コロナ対策 医療ひっ迫度重視の「5段階レベル」まとまる

新型コロナウイルス対策にあたる政府の分科会が開かれ、これまで対策を検討する元としてきた「ステージ」の考え方を改め、医療のひっ迫の度合いをより重視して5段階のレベルに分けて対策を行うとする新たな考え方がまとめられました。

ワクチン接種や治療薬の開発が進むなど状況が変わってきたとして、医療のひっ迫が起きない水準に感染を抑えることで日常生活や社会経済活動の回復を促すべきだとしています。

政府の分科会は8日に会合を開き、新型コロナ対策を検討する元となる新たなレベル分類の考え方をまとめました。

新たな考え方では、都道府県ごとの感染状況を感染者がいない状況を維持できている「レベル0」から一般医療を大きく制限しても新型コロナの医療に対応できない「レベル4」まで5つの段階に分け、それぞれ求められる対策を示しています。

5段階のうち感染者がいても安定的に医療の対応ができる「レベル1」を「維持すべきレベル」としていて、ワクチン接種をさらに進めて医療体制を強化するとともにマスクや消毒などの基本的な感染対策を行うことで、日常生活や社会経済活動の段階的な回復が可能だとしています。

レベル2 「警戒を強化すべきレベル」

「レベル2」は感染者の増加傾向が見られ、医療の負荷が起き始めているものの病床の数を増やすことで医療が必要な人への適切な対応ができている状況で「警戒を強化すべきレベル」としています。

その時点での感染や医療の状況や予測を都道府県が示し感染リスクの高い行動を避けるよう呼びかけ、保健所の体制強化や病床の確保を段階的に進めることが求められるとしています。

レベル3「対策を強化すべきレベル」

「レベル3」は一般医療を相当程度制限しなければコロナ対応ができない「対策を強化すべきレベル」で、これまでの考え方では「ステージ3の最終局面」か「ステージ4」にあたるとしています。

各都道府県が「確保している病床の数」が「3週間後に必要と推計される病床の数」に達した場合や、病床の使用率が50%を超えた場合に「レベル3」であると判断するとしていて、特に大都市圏では緊急事態宣言や病床のさらなる確保に加えて飲食店やイベントの人数や時間の制限などが求められるとしています。

レベル4「避けたいレベル」

最も深刻な「レベル4」は一般医療を大きく制限しても新型コロナの医療に対応できない状況で「避けたいレベル」だとしています。

入院が必要な患者数が最大確保病床数を超えた状況で、この段階では一般医療の更なる制限や地域を越えた病床の調整など「災害医療」としての対応が求められるとしています。

レベルの判断 各都道府県が指標と「予測ツール」で

分科会は医療がどれだけひっ迫するかは各都道府県で異なるためレベルの判断は各都道府県が感染者数や増加率、検査の陽性率、病床使用率、自宅での療養者と療養調整中の人の数、重症者数などの指標とともに今後の状況を「予測するツール」を使って判断し、医療の状況が悪化する場合には緊急事態宣言などの強い対策も必要になるとしています。

一方で、強い対策を解除する目安についてはこれまでの考え方を維持して
▽病床使用率が50%未満
▽入院率や重症者数が改善傾向にあること
▽自宅での療養者と療養調整中の人の数の合計が大都市圏では10万人当たり60人程度に向けて確実に減少していること
▽感染者数が2週間ほど続けて下降傾向にあることなどをもとに
解除する必要があるとしています。

尾身会長「医療ひっ迫状況をより重視 予測ツール活用を」

「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の尾身茂会長は会合のあと報道陣の取材に応じ、医療のひっ迫の度合いをより重視して5段階のレベルに分けて対策を行うとする新たな考え方について分科会で合意したと述べました。

そのうえで「今回、新たなレベル分類を示したのは感染の状況を医療体制がひっ迫しない水準に抑え、社会経済の活動や日常生活を取り戻すことが目的だ。そのためにもちろん感染状況も引き続き注視するが、医療ひっ迫の状況をより重視して見ていくことになる。さらに国や自治体が必要な対策を遅れることなく実行に移せるよう、これまで参考にしてきた各指標に加えて今回、開発された感染や医療の状況を予測するためのツールを活用してもらいたい。その時点だけでなく2、3週間後に状況がどうなるのか推定しながら早めに対策を打ってもらうことが重要だ」と述べました。

「今夏の状況を繰り返さないために」

記者会見で「新型コロナウイルス感染症対策分科会」の尾身茂会長は「これまでのステージ分類は感染や医療の状況を客観的に見て対策を打つ判断の参考にしてもらうためのものだった。今回のレベルの考え方では対応が安定的に行える『レベル1』を維持したいというあるべき状況を示していて、それに向けて対策を行ってもらいたいという強い思いがある。現在、国内の多くの地域はレベル1の状態だと思う。一方でこの夏の第5波で私たちが経験した非常に厳しい状況がレベル4の状態のイメージだ。あのような状況を決して繰り返さないようにすることが今回新たなレベル分類を設定するにあたっての哲学だ」と述べました。

新たなレベルの考え方では全国一律での具体的な数値の指標を設定しませんでしたが、これについては「感染者数と医療ひっ迫の関係は地域によって大きく変わってくるため、統一的な指標を使うことはなかなか難しいということがこれまでの対応でも分かったと思う。今回、分科会で示したツールも使いながら、各都道府県でその時点の状況をもとに継続的に数週間後の状況を予測し、遅れることなく対策を行ってもらいたい。専門家としても厚生労働省の専門家会合などを通じて各地域の状況を頻繁に分析し共有するようにしていきたい」と話しています。

また尾身会長は「これまで長い間、一般診療を制限することでコロナへの対応を行ってきたし、今も第6波への備えのため一般診療を制限している部分もある。コロナ診療と一般診療のバランスをどのようにとるのか、そろそろ分科会で議論しなければならないという意見が出た。早晩そういう場が設けられると思う」と述べました。

「予測ツール」とは

レベルを判断する際に使われる今後の医療の状況の「予測ツール」は京都大学の古瀬祐気特定准教授らのグループが作成したもので、感染状況などを入力することで数週間後、医療体制にどのくらいの負荷がかかるのか数理モデルを使って予測します。

すでにWEBサイトで公開されていて誰でも使えるようになっています。

「予測ツール」ではこれまでのデータをもとにワクチンの有効性や治療薬の状況、感染者のうち酸素投与を必要とする人の年齢別の割合や重症化率、それに入院期間などが設定されています。

そこに都道府県の担当者などが感染の規模や感染拡大のスピード、ワクチンの接種率、使用している病床数などその時点の値を入力すると1週間後から4週間後までに予測される「酸素投与を必要とする人の数」や「重症者数」それに「必要な病床数」が表示されるようになっています。

グループによりますと、予測される値は感染拡大のスピードが4週間にわたって変わらないという想定になっていて実際には感染状況や対策によって人々の行動などが変わり、感染状況も変化することから予測どおりになる蓋然性は高くないということです。

ただ得られた結果をもとに医療体制の拡充や対策の強化といった必要な対策をとる際の判断の参考に使うことができるとしています。

分科会の尾身茂会長は「予測ツールの結果を絶対視することはできないが、このツールの最大の目的は対策や状況を判断するにあたってこれまでとは異なる見方を提供するということだ。数値の入力のしかたなど技術的なポイントがいくつかあるが、習熟してもらうのにそこまで時間はかからないと思うので各地域からの問い合わせに国にも対応してもらいたいし、専門家としてもできるかぎり対応したい」と述べました。