「オミクロン株」警戒で水際対策強化 感染力やワクチン効果は

南アフリカで確認された新型コロナの新たな変異ウイルス「オミクロン株」。29日午後4時の時点で12の国と地域で確認されています。

世界的な感染の広がりを見せる中、岸田総理大臣は30日午前0時から、世界のすべての国や地域を対象に、ビジネス目的などの外国人の新規入国を原則停止することを明らかにしました。

羽田空港 アフリカからの入国者の姿も…

外国人の新規入国について、政府はビジネス目的の短期滞在者や留学生、技能実習生などを対象に今月8日から緩和。入国を再開していましたが、わずか3週間で再び停止することになりました。

29日、羽田空港で西アフリカのコートジボワールから帰国した会社員の男性に話を聞くと「あすから外国人の入国が停止されることは知らなかったです。あすだったら入れなくなるかもしれないので、きょう日本に来られてよかったです」と話していました。

ナミビアからの入国者が陽性 オミクロン株か解析進める

こうした中、後藤厚生労働大臣は29日昼すぎ、水際対策を強化しているアフリカ南部のナミビアから28日夕方に入国し成田空港の検疫で検査を受けた30代の男性が新型コロナウイルスに感染していたことを明らかにしました。ウイルスがオミクロン株かどうか、国立感染症研究所で速やかにゲノム解析を進めることにしています。
また、この男性と同行した家族2人の合わせて3人は、いずれも国が指定する施設にとどまっていて、男性には発熱の症状が見られる一方、家族2人は検査の結果、陰性だったということです。

後藤大臣は「引き続き検疫で陽性になったすべての検体のゲノム解析を実施するとともに、自治体主体のゲノム解析についても、現時点の検査能力を最大限発揮して実施してもらうようお願いするなど、国内の検査体制を強化していく」と述べました。

30日午前0時から 外国人の新規入国原則停止

オミクロン株の感染が広がりを見せていることを踏まえ、政府は29日午後、総理大臣官邸で関係閣僚による会議を開き、対応を協議しました。

このあと岸田総理大臣は記者団に対し「オミクロン株の病毒性や感染力など、いまだ世界的に専門家の分析が行われている途上の状況にあるが、WHO=世界保健機関は懸念される変異株に指定した」と指摘しました。
そのうえで「わが国として最悪の事態を避けるため、緊急避難的な予防措置として、まずは外国人の入国は11月30日午前0時より、全世界を対象に禁止する」と述べ、30日午前0時から世界のすべての国や地域を対象にビジネス目的などの外国人の新規入国を原則停止する方針を明らかにしました。

さらに「日本人などについても、南アフリカなど9か国に加えて感染が確認された14か国・地域から帰国する場合にはリスクに応じて、指定施設で厳格な隔離措置を実施する」としたうえで「これらの措置は、オミクロン株についての情報がある程度明らかになるまでの、念のための臨時異例の措置だ」と説明しました。

一方で、岸田総理大臣は「わが国はG7の中でも最高のワクチン接種率かつ2回目の接種から最も日が浅い状況だ。マスク着用をはじめ、行動自粛への国民の協力なども世界が称賛している。オミクロン株のリスクへの耐性は各国以上に強いと認識している。国民は落ち着いて対応するよう呼びかけたい」と強調しました。
そして「未知のリスクには慎重の上にも慎重に対応すべきと考えて政権運営を行っている。まだ状況が分からないのに慎重すぎるという批判は、私がすべてを負う覚悟でやっていく。国民の皆さんにはご理解をお願いしたい」と述べました。

【詳細】政府による水際対策

▽外国人の新規入国については、これまで認められていたビジネス目的なども含め、世界のすべての国や地域を対象に30日午前0時から「当面1か月」の間、原則、停止されます。
これにより、今後、日本に新規入国できる外国人は、人道上の配慮が必要な人などに限定され、政府関係者は「最悪の事態を想定した、事実上の全面的な入国の禁止措置だ」と話しています。

▽また、日本人の帰国者などに対しても、来月1日以降入国する人から対策が強化されます。
具体的には、日本人の帰国者などは、今月上旬からワクチン接種などを条件に、入国後、自宅などで待機が必要な期間が最短で3日間に短縮されていましたが、再び、14日間に延長されます。
さらに、感染状況を踏まえ、一部の国や地域からの帰国者などは、入国後、一定期間、検疫所が指定する空港周辺の宿泊施設などにとどまる「停留」という、より強い措置がとられます。
このうちオミクロン株が最初に確認された南アフリカや、その周辺のジンバブエやアンゴラなどアフリカ南部の10か国は10日間の「停留」が求められます。
このほか、イスラエル、イギリス、オランダなど7か国は6日間、オーストラリアやドイツ、デンマークや香港など、27の国や地域は3日間、それぞれ「停留」が求められます。

これらの措置に伴い、今月26日から1日あたり5000人に緩和されてきた入国者数の上限についても、来月1日から再び3500人程度に引き下げられることになりました。
政府は、こうした水際対策のほかにも帰国者の健康状態のフォローアップをはじめ、オミクロン株の監視体制の拡充を図るなどして、国内での感染拡大の防止に全力をあげることにしています。

オミクロン株は “懸念される変異株” WHOも 感染研も

WHOは南アフリカで確認された新たな変異ウイルスについて、今月26日「VOC=懸念される変異株」に指定し「オミクロン株」と名付けました。

日本では今月27日現在、感染者は見つかっていませんが、国立感染症研究所では、ウイルスについての海外の情報などから国内でも「VOC」に位置づけたということです。

これまでにWHOが「VOC」に指定したのは、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、デルタ株の4つの変異株。
このうちアルファ株とデルタ株は日本でも大きく流行しましたが、ベータ株とガンマ株はほとんど流行しませんでした。

オミクロン株とは…

オミクロン株、その正体はどこまでわかっているのでしょうか。

国立感染症研究所によりますとオミクロン株はウイルスの表面にある「スパイクたんぱく質」という突起のような部分にこれまでの変異ウイルスの中で最も多い30か所の変異が見つかっていて、このほかにも遺伝子の一部が欠損するなどしているということです。

「スパイクたんぱく質」はヒトの細胞に入り込む際に最初に結合する部分で、ワクチンによる抗体が目印としています。

専門家「デルタ株よりも感染力が強い可能性」

オミクロン株について、感染症対策に詳しい国際医療福祉大学の松本哲哉教授に現時点での見解を聞きました。

松本教授は「従来の変異株と比べてだいぶ構造や性質が変わっている可能性がある。これまでに感染した人がまた感染したり、ワクチンの有効性が低下したりすることが懸念される」と指摘しました。

そのうえで、「南アフリカでの感染の広がりを見ると、デルタ株を押しのけるように広がっていて、場合によってはデルタ株よりも感染力が強い可能性がある」という見方を示しました。

また松本教授は重症化のリスクについて「感染した人がどのぐらい重症化しているかなど、データがまだはっきりと出てきていないため、現時点ではわからない」としています。

ワクチン3回目接種 専門家「接種進めることが大事になる」

また、30日午前0時から世界のすべての国や地域を対象にビジネス目的などの外国人の新規入国を原則停止するという政府の方針について、松本教授は「水際対策としては有効だ。タイミングは早ければ早いほどいい。まずは状況を把握し、もしそこまで心配しなくてもよいとなれば緩和すればいい。最初は厳しく対応すべきだ」と述べました。

さらに、来月1日から国内で始まる予定の医療従事者などを対象とした3回目のワクチン接種について「オミクロン株にどこまで有効か不透明だと思われるかもしれないが、現時点でやれることは今ある手段を使って抵抗力を高めることだ。予定されている接種を進めることが大事になる」と述べました。

そして、松本教授は「ずっと緊張し続けていては次の波の時にもたなくなるので冷静に対応する必要がある。今の状況を保てるようマスクの着用や換気など基本的な感染対策を継続していくことが大事だ」呼びかけました。

感染研「基本的な感染予防策の徹底が推奨される」

オミクロン株について国立感染症研究所では、これまでよりも感染力が高まることやワクチンの効果の著しい低下、それに再感染のリスクの増加などが強く懸念されるとしています。
ただ、今のところ実験データなどがなく、疫学的な情報も十分ではないため、年代別の感染性への影響や症状の重篤度、実際の社会でのワクチンの効果への影響などについて注視していく必要があるとしました。
そのうえで、個人の基本的な感染予防策として従来と同様に3密を避けることや特に会話の際にマスクを着用すること、それに手洗いなどの徹底が推奨されるとしています。

オミクロン株の感染確認 12の国と地域で

オミクロン株はNHKが29日午後4時の時点でまとめたところ、12の国と地域で確認されています。
▽アフリカでは、南アフリカ、ボツワナ
▽ヨーロッパでは、イギリス、ドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、デンマーク
▽中東では、イスラエル
▽アジアでは、香港
▽オセアニアでは、オーストラリア
▽北米ではカナダで確認されています。

南ア大統領 「これまでのどの変異株より変異が著しい」

南アフリカのラマポーザ大統領はオミクロン株の感染が国内で広がっていることを受けて28日、対策会議を開いたあとテレビで演説しました。

この中でラマポーザ大統領は、オミクロン株についてまだ分からないことが多いとしながらも「これまでのどの変異株より変異が著しい」と指摘したうえでこの1週間の1日あたりの新規感染者数が前の週に比べて3倍以上に急増しているとして危機感を示しました。
国民に対しては、パニックにならないよう呼びかけたうえで、少なくとも1回のワクチン接種を終えた人は、成人の41%にとどまっているとして接種を促すとともに、公共の場でのマスクの着用や、多くの人が集まる催しを控えることなど感染対策を徹底するよう呼びかけました。

アメリカ バイデン大統領が専門家チームと協議

アメリカでは感染確認の発表はありませんが、ホワイトハウスは28日、バイデン大統領がオミクロン株への対応を巡り、首席医療顧問をつとめるファウチ博士など専門家のチームと協議したと明らかにしました。
バイデン大統領は、詳細な分析結果を得るまでには2週間かかるものの、既存のワクチンによって重症化を一定程度予防できる可能性があるなどと報告を受けたということです。
アメリカ政府は、南アフリカを含むアフリカ南部の8か国からの渡航を制限することを発表しています。
また、バイデン大統領は29日に最新の状況と対応を公表する予定だとしていて警戒が強まっています。

韓国・北朝鮮・シンガポール・インドでも対策強化

オミクロン株への警戒は、各国で強まっています。

▽韓国政府は29日、対策会議を開き、ワクチンの接種をさらに進める方針を確認しました。具体的には来月上旬から追加接種の対象を、接種完了から5か月たった18歳以上に拡大するほか、追加の接種を促すため、いわゆる「ワクチンパスポート」に接種完了から6か月間の有効期限を設けるとしています。
会議に出席したムン・ジェイン大統領(文在寅)は「今までとは次元が違う重大な局面を迎えている」と危機感を示し、5歳から11歳の接種や軽症者用飲み薬の年内の供給開始についても検討するよう指示しました。

▽北朝鮮国営の朝鮮中央通信は29日、オミクロン株について「深刻な憂慮を引き起こしている。より危険で致命的なウイルスだ」と伝え、強い警戒感をあらわにしました。
北朝鮮では、去年の1月末から続く国境の封鎖措置や、経済制裁によって物資が不足しているとされ、韓国の情報機関は、輸入の再開に向けて、中国とを結ぶ貨物列車の運行が今月再開される可能性があるという見方を示していました。
しかし、新たな変異ウイルスの影響で、韓国メディアは北朝鮮が封鎖措置の緩和を遅らせる可能性があると伝えていて、韓国統一省のイ・ジョンジュ報道官は29日の会見で「措置の緩和は、国境地域の防疫施設の整備状況や感染拡大の動向などを総合的に考慮して決まるものだ。今後の動向を綿密に注視していく」と述べています。
▽シンガポール政府は26日、南アフリカなど7か国からの入国を禁止しました。さらに28日、ワクチンの接種を終えている人を対象に隔離なしの入国を認める措置について、来月6日から予定されていた中東のサウジアラビア、UAE=アラブ首長国連邦、それにカタールとの運用開始を延期すると発表しました。
また、新型コロナの感染拡大前には1日30万人以上が行き交っていた隣国マレーシアとの間の陸路で、29日からワクチンの接種を終えた人を対象に、およそ1年8か月ぶりに往来を再開しましたが、シンガポール政府は急きょ、入国者全員への抗原検査を行うことを決めました。

▽インド政府は28日、国外から入国する渡航者を対象にした指針を改定。
それによりますと、検疫強化の対象となるのは今月26日時点で、イギリスなどヨーロッパの国々や南アフリカ、ブラジル、それに中国など12の国や地域から渡航する人たちです。
こうした人たちには出発前だけでなく、到着後にもPCR検査を受け、陰性が確認されるまでは空港にとどまることや、その後も7日間自宅などで隔離を行うことなどを求めています。この指針は来月1日から導入されます。

オーストラリア 日本人の入国再開延期へ

オーストラリアは、去年3月から外国人の入国を原則禁止してきましたが、来月1日から、日本と韓国からの入国者について、ワクチンの接種証明やPCR検査の陰性証明、それに有効なビザを保有していれば、入国が許可されることになり、観光や留学業界から歓迎の声が上がっていました。
しかし29日、オーストラリア政府は、この規制緩和の開始を来月15日まで延期すると発表しました。
これについて政府は声明で「ワクチンの効果や症状など、オミクロン株についての情報を収集するため」だとしています。

オミクロン株 封じ込めへ G7保健相会合開催へ

こうした中、G7=主要7か国は29日、緊急の保健相会合を開き、議長国イギリスを中心に「オミクロン株」の感染封じ込めに向けた対応などについて話し合うことにしています。