留学生受け入れ再開 日本留学目指す外国人の期待や悩みとは?

政府は、これまで原則停止してきた、留学生をはじめとする外国人の新規入国について、受け入れる大学などが、行動を管理することを条件に入国を認めることを決めました。

留学を目指す外国人の中には、1年以上にわたって自国で待機していた人もいます。

「日本で学びたい」と、その日を心待ちにしていた外国人たちは、どう受け止めているのでしょうか。

期待することや悩みについて、聞きました。

(国際部記者 近藤由香利)

日本の法制度を学んで、母国に貢献したい

今回話を聞かせてもらったのは、いずれも日本への留学を目指している南米コロンビアとイタリアに暮らす2人です。
このうち、コロンビアに住むマリア・ゴンザレスさん(24)は、日本の法制度などを学び、母国に貢献したいと、去年4月から東京の大学院に留学する予定でした。

しかし、新型コロナウイルスの影響で入国できず、1年半以上コロンビアで受け入れの再開を待っているといいます。今回の受け入れ再開で、来年4月から大学院に留学できる見通しです。

ゴンザレスさんの当初の計画より、2年遅れての留学となります。

Q.
留学生をはじめとする外国人の受け入れが再開されることになりました。どんな気持ちですか?

A.
とても信じられませんでした。ずっと待ち望んでいたことだったので、日本にいつ行けるのか、日本政府が何か発表していないか、毎朝起きたらチェックしていました。

だから、とてもワクワクしています。

一方で、私が日本に行くのは来年なので、再び感染が拡大して、入国が制限されないかが心配です。

Q. この間、どう過ごしてきましたか。

A.
ずっと不安な気持ちで過ごしていました。まわりの友人たちを見るとキャリアを積んだり、結婚したりして前に進んでいるのに、私だけ取り残されている感覚でした。

日本に行くことを諦めて、カナダや韓国といった別の国に変更したほうがいいのかもしれないと考えたこともあります。

Q. つらかったことはありますか。

A.
私は日中フルタイムで働いているのですが、ことしの4月からは日本の大学院のオンライン授業を受けていました。

日本との時差が14時間あるので、夜9時から翌朝4時の授業を受けると、睡眠時間をこま切れにしか取れませんでした。ストレスのせいか、家族にきつく当たってしまうなど精神的に不安定になり、授業を受けるのは途中でやめました。

Q.
それでも、日本に留学することを諦めなかったのはなぜですか。

A.
なぜ日本の治安がよいのか、平和なのかを法制度や文化から学びたいからです。

コロンビアの治安はよくありません。小さいころから、殺人やテロなどのニュースを見てきました。

祖父は地元のゲリラに誘拐され、両親は身代金を払うため、家などの資産をすべて売って、資金を作りました。

でも「日本では子ども1人で学校に通ったり、電車に乗ったりしているよ」と日本人の友人に聞いて、本当に驚きました。

私の国では考えられません。

だから、同じようなことが、コロンビアでどうしたら実現できるのか、日本で学びたいのです。

日本で博士号を取得したい、でも諦めている

一方で、今回の受け入れ再開を、素直に喜ぶことができていない人もいます。

イタリアの大学院で日本語と日本文学を専攻しているジュリア・ルッツオさん(27)です。

日本政府の奨学金に応募して、日本文学の博士号の取得を目指そうと、交換留学生として日本で文献収集を行い、応募の準備をする予定でした。

しかし、1年半以上にわたって日本に行けなかったため、質の高い文献などに当たれず、奨学金の応募に向けた準備がほとんどできなかったといいます。

Q.
留学生をはじめとする外国人の受け入れが再開されることになりました。どのように受け止めていますか。

A.
正直、複雑な気持ちです。いつ留学生の受け入れを再開するかという情報がなかったので、手続き上の都合で11月1日に日本のビザの発給に必要な書類を返納しなければならなかったからです。

もし返納していなければ、日本に行って、奨学金の申請に必要な研究の準備ができたと思います。

今回の受け入れ再開の発表が急すぎて、留学生が困らないよう見通しを先に示してほしかったです。

Q. この間、どのように過ごしてきましたか。

A.
将来、翻訳家として日本で働くのが私の夢で、日本へ行くことが憧れです。

一方で、いつまで待てばいいのか、私の将来はどうなってしまうのか、といったことがとても不安でした。まわりから「日本に留学できないなら、別の国に変更したら?」と言われたこともありましたが、私がしたいのは、日本語と日本文学を学ぶことなんです。

不安になると、大好きな桐野夏生さんなどの小説を読んで、モチベーションを保とうとしていました。

Q. いちばん大変だったことは何ですか。

A. 交換留学生が受け取る奨学金をもらう予定でしたが、「ことし8月中に日本にいなければならない」という理由で、1円ももらうことなく、資格を失いました。今後、日本に行けたとしても、すべて自費でまかなわなければなりません。

奨学金の資格がなくなったと知ったとき、「私が何をしたのだろう」と思い、突然泣いてしまうほど、つらかったです。

今も3つのアルバイトを掛け持ちしながら、日本で生活する場合に備えてお金をためています。

Q. 今後はどうする考えですか。

A.
もし日本政府の奨学金がもらえなければ、ほかのアジアの国の大学院で、日本文学が研究できるところがないか考えています。それも難しい場合に備えて、日本語学校に行くことも検討しています。

正直、自分の今後の人生は全く分かりません。ただ「日本の大学院で日本文学を研究する夢」を実現するのは非常に困難だと思っています。

今回の留学生受け入れ再開について専門家は

今回の日本政府の措置をどう見ているのか、留学生政策が専門の一橋大学の太田浩教授にも話を聞きました。

Q. 留学生の受け入れが再開されることについて、どう受け止めていますか。

A.
大学や日本語学校にとっては朗報です。

それと同時に、これまで待機してきた多くの留学生をどのようにスムーズに入国させることができるのか、これからが大変だとも思います。

Q.
長期的に留学生が入国できていないことで、どんな影響が出ていますか。

A.
まず、日本語学校が最も影響を受けています。多くの学校が存続の危機に直面しています。

また、大学でも、交換留学プログラムを含めて相当大きな影響が出ています。

私の大学でも今は交換留学で日本の学生を海外の大学に送り出していますが、海外からの学生は受け入れていません。

短期的に見れば、感染対策として国内的にはよいのかもしれませんが、長期的に見ると、相互交流できないとなれば国際的に信用を失いかねないと思います。

Q. 今後、懸念している影響はありますか。

A. 日本の大学に進学する留学生の多くは、日本語学校で日本語を学んでから入学しています。

しかしこの間、日本語学校に来る留学生が大幅に減っているので、来年、再来年に大学に進学する留学生が大幅に減る可能性があり、長期的に影響が続くとみています。

「日本で学びたい」という外国人の思いを実現するために

今回取材した外国人の中には、「これ以上待てない」という理由で、日本への留学を諦めて、別の国に留学先を変更した人もいました。

留学生は、将来を担う“私たちの仲間”になるかもしれません。

感染対策とのバランスを図りながら、いかに「日本で学びたい」という外国人の思いを実現していけるのか。

引き続き取材をしていきたいと思います。