自民 公明 来年度の税制改正に向け本格議論開始

来年度の税制改正に向けて自民・公明両党は、26日から本格的な議論を始めます。賃上げに積極的な企業を支援する「賃上げ税制」の強化や、「住宅ローン減税」の控除率の引き下げなどを検討し、来月中旬までに与党の税制改正大綱を決定することにしています。

来年度の税制改正に向けて自民・公明両党は、26日、それぞれ税制調査会の総会を開き、本格的な議論を始めることにしています。

この中では岸田政権が目指す「成長と分配の好循環」の一環として、賃上げに積極的な企業を支援する「賃上げ税制」の強化が最大のテーマで、従業員一人一人の給与の引き上げにつながる適用要件の見直しや税額控除率の引き上げなどが焦点となる見通しです。

また、ことしの年末に適用期限を迎える「住宅ローン減税」を延長するにあたって、ローン残高の1%としている控除率の引き下げや、控除対象となる借り入れ限度額の扱いなどについて、検討を進めることにしています。

さらに、新型コロナウイルスの影響を緩和するため、今年度に限って行われている固定資産税の負担軽減措置を予定どおり終了するかどうかのほか、デジタル化や、大企業とベンチャー企業との連携を後押しするための優遇措置なども議論されます。

自民・公明両党は、税制調査会のメンバーを中心に議論を急ぎ、来月中旬までに与党の税制改正大綱を決定することにしています。

賃上げ税制(1)背景は

政府が「賃上げ税制」を強化しようとする背景には、企業が稼いだ利益が従業員に十分に還元されていないという問題意識があります。
財務省の法人企業統計調査によりますと、金融と保険を除く企業が手元に残している利益剰余金、いわゆる「内部留保」は、コロナ禍でも増え続けていて、昨年度は484兆円を超えて9年連続で過去最高を更新しています。
これに対して、OECD=経済協力開発機構によりますと、この30年間、先進各国の賃金は上昇している一方、日本ではほぼ横ばいの状況が続いています。

岸田総理大臣としては、「賃上げ税制」の抜本的な強化を通じて従業員の賃上げを広く促し、GDP=国内総生産の半分以上を占める「個人消費」を伸ばすことで、成長と分配の好循環を生み出したい考えです。

賃上げ税制(2)課題は

政府はこれまでも、税制を通じて企業に賃上げを促す「賃上げ税制」を行ってきました。

2013年度、デフレ脱却を目指していた当時の安倍総理大臣が経済界に賃上げを呼びかけた「官製春闘」の流れを税制面からも後押しするため創設されました。その後、この税制は、適用要件などを見直しながら現在まで続いています。

今の仕組みを見てみますと、大企業や中堅企業の場合、新卒や中途で採用した従業員の給与やボーナスの総額が、前の年度より2%以上増加していた場合、「支給額」の15%分が法人税から差し引かれます。

また、中小企業については、従業員全員の給与やボーナスの総額が前の年度より1.5%以上増えていれば、「増加額」の15%分が法人税から差し引かれます。

ただ、「賃上げ税制」が適用された実績を見ると、実効性の乏しさが浮き彫りとなります。

国内には企業などの「普通法人」の数が、令和元年度で276万社ありますが、財務省によりますと、減税措置が適用された法人数は、ここ数年、毎年13万社程度と、単純計算で、全体の4%余りにとどまっています。

また、中小企業の60%余りが赤字で、法人税を納めていないため、減税の恩恵を受けにくいという問題もあります。

さらに、企業が賃上げを行った場合、上げ幅に応じて企業が支払う社会保険料も増えるなど、将来にわたって人件費が増加していくことが見込まれます。

このため企業からは、「賃金は、一度上げると下げにくい。業績が伸びるという将来の見通しが立たなければ、賃上げには慎重にならざるをえない」という声も聞かれます。

自民党の宮沢税制調査会長はNHKなどのインタビューに対して、「これまでボーナスを上げることによって賃上げ税制の適用基準をクリアする流れだった。『賃上げをしてやろう』というより、結果的にこれは使えるね、という税制だった気がしている。今回議論する税制改正では、企業がかなり賃上げをしたいと思うような税制にしなければならない」と述べ、基本給などが引き上げられることで、成長につながる仕組みにしたいと強調しました。

来年度の税制改正では、これらの課題を克服する実効性のある具体策を示せるかが問われます。

賃上げ税制(3)中小メーカーからは厳しい声

新型コロナウイルスなどの影響を受け続ける中小のメーカーからは「現実を見ていない」などという厳しい声が上がっています。
東京 大田区にある創業58年のメーカーは、プラスチック部品の成形を手がけていて主に自動車向けの部品を製造しています。

新型コロナウイルスの感染状況は落ち着いてきていますが、世界的な半導体不足などの影響で大手自動車メーカーが大幅な減産に踏み切っていて、月全体の売り上げは例年より3割ほど減少した状況が続いています。

これは過去に大きな打撃を受けたリーマンショックや東日本大震災の際に次ぐ程度の落ち込みだといいます。
こうした中、会社は昨年から自動車メーカー以外の新たな取引先の開拓に取り組んでいます。注目しているのが医療や健康の分野です。

このうち一定の時間、握り続けることで血圧を下げる効果があるとされる健康器具は現在、受注を増やしている製品の一つで、会社では、器具に使われるプラスチック部品の製造や組み立てを担っています。

今後は海外も視野に自動車メーカー以外にも販路を広げていきたいとしています。
日進工業の竹元盛也社長(59)は「自動車業界は安定している時は長期間にわたって大量の製品が流れてくれるありがたい業界だが有事に弱い面もある。資本力がないわれわれはそれに振り回される立場で、ジェットコースターみたいな生産状況になるのはつらい。有事に強く安定している医療業界など自動車以外の新しい分野の仕事も開拓していきたいと思った」と話しています。

賃上げ「政府は現実見ていない」

一方、賃上げに積極的な企業を支援するため税額控除を引き上げるなどの「賃上げ税制」には否定的な立場です。

その理由について竹元社長は「会社の売り上げが上がって、利益が出て、初めて社員の給料などに反映される流れになる訳で、売り上げや利益がおぼつかない中では、賃上げをしたくてもできないというのが実際のところだ。『企業の経営に首を突っ込むな』というのが正直なところで、政府は現実を見ていないように思える。景気回復に向けていちばん最初にやることが賃上げではないことくらい分かるのではないか」と話しています。

そのうえで「みんな頑張ってくれているのでなんとか賃上げしたい気持ちはあるが、今はそのような状況ではない。浮ついた成長戦略ではなく、例えば製造業を支えるために何が必要だといったところまで落とし込んで考えなければ、何の対策にもならないと思う」と話していました。

賃上げ税制(4)専門家は

「賃上げ税制」について第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、「分配戦略として賃上げをサポートするのは不可欠なテーマで賛成だが、賃上げの主体となるのは中小企業で、その多くは賃金を引き上げる余力がそもそもなく税制改正だけでは恩恵が行き届かない。今回の経済対策では手薄だったが、中小企業の成長戦略がなければ賃上げに踏み切れないので課題が残ると思う。来年度予算などで二の矢、三の矢と中小企業の成長戦略を打ち出していくことが重要だ」と指摘しています。

住宅ローン減税

来年度の税制改正では、ことしの年末に適用期限を迎える「住宅ローン減税」の扱いも焦点となります。
住宅ローン減税では、年末時点のローン残高の1%を10年間、所得税から控除していますが、この制度は、ことしの年末に期限を迎えるため政府・与党は延長を前提に制度の見直しを検討する方針です。

制度では、低金利の環境が長期化する中、1%を下回る金利で住宅ローンを組んだ場合、支払い利息よりも多くの控除が受けられるため不必要なローンの利用につながっているとの指摘も出ています。

具体的に見てみます。

仮に年末時点のローン残高が4000万円の場合、控除率が1%の今の制度では年間に40万円の税額控除を受けられます。

しかし、年率0.4%の金利で住宅ローンを組んでいれば、支払い利息は年間16万円となるため、実際に払った利息を24万円上回る控除を受けられることになります。

このため、自民党の宮沢税制調査会長は「住宅ローン減税は、税によって利益を得る『益税』が出るという問題点があり、たださなければいけない」と強調していて、税制調査会では、年末時点のローン残高の1%としている控除率の引き下げについて議論することにしています。

また、控除の対象の借り入れ限度額も消費税率の引き上げに伴って現在は一般住宅で、4000万円まで拡充されていますが、この限度額の扱いなども検討される見通しです。

このほか、断熱性能を高めるなど、環境に配慮した一定の水準を満たした住宅の場合、借り入れ限度額を最大1000万円上乗せする措置がとられていますが、こうした優遇措置についても議論されます。

一方、税制改正で控除率が引き下げられたとしても、今の税制が適用されている人の控除率は維持されます。

新型コロナ影響 負担軽減の税制

新型コロナウイルスの影響が長引く中、厳しい状況に置かれている個人や企業の負担を軽減する税制なども議論されます。

▽収入が減少した人が生活費を借りることができる「緊急小口資金」と「総合支援資金」
生活費を借りた住民税の非課税世帯の人が返済免除となった場合、本来は所得とみなされて所得税の課税の対象となりますが、これを対象外とするかどうか検討します。

▽国内線の燃料にかかる「航空機燃料税」。
旅客需要の落ち込みが続く航空業界を支援するため、今年度に限って1キロリットル当たり9000円に引き下げる特例措置を導入していますが、来年度も同額で継続するかなどについて議論します。

租税特別措置

このほか、今年度末に期限を迎える法人税を特別に軽減する措置、「租税特別措置」の扱いも焦点になります。

▽政府は、工場のスマート化や遠隔医療、それに防災などの場面で社会課題の解決が期待される基幹インフラとして、新しい通信規格「5G」の普及を進めています。現在、5Gの導入を促進してデジタル化を加速させる企業を対象に、投資額の15%を法人税から差し引くなどの減税措置が導入されていますがこの措置の延長や控除額の水準などについて議論される見通しです。

▽新型コロナの影響が長引く中、大企業とベンチャー企業が連携して新たなサービスの創出を目指すなど、企業の事業再構築が課題となっています。現在、企業が成長の見込めるベンチャー企業などに一定額以上の投資をした場合、出資額の25%を課税対象となる所得から差し引く措置がとられていますが、この措置の拡充などについて検討します。