米FRB コロナ禍対応「量的緩和」縮小へ 世界経済への影響は

アメリカの金融政策が大きな転換点を迎えます。中央銀行に当たるFRB=連邦準備制度理事会は、このあと日本時間の4日未明、コロナ禍の危機対応として導入した「量的緩和」の規模の縮小を正式に決める見込みです。今後の政策転換の進め方によっては、世界経済の回復にも大きな影響を及ぼすだけに、その行方が焦点となります。

FRBは、新型コロナウイルスの感染が急拡大した去年3月、危機対応として、ゼロ金利と、市場に大量の資金を供給する量的緩和の2つの金融緩和策を導入し、経済の下支えを図ってきました。

このうちの量的緩和についてFRBは、2日と3日に開く会合で、市場に供給する資金を段階的に減らしていく「テーパリング」と呼ばれる対応の開始を正式に決める見込みです。

経済活動の再開で雇用情勢などが改善したためで、最初の感染拡大から1年8か月を経て、アメリカの金融政策は転換の節目を迎えることになります。

ただ、アメリカでは、供給網の混乱や人手不足などを背景に物価の上昇が長引き、景気回復の勢いも鈍っています。

また、コロナ禍の影響が残る新興国では、FRBがゼロ金利についても早期に解除し、金融政策が引き締めに向かうとの観測から、通貨安が進み始めています。

IMF=国際通貨基金のトビアス・エイドリアン金融資本市場局長はNHKのインタビューで「世界の資本市場はドルに大きく依存している。アメリカの金融政策の引き締めによって、新興国で通貨が下落して輸入品の価格が上昇したり、資本の流出が起きたりして、経済にさらに逆風となる可能性がある」と述べ、今後の政策転換の進め方に警鐘を鳴らしました。

FRBは日本時間の4日未明に会合の結果を公表する予定で、今後のゼロ金利の解除の時期も含め政策転換をどのようなペースで進めるかが焦点になります。

決断の背景に“物価上昇の長期化”への警戒

FRBが量的緩和の規模の縮小に踏み出す背景には、国内の景気の回復だけでなく、物価上昇が長引くことへの警戒があります。

アメリカでは、コロナ禍でストップした経済活動が再開され、さまざまなものの需要が急激に回復した一方で、世界的な供給網の混乱による品不足や人手不足、それに原油価格の高騰などもあって物価が上昇しています。

この結果、消費者物価指数は、FRBが目安とする2%程度を大きく上回る5%台が5か月続く異例の状況になっています。

中西部オハイオ州にある99セントショップ、日本の100円ショップに当たる店では、先月、冬物のマフラーや手袋を本来の99セントから1ドル39セントに引き上げるなど、商品の値上げを始めました。

商品のほとんどが中国などからの輸入品ですが、仕入れ値が高騰し、原価割れの事態が起きてきたためです。

創業26年のこの店で商品を値上げするのは初めてだということで、オーナーのナディム・カリルさんは「99セントのまま経営を続けるのが難しくなっています。心が折れそうです」と話していました。

物価の上昇が長期化するにつれて、FRB内部では、景気刺激策の「量的緩和」をこのまま継続すれば、インフレが加速してしまうおそれがあるという懸念が広がり、緩和縮小を支持する意見が増えていきました。

新興国の通貨安進む 経済回復への影響懸念

アメリカの政策転換を見越して一部の新興国ではすでに通貨安が進んでいて、輸入品などの値上がりを通じてコロナ禍からの立て直しにマイナスの影響を与えることが懸念されています。

外国為替市場では、ドルが買われて一部の新興国の通貨が売られやすくなっていて、先週26日時点のドルに対するレートは、ことしはじめと比べて、タイバーツが10.8%、フィリピンペソが5.7%、インドルピーが2.5%、それぞれ下落しています。

アメリカのFRBが量的緩和を縮小したあと、早い時期にゼロ金利を解除して利上げに踏み切るとの見方が市場で増えていることが背景です。

今後さらに通貨安が進めば、その国にとっては輸入品の価格が上がり、特に原油などの資源を輸入に頼る国などでは、一段のインフレを招きかねません。

多くの新興国ではコロナ禍からの経済の回復が遅れているだけに、アメリカの政策転換の進め方や、その影響に関心が集まっています。

フィリピン 米の政策転換の影響 懸念高まる

新興国の中には、経済の回復が遅れる中ですでに通貨安とインフレが進み、アメリカの政策転換の影響に懸念が高まっている国があります。

このうち東南アジアのフィリピンでは、感染拡大の影響で経済の回復が遅れているうえ、ことし8月の消費者物価指数の伸び率は去年の同じ月と比べて4.9%の上昇と、2年8か月ぶりの高い水準となりました。

特に食料の価格上昇が目立ち、原油価格の上昇に自国通貨・ペソの下落が加わって燃料価格が上がり、輸送コストが増えていることなどが背景にあります。

首都マニラの生鮮市場での価格は、先月下旬の時点で、白菜が半年前と比べて1.6倍に、ブロッコリーが半年前と比べて2倍になっているということです。
食料の価格上昇は、マニラ市民の暮らしを圧迫していて、ことし6月に失業し、友人と4人で共同生活を送るユニス・モントーヤさん(27)も、かさむ食費に苦しんでいます。

一日の食費は4人で1000ペソ、日本円にして2200円と決めていますが、食料価格が値上がりしているため、使う食材の数を減らしたうえで、一度作った料理を3食食べ続けないと予算を超える状態になっているといいます。

モントーヤさんは「高価な豚肉は、もはや私たちにとって黄金みたいなものです。さらに物価が上がるなら食事を減らさなくてはいけません。人生は厳しいです」と話していました。