政府 新たな経済対策を決定 財政支出 総額55兆円余

新型コロナで影響を受けた人たちへの支援や経済の再生に向けて、政府は、18歳以下を対象とする1人当たり10万円相当の給付などを含む、新たな経済対策を決定しました。
財政支出の総額は55兆円余りと、これまでで最大となります。

政府は19日、臨時閣議を開き、新型コロナの感染拡大の防止や「ウィズコロナ」のもとでの経済社会活動の再開と次の危機への備え、未来社会を切り開く「新しい資本主義」の起動、それに防災・減災、国土強じん化の推進など、4つを柱に据えた新たな経済対策を正式に決定しました。

具体的には、18歳以下を対象として、1人当たり10万円相当の給付を行うことが盛り込まれ、所得制限として、夫婦のうち、どちらかの年収が960万円以上の世帯は、一定の条件のもとで対象から除くとしています。

また、売り上げが大きく減った事業者に対し、250万円を上限に給付を行うことや、原油高を踏まえ、ガソリンなどの小売価格の急騰を抑える措置を講じることなども盛り込んでいます。
さらに、成長戦略や経済安全保障につながる施策として、大学の研究レベルを高めるため、10兆円規模で大学ファンドの運用を始めるほか、半導体の国内生産を支援する基金を設けるなどとしています。

新たな経済対策は、国と地方の歳出が49兆7000億円程度、それに財政投融資を含めた財政支出の総額は55兆7000億円程度と、これまでで最大規模となります。

さらに、対策に伴う民間の支出なども含めた事業規模は78兆9000億円程度となっています。

政府は、財政支出のうち31兆9000億円について、今年度の補正予算案に盛り込んだ上で、来月6日にも召集する臨時国会で成立を目指す方針です。

岸田首相「直接の経済効果 GDP換算で5.6%程度見込まれる」

新たな経済対策について、岸田総理大臣は、直接の経済効果はGDP=国内総生産に換算して5.6%程度が見込まれるとして、山際経済再生担当大臣に対し、最大限の効果を上げられるよう万全の対応をとることを指示しました。

岸田総理大臣は、総理大臣官邸で開かれた経済財政諮問会議で、新たな経済対策について「コロナ禍で厳しい影響を受けた方々に寄り添って万全の支援を行うとともに、成長戦略と分配戦略により新しい資本主義を起動していくものだ」と述べました。

そのうえで、対策の直接の経済効果はGDP=国内総生産に換算して5.6%程度が見込まれるとして「スピード感をもって執行していくことにより、コロナ禍で痛んだ経済を立て直し、1日も早く成長軌道に乗せていく」と強調しました。

そして、山際経済再生担当大臣に対し、それぞれの政策を所管する閣僚と連携して最大限の効果を上げられるよう、万全の対応をとることを指示しました。
新たな経済対策の詳しい内容について、4つの柱ごとに見ていきます。

新型コロナウイルスの感染拡大防止

1つめの柱は「新型コロナウイルスの感染拡大防止」です。
緊急かつ最重要の課題に位置づけ「今後、感染力が2倍になった場合にも対応可能な医療提供体制の強化を図る」としています。

具体的には、公立病院などの病床を新型コロナ専用にすることや、全国の医療機関の状況を一元的に把握できるシステムを活用することなどにより、感染が再拡大した場合には確保した病床の8割以上を確実に稼働できる体制を築くとしました。

このほか、ワクチンの追加接種も無料にすること、経口治療薬の年内の実用化を目指し、承認された経口薬は国が買い上げて必要量を確保することなども掲げています。

さらに、コロナ禍で厳しい状況にある暮らしや事業への支援も、1つめの柱の中に盛り込んでいます。

18歳以下を対象に1人当たり10万円相当の給付を行います。

このうち5万円は、児童手当の仕組みを活用して年内に現金で支給を始め、残りの5万円は、来年春の卒業・入学シーズンに向け、子育て関連の商品やサービスに利用できるクーポンを基本に給付するとしています。

ただ、給付にあたっては所得制限を設けていて、夫婦のうち、どちらかの年収が960万円以上の世帯は、一定の条件のもとで対象から除くとしています。

また、住民税が非課税の世帯に対して、1世帯当たり10万円の現金給付を行います。

一方、事業者への支援では、コロナ禍で売り上げが大きく減少した事業者に対し、地域や業種を限定しない形で減収した分を給付します。

給付額は、法人が事業規模に応じて上限250万円、個人事業主が上限50万円となっています。

『ウィズコロナ』のもとでの社会経済活動の再開と備え

2つめの柱は「『ウィズコロナ』のもとでの社会経済活動の再開と次の危機への備え」です。
希望者全員へのワクチン接種を促すとともに、観光需要の喚起策「Go Toトラベル」は、週末の混雑を避ける工夫や中小のホテル・旅館にも利用を広げるための見直しを検討したうえで、専門家の意見なども十分踏まえつつ、再開に向けた準備を整えるとしました。

未来社会を切り開く『新しい資本主義』の起動

3つめの柱は「未来社会を切り開く『新しい資本主義』の起動」です。
成長戦略として、大学の研究レベルを世界最高水準に高めるため、10兆円規模の大学ファンドの運用を年度内をめどに始めることや、経済安全保障の強化に向け、半導体の製造拠点の国内整備を促すための基金を設けることなどを盛り込んでいます。

また、分配戦略として、賃上げを行う企業への税制支援の抜本的な強化や、最低賃金引き上げへの対応を支援するための助成の拡充なども掲げました。

さらに、公的価格の在り方の抜本的な見直しに向けて、コロナ医療などを担う看護師を対象に、段階的に3%程度の賃上げを目指し、まずは1%程度、月額4000円の引き上げを来年2月から行うとしています。

介護、保育などの現場で働く人の収入についても、3%程度引き上げるため、必要な措置をとるとしました。

このほか、子育て世帯や若者夫婦への支援策の一環として、省エネ性能の高い住宅を取得した場合に、一定額を補助することなども盛り込んでいます。

防災・減災、国土強じん化の推進など安全・安心の確保

4つめの柱は「防災・減災、国土強じん化の推進など安全・安心の確保」です。
大雨や地震などの災害への備えを強化するとともに、東日本大震災からの復興に引き続き全力で取り組むとしています。

専門家「費用対効果は限定的」

今回の経済対策が日本経済に与える影響について野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは、日本のGDP=国内総生産をおよそ16兆円、率にして年間3%程度押し上げると試算していますが「先に規模ありき」という印象で費用対効果は限定的になると指摘しています。

まず、18歳以下を対象とする10万円相当の給付については「試算では個人消費を6600億円程度押し上げる計算で一定の効果はあるが、かなりの部分が貯蓄に回ると考えられ、経済対策としての費用対効果は高くない」と分析しています。

そのうえで「経済対策だけはなく困っている人への支援策も必要だが、給付の対象が広すぎて本当に困っている人に届く制度設計になっていないのが問題だ。例えば、コロナで打撃を受けている飲食、宿泊、旅行関連で働く人などに、ピンポイントでお金を配る仕組みでないと支援にはつながりにくく、子どもがいるかいないかで対象を分けるのはおかしい気がする」と話しています。

そして「本来であれば、コロナ対策や物価高対策に支出を集約すべきだったが、それ以外の経済安全保障や先端産業支援など緊急性のない長期的な視点の施策も多く盛り込まれていて、経済対策の規模を競って国民にアピールする『先に規模ありき』という印象が否めない。財源の議論も素通りになってしまっているのではないか」と指摘しています。

一方、売り上げが減った事業者に対する最大250万円の給付については「休業要請などに協力した飲食店に対しては協力金が支払われてきたが、それ以外の業種への支援が手薄になっている。所得収入が落ちた中小企業を地域と業種を問わず支援することは必要で、事業者への給付金は評価できる」と話しています。

その上で、木内氏は「岸田内閣が掲げる『成長と分配の好循環』を実現するためには、なかなか所得が上がらないという経済状況を変える必要がある。ただ、税制面で一時的に賃金を引き上げ、コントロールしようとするのは弊害も大きい。賃金が自然に上がっていくような成長戦略や構造改革のほうに政策の重点を置くべきだ」と指摘しています。

専門家「持続的な対策が必要」

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の経済対策の効果は長く続かないとして、持続的な対策が必要だと指摘しています。

熊野氏はまず「今回の経済対策で特に目立つのが給付金だが、実際に消費や需要に結び付くのは、ごくわずかだとみている。感染が収束しつつある中でのリベンジ消費は息が長くないと予想されるので、Go Toトラベルを見直した形で観光支援で需要を呼び起こし、弱り切った観光、娯楽、飲食業界などに効果を出していくことが期待される」と話しています。

そのうえで、岸田内閣が目指す賃上げについては「分配戦略として賃上げをサポートするのは不可欠なテーマで賛成だが、中小企業の多くは賃金を引き上げる余力がそもそもなく、税制改正だけでは恩恵が行き届かない。今回の経済対策では手薄だったが、成長戦略がなければ賃上げに踏み切れないので、来年度予算などで二の矢、三の矢と中小企業の成長戦略を打ち出していくことが重要だ」と指摘しています。

また、熊野氏は「55兆円という巨額の支出について、国民に対するきちんとした説明が必要で『選挙に勝ったから』というだけでは不十分だ。未来の日本をつくろうとしているのに、将来に対して巨大なツケをつくったのでは矛盾してしまうので、経済成長を軌道に乗せて将来の所得を増やす起爆剤になるようなものにしてほしい」と話しています。

松野官房長官「傷んだ経済 立て直す」

松野官房長官は、臨時閣議のあとの記者会見で「新型コロナウイルス感染症が長期化し、影響がさまざまな人々に及ぶ中、子育て世帯については、子どもたちを力強く支援し、未来をひらく観点から、0歳から高校3年生の子どもたちに1人当たり10万円相当の給付を行うことにした。丁寧に説明を行いつつ、できるだけ早くお届けしたい」と述べました。

そのうえで「コロナ禍で傷んだ経済を立て直し、社会経済活動の再開を後押しするとともに『成長と分配の好循環』を通じて自立的な経済成長を実現していきたい。経済をしっかり立て直し、そして、財政健全化に取り組むというのが基本的な考え方だ」と述べました。

そして松野官房長官は、経済対策の裏付けとなる今年度の補正予算案を今月26日に閣議決定することを明らかにしました。

鈴木財務相「補正予算案 早期成立を」

鈴木財務大臣は、臨時閣議のあとの記者会見で「新型コロナウイルスの感染再拡大に向かうリスクを排除することはできず、今後も対応に万全を期していく必要がある。予算が支出されることで、国民の皆さんの期待に応えられる」と述べ、経済対策の裏付けとなる今年度の補正予算案を編成し、臨時国会での速やかな成立を目指す姿勢を強調しました。

そのうえで、国と地方の歳出に財政投融資を加えた財政支出の総額が過去最大の規模となったことについては「関係省庁間で議論を重ね、与党とも調整したうえで、必要不可欠な施策を積み上げたものだ。バラマキにはあたらない」と述べました。

山際経済再生担当相「1日も早く実行を」

山際経済再生担当大臣は、臨時閣議のあとの記者会見で「今の段階で考えうる政策を盛り込んだ結果だ。各省各大臣が1日も早く実行できるよう努力していかなければならない。結果としてそれが経済を下支えし、押し上げる効果が出てくる」と述べました。

自民 福田総務会長「非常にバランスが取れた対策」

自民党の福田総務会長は、記者会見で「年末年始にかけて感染者が増える可能性は十分にある。予算のほとんどがコロナ対策に積まれ、国民に注意を求めると同時に、何かあったときにはしっかりと対策を講じるという姿勢を示した、非常にバランスが取れた対策だ。国民に対し『前に進もう』というメッセージをしっかり政府として出してもらいたい」と述べました。

公明 山口代表「大きな起爆剤になり得る」

公明党の山口代表は、政府与党政策懇談会のあと「力強い対応策で、大きな起爆剤になり得る。経済の再生に向け、特に成長と分配の好循環に重きを置いた対策がちりばめられている。先の衆議院選挙で訴えたことも最大限盛り込まれ、速やかに裏付けとなる今年度の補正予算案や来年度予算案を作ることが大事だ」と述べました。