【詳しく】安否注目の中国のテニス選手 何が問題?告白詳細も

中国の女子テニスのトッププレーヤー、彭帥(ほう・すい)選手の告白とされる文章がネット上に公開され、そのニュースが連日高い関心を集めています。

その内容は、「中国の前副首相から性的関係を強要された」というもので、選手の安否や北京オリンピック開催の是非をめぐる問題にも発展しています。

これまでの経緯や注目点をまとめ、詳しく解説します。

なぜ高い関心を集めているの?

1つは中国の共産党最高指導部に絡むスキャンダルだからです。

今回、彭帥選手が名指ししたのは張高麗前副首相。
2012年から17年まで共産党の最高指導部、政治局常務委員会のメンバーでした。

政治局常務委員会は現在、トップの習近平国家主席(総書記)をはじめ7人で構成されていて、中国の最高意思決定機関です。メンバーの詳細な動静や内部での発言などは極秘扱いされ、謎の多い中国政治の中でも「聖域中の聖域」とされてきました。

投稿の真偽は分かりませんが、そのメンバーのスキャンダルが表沙汰になったこと自体が前代未聞の出来事として受け止められているのです。

もう1つは、強大な権力者による性的関係の強要の疑いです。前副首相との関係に悩んだ彭選手本人の意思による投稿だった可能性も指摘されています。

こうしたことから、彭選手の行動は、セクハラや性被害などの撲滅を訴える「#MeToo」運動とも関連付けられる形で、海外メディアなどで大きく取り上げられています。

彭選手の告白の内容は?

告白は、彭選手が11月2日に中国のSNS・ウェイボー上にみずから投稿したとされる文章です。

中国語で1600字を超える文章の一部を、抜粋して紹介します。

投稿が発覚したあと、彭選手と連絡がとれなくなったとして、安否を懸念する声が相次ぎました。
「うまく言えないのは分かっている。言ってもしかたないことも。でもやはり言っておきたい//約3年前、張高麗副首相は退職し、天津テニスセンターの人を通じて、再び私に連絡してきた。北京でテニスを一緒にやろうと。午前中にテニスをしたあと、あなたと夫人は私を連れて、あなたの家に行った。その時、あなたは私を部屋に引き入れ、10数年前の天津の時と同様、私と性的な関係を結んだ。//あの日の午後、私はとても怖かった。あんなふうになるとは思ってもみなかった。//7年前に私たちは、性的関係を持った。その後、あなたは政治局常務委員に昇進して北京へ行き、私との連絡を絶った。私はすべてを心の中にしまった。あなたは責任を取ろうとしなかったのに、なぜ、再び連絡してきたのか。そしてなぜ私を家に連れて行き、関係を迫ってきたのか?//あの日の午後、私は全く同意していなかった。それでずっと泣いていた。//私は、たとえようもないほど惨めな存在だ。私は常々、「自分は人間だろうか」と自問していた。まるで自分が歩く屍のようだとも感じていた。//地位の高い張高麗副首相は、恐れてはいないとおっしゃった。でも私は、たとえ石にぶち当たる卵となっても、火に飛び入る蛾となり自滅しても、あなたとの間にあった事実を明らかにする」

※ポイントのみ抜き出していて、省略した部分を//で表記。

彭選手ってどんな人?

世界の女子プロテニスを統括する団体、WTA=女子テニス協会によりますと、彭選手は湖南省出身の35歳。

2013年にはテニスの四大大会、ウィンブルドン選手権の女子ダブルスで、14年には同じく四大大会の全仏オープンの女子ダブルスで優勝した経験があります。

また、北京、ロンドン、リオデジャネイロと3つのオリンピックに中国代表として出場しました。

そのスター選手が投稿したとされる文章は、中国のネット上では削除され、検索できない状態となりましたが、瞬く間に世界中に拡散され波紋が広がったのです。

投稿のタイミングに意味はある?

投稿されたのは、共産党の重要会議「6中全会」の直前でした。

習主席にとって、6中全会の直前は、みずからが主導する「歴史決議」の採択に向けた政治的に重要な時期にあたりました。

習主席は、この決議をはずみにして、さらなる権力基盤固めを図っていたとされます。

中国情勢に詳しい神田外語大学の興梠一郎教授は、「張高麗前副首相は、江沢民元国家主席と関係が深い人物で、習主席からすると敵対する派閥だ。習主席が権力基盤固めに入ると、そうした勢力への威嚇が重要になる」として、習主席が来年の党大会で党トップとして異例の3期目に入るという観測が強まる中、党内の人事も絡んでいたのではないかと分析しています。

彭選手はどこにいる?中国の反応は?

WTA、それに大坂なおみ選手など世界のトッププレーヤーたちが相次いで彭選手の安否に関して懸念の声を上げ始めたところ、本人ではなく、中国の国営メディアが、彭選手がWTA宛てに記したとされる英語のメールをツイッター上で公開し、「無事だ」と発信したのです。
しかし、これに対しネット上では、「なぜ本人が発信できないのか」といった声や、投稿された内容の信ぴょう性を疑う声が相次ぎました。

WTAも声明を発表し、「彼女の安全と行方に対する懸念が高まっただけだ。彼女が実際にメールを書いたと信じるのは難しい」と強調。

WTAのトップは、適切な調査が行われなければ、中国での大会の開催などを見送ることも辞さないという考えを示しました。

国連人権高等弁務官事務所の報道官も、透明性のある調査を求めたほか、アメリカ政府も中国に対し、彭選手の所在や安否を証拠を示して明らかにするよう求めるなど、むしろ火に油を注いだ形に。

すると、中国共産党系メディア「環球時報」の編集長は11月20日、ツイッターに、彭選手の最近の様子だとする写真を紹介しました。
翌日にも、彭選手が北京市内にある四川料理のレストランで、コーチや友人と夕食をともにしたとする動画や、北京市内で行われたジュニア選手のテニス大会の式典に出席したとする動画を投稿。

また、環球時報の別の記者は、彭選手が大会の会場で、笑顔でサインに応じたとする動画を投稿しました。
一連の投稿は、影響力のある共産党系メディアの関係者からの発信を通じて、事態の沈静化を図るねらいがあったとみられます。

彭選手は自由の身なの?

完全に自由に活動ができているかどうかはわかりません。

動画が投稿されたあと、WTAは声明を発表し、「彭選手の様子を見られたのはいいことだが、彼女が自由の身で、圧力や干渉を受けず、みずからの意思で判断や行動することができているかは、依然として不透明だ。この動画だけでは不十分で、彭選手の健康と安全について、引き続き懸念している」とコメントしています。

IOCのバッハ会長が突然、彭選手とオンラインで面会、どうして?

この問題が来年2月に迫った冬の北京オリンピックへの影響も懸念される事態に発展し始めたからです。

IOCで最古参の幹部は「開催の中止はないと思うが、先のことはどうなるかわからない」と述べ、大会の行方にも影響を及ぼしかねないという認識を示したほか、アメリカのバイデン大統領も、中国の人権状況を理由に、選手団以外の政府関係者を派遣しない「外交的ボイコット」を検討していると明らかにしています。
今回の北京オリンピックは、習近平指導部にとって、新型コロナウイルスからの回復をアピールするための国家の威信をかけたプロジェクトです。

開催の是非をめぐる国際的な議論の高まりに神経質になっていたことは容易に想像できます。

IOCのバッハ会長は11月21日に彭選手と30分間、テレビ電話で対話を行い、IOCの発表では、彭選手は北京市内の自宅で暮らし、無事でいることを説明したということです。

バッハ会長が対話を行った背景には、「中国とIOCはオリンピックの成功に向けて足並みをそろえている」と世界に示すねらいがあったとみられますが、「バッハ氏は中国に利用されただけではないか」といった批判が相次ぎました。

この問題を中国側はどう受け止めている?

中国は当初からこの問題に神経をとがらせていて、海外に対しては動画の配信など積極的に情報発信をする一方、中国本土では報道を制限しているとみられます。

共産党系メディアが伝えた彭選手の写真や動画は、いずれもツイッターによる英語の発信でした。ツイッターは中国では利用が制限され、一般に、国民は見ることができないため、あくまで国外向けの発信だったとみられます。

NHKの海外向けテレビ放送が伝えた彭選手のニュースも遮断され、中国では見ることができない状態となりました。
中国は早期の幕引きを図りたい考えです。

中国外務省の報道官は記者会見で、「一部の人は悪意のある宣伝をやめ、政治問題化しないよう望む」と述べ、事態が拡大することに神経をとがらせています。

今後、彭選手から直接、真相につながる説明が聞けるのか。そして、透明性が高い調査が行われるかどうかも注目です。