石油備蓄放出へ 決定の背景 ガソリン価格などへの影響は?

原油価格が高騰する中、日本政府はアメリカ・バイデン政権の要請を受けて石油の国家備蓄のうち国内消費量の数日分を放出することを正式に発表しました。

外国からの要請を踏まえ国家備蓄を放出するのは初めてとなりますが、専門家からは原油価格の引き下げ効果は一時的にとどまるという指摘も出ています。

放出決定の背景、今後のガソリン価格などへの影響についてまとめました。

岸田首相 石油の国家備蓄の一部放出決定を発表

岸田総理大臣は24日、記者団に対し、アメリカと協調し石油の国家備蓄の一部を放出することを決めたと明らかにしました。

そのうえで「原油価格の安定は、コロナからの経済回復を実現する上で大変重要な課題だ。政府としては今回の措置に限らず、産油国に対する働きかけや、農業、漁業などに対する業種別の対策、さらにはガソリン、石油の急激な値上がりに対する激変緩和措置、こうしたものもしっかりと行っていきたい」と強調しました。

石油備蓄 どうやって放出?

今回、経済産業省は石油の国家備蓄の放出にあたり、古い石油を新しい石油に入れ替える際の売却時期を前倒しするという方法で行います。

国はガソリンなどの供給不足や地震など緊急時に備えて石油を備蓄しています。ことし9月末時点で国内消費量の145日分を保管しています。
保管している石油の一部は年に数回、新しい石油に入れ替えられます。

古い石油は入札によって石油元売り会社や商社などに売却されることになっていて、当初は、来年春以降の実施を予定していました。

経済産業省ではこの入札時期を前倒しして一時的に備蓄量を減らす形で石油の放出を行うと説明しています。

国家備蓄されている国内消費量の145日分のうち数日分、数百万バレルを放出するとしています。

放出される石油は入札によって最も高い価格を提示した会社が購入し、最終的に各地のガソリンスタンドや海外に届けられることになります。

萩生田経済産業大臣は「売却時期、最終的な量については現在精査中だがいずれも法令に従い、公告入札などの手続きを可能なかぎり早く進めていきたい。引き続き、国際的なエネルギー市場の動向や日本経済に及ぼす影響を注視していくとともに関係省庁と連携しつつ産油国に対する増産の働きかけの継続などを着実に講じていく」と述べました。

米 原油価格上昇を抑えるねらい 日本や中国などと協調

原油高が続く中で決まった国家備蓄放出の方針。主導したのはガソリン価格を含む物価高に直面しているアメリカ・バイデン政権です。

供給量を増やして原油価格の上昇を抑えるねらいで他の主要な石油の消費国である日本、インド、韓国、イギリス、それに中国と協調した取り組みだとしています。

またアメリカとしては、向こう数か月で合わせて5000万バレルを放出するということです。

これについてバイデン政権の高官は、アメリカ政府が主導して主要な石油の消費国と足並みをそろえる形で備蓄を放出するのは初めてだとしたうえで「バイデン大統領は必要ならばさらなる行動をおこし、各国と連携して権限を最大限活用する用意がある」としています。

原油価格をめぐっては、サウジアラビアが主導するOPEC=石油輸出国機構とロシアなどの主な産油国が12月の追加増産を見送ったことで、今後も価格の高止まりが続くという見方があります。

米バイデン大統領「やがて価格下落」

バイデン大統領はホワイトハウスで演説し「新型コロナウイルスの感染拡大からの回復に必要な石油の供給を支援するため、アメリカの石油の備蓄から過去最大の放出を行う。各国と協調したこの動きが供給の不足を好転させ、価格が是正されることになる」と述べました。

そのうえで「ガソリンの高値という問題が一夜にして解決するわけではないが、事態は改善されるだろう。時間はかかるだろうが、やがて、皆さんが車にガソリンを入れる際に価格の下落を感じることができるはずだ」と述べ、放出の意義を強調しました。

東京原油市場 放出決定でも先物価格 大幅に値上がり

一方、東京原油市場で取り引きの中心となる原油の先物価格の24日の終値は22日より3230円高い、1キロリットル当たり5万5190円でした。

投資家の間では消費国側の備蓄放出に対してOPEC=石油輸出国機構などの産油国が反発し、北半球が本格的な冬に入る中で需給が引き締まるのではないかという懸念が広がり、大幅な値上がりにつながりました。

市場関係者は「今回の備蓄放出を受けて、一部の産油国から今後の追加の増産について消極的な反応も出ている。需給の緩和につながる材料に乏しいため、原油価格の高止まりは続くのではないか」と話しています。

ガソリンスタンドでは…

政府がアメリカと協調して石油の国家備蓄の一部を放出する方針を決めたことについて、東京 世田谷区のガソリンスタンドで聞きました。

スタンドを訪れた男性の1人は「いつも3000円分入れていますが、入れられるガソリンの量が少なくなっていきます。備蓄の放出は初めてのことなのでどうなるかわからないですが、ガソリンが安くなってほしいです」と話していました。

別の男性は「安定的な価格になればいいと思いますが、地震などの災害に備えて備蓄は備蓄でとっておいたほうがいいのかなとも思います」と話していました。
ガソリンスタンドの佐藤大所長は「緊急事態宣言が明けて、客足は戻りつつありますが、ガソリンが高値でなければ、もっと多かったのではないかと思います。国家備蓄の放出で、何円下がるのかは全く予測がつきませんが、現状よりも下がる要因になってもらえれば助かります」と話していました。

バス会社 燃料の値下がりを期待する声

山形市に本社を置き、路線バスや高速バス、それに観光バスを運行している「山交バス」は、最近は新型コロナの感染拡大で落ち込んでいた利用客数が回復傾向にあるものの、原油価格の高騰が経営に影響を与えていると話しています。

燃料となる軽油の仕入れ価格が去年の同じ時期に比べて1リットル当たり30円ほど値上がりした影響で、燃料費が月に数百万円程度増加しているということです。
日本政府が石油の国家備蓄の一部を放出することを決めたことについて、結城敦常務は「燃料の消費をできるだけ抑えるような運転を運転手に徹底させているが、みずからの工夫でこれ以上コストを減らすことは難しい。国の備蓄を放出して軽油の供給量が増えれば価格も落ち着くと思うので、とても期待しています」と話していました。

米バイデン政権のねらいは?ワシントン支局記者解説

Q:各国が協調して備蓄を放出する今回の対応。効果は上がるのか?
A:バイデン政権の高官は、効果はすでに出ていると強調しています。今回の備蓄放出の検討が伝えられたことをきっかけに、原油の先物価格がこのところすでに値下がりしていたからです。

ただ、実際、効果は長続きしないとの見方もあります。

世界の石油の消費量は一日当たり平均で1億バレルに上りますが、アメリカが放出を決めたのは、向こう数か月間で5000万バレル。日本などを含めた全体でも放出量には限りがあるとみられていて、発表を受けたニューヨーク市場では、原油の先物価格は逆に値上がりしました。

今後の焦点は産油国の対応です。消費国が供給を増やせば、産油国側はその分、生産を絞るとの観測もあるからです。来週、産油国が来年1月の生産量を話す会議があり、議論の内容は注視していく必要があります。

Q:このタイミングで発表したバイデン政権のねらいは?
A:背景には、バイデン大統領の支持率が就任以来、最低の水準にまで下がっていることがあります。

ガソリン価格に代表される物価高が支持率低下に追い打ちをかけていただけに、早急に手を打ちたかったものと見られます。アメリカでは、今週後半から感謝祭の休暇に入り、来月にはクリスマス休暇を迎えます。
車社会のアメリカで、多くの国民が車を使って移動することもあり、政府として、国民生活を守る姿勢をアピールしたいねらいがあるとみられます。

バイデン政権は、原油価格を抑えるため、産油国に増産を呼びかけてきましたが、それは功を奏してきませんでした。このため、主要な消費国側に呼びかけて、異例の協調放出に打って出たという経緯もあり、ねらった効果が上げられるかどうか、政権にとって大きな意味を持ちそうです。

放出決定の背景・ガソリン価格への影響は?経済部デスク解説

Q:日本政府が異例とも言える国家備蓄の放出を決めた背景は?
A:日本も原油高をなんとかしなければと思っていました。先週、決定した新たな経済対策では、レギュラーガソリンが1リットル当たり170円を超えたら、石油の元売り会社に補助金を出して、小売価格の上昇を抑えようという異例の対策に乗り出すことを決めていました。
それに加えて、アメリカからの「非常に強い要請」を受け、協調に応じることにしました。

Q:今回の国家備蓄からの放出は相当異例なこと?
A:備蓄の方法には▽国が備蓄する「国家備蓄」、▽民間の石油会社に義務づけた「民間備蓄」などがあります。これまで東日本大震災の時など緊急時に民間備蓄を放出したことはあります。

しかし、今回のような価格対策としての放出はそもそも法律では想定していません。ですが、強い要請に応えるため国家備蓄のうち「余剰に蓄えている分」ならば、放出可能だろうと判断して協調に応じました。いわば苦肉の策という面もあります。

Q:原油の先物価格は上がっているようですが、生活に関わるガソリンや灯油などの価格は、今後ねらいどおりに抑えられるのか?
A:放出できる備蓄量には限りがあります。ですので政府内にも効果を疑問視する声はあったんです。

実際、原油市場は先物価格が今のことろ(日本時間24日朝現在)値上がりで反応しているので、ねらいどおりガソリンや灯油の価格が抑えられるかは不透明です。

さらに外国為替市場では円安も進んでいます。これは輸入コストをさらに押し上げることになるので、日本にとってはダブルパンチということになります。

ガソリン価格が2014年以来の水準に上昇し、これから暖房用の灯油需要なども増加します。価格高騰が心配な状況は続きそうです。

専門家「ガソリン価格 なかなか下がらず」

日本総合研究所 マクロ経済研究センターの石川智久所長は、日本政府が石油の国家備蓄のうち一部を放出すると決めたことが原油価格に与える影響について、「インパクトがあったのは事実だが、国家備蓄の量は限られている。無限に備蓄があるわけではないので、効果は一時的にとどまるのではないか」と指摘しました。

また、今後の見通しについては、OPECなどの産油国が増産に踏み切るかどうかを注視する必要があるとしたうえで、「北半球はこれから冬を迎えて暖房需要がある。また、再生可能エネルギーが優先され油田の開発が進まないなど供給が増えていかないこともあり、原油価格は下がりにくい状況が続くと思う」と述べました。

そのうえで、市民生活への影響については、「原油価格が高止まりしているのでガソリン価格はなかなか下がらず、軽油など他の燃料も下がらず、消費者の生活はかなり厳しい影響が出てくるのではないか」と指摘しました。