅速に行う病院に指定されたのは、「東邦大学医療センター大森病院」、「荏原病院」、「東京労災病院」、「大森赤十字病院」など8つの病院で、これらの病院には治療薬が集められ、効率的に投与が行えるようにしています。

このうち大森赤十字病院の保管庫には、抗体カクテル療法に使う10人分の治療薬が保管されていました。

病院ではより迅速に治療につなげようと、地域のかかりつけ医に患者の基礎疾患などの情報を記してもらうための書式を配布しているほか、治療の担い手を確保するため、病院内のほぼすべての医師が当番制で対応にあたる態勢をとっています。

中瀬浩史院長は「抗体カクテル療法は1日も早く行ったほうが効果が高いので、この仕組みでスムーズな治療につなげたい。今後の感染拡大で自宅療養者を取り残さないためにも感染者数が少ない今、備えていきたい」と話していました。

かかりつけ医が自宅療養者の健康観察を担う

東京 大田区は第6波への備えとして、患者を最初に診察する地域のかかりつけ医に協力してもらい、自宅療養者を取り残さない態勢作りを進めています。

その1つが、地域のかかりつけ医が診察した患者に対し「抗体カクテル療法」を行うかどうか診断し、直接、患者を病院につなぎ、治療を依頼してもらうことです。

これまで抗体カクテル療法を行うかどうかは、多くを保健所が患者に状態を聞き取って病院につないでいましたが、第5波では保健所の業務が滞ってしまい投与のタイミングが遅れるなど課題となっていました。

もう1つが、感染拡大で業務がひっ迫する保健所に代わって、かかりつけ医が自宅療養者の健康観察を担うことです。

自宅療養者にパルスオキシメーターを使ってもらい、血液中の酸素の数値が低下していないか、かかりつけ医が定期的にチェックするなど、見守ることにしています。

大森医師会の理事で、地域で診療所を営む石田博文医師は、ぜんそくの持病がある80代の女性の診察を行い、大田区の第6波への備えについて説明していました。

医師が「もしコロナに感染したら、僕が主治医として病院に抗体カクテル療法を依頼し、必ず治療が受けられるようにします。自宅で療養している間も酸素の数値が下がっていないか聞くなど、つながっていられるようにするから安心してくださいね」と話していました。

80代の女性は「私のように疾患がある場合、コロナに感染すると重くなると聞くから、安心感があります。ありがたいです」と話していました。

石田医師は「第5波で患者が多かった時期は陽性の報告をしても、自治体から本人に電話がいくのが3日から4日かかったという時期があった。患者は数日間、家にいるだけになってしまい、非常に不安でつらい思いをした方が多かったと思う。われわれがいかに診断をつけて抗体カクテル療法を行ったほうがいいかどうかトリアージをする。その役割が重要で、われわれ開業医に求められている仕事だと思う」と話していました。

大学病院が協力 区職員が感染症の専門知識学ぶ

東京 大田区は、第6波への備えとして、クラスターが起きた施設や自宅療養者に対し、効果的な感染予防対策を講じられるような人材を育成しようと取り組んでいます。

この取り組みは東京 大田区が区内にある東邦大学医学部に協力を求めて行っているもので、区の職員5人が感染症の授業を受けています。

授業は、新型コロナウイルスなどの感染症や治療薬の専門知識について、講義や実習を通して学ぶもので、ことし8月から来年3月まで10回に分けて行われています。

このうち、福祉管理課の主任、佐藤美里さんは、第5波で障害者や高齢者の施設で感染が起きたことから、第6波に向けて施設での感染をいかに減らすか、専門知識を身につけようと講座を履修しています。

オンライン授業では、佐藤さんがマスクの着用を徹底してもらうにはどうしたらいいか質問すると、せきをした場合、空気中にどの程度のウイルスが拡散するか、写真やイラストで見せたらどうかとアドバイスを受けていました。

佐藤さんは「マスクを施設に配備する際、どの施設にどのマスクを配れば効果的なのか分からなかった。今回勉強したことで、サージカルマスクは空気感染を防ぐ効果があるから入所施設や病院に配備しようとか、ふつうの施設だったら不織布のマスクでいいかなど分かるようになった。ウイルスがどのように感染症をひきおこしていくかメカニズムが分かり、今後の対策に役立てたい」と話していました。