子どもへのワクチン メリットは?リスクは?

新型コロナウイルスのワクチン接種が小学生の年代にも広がろうとしています。アメリカの製薬大手ファイザーの新型コロナウイルスワクチンは、現在12歳以上が接種対象となっていますが、FDA=食品医薬品局の専門家の委員会は、2021年10月26日、5歳から11歳の子どもでも「接種の利益はリスクを上回る」とする結論を、賛成多数で可決しました。
FDAは近く、接種対象を拡大する許可を出すものと見られます。
小学生の年代の子どもたちへのワクチン接種について、どう考えればいいのか。
今の状況をまとめるとともに、小児医療とワクチンに詳しい専門家に聞きました。

ワクチン5歳から11歳でも

ファイザーの新型コロナワクチンは現在、12歳以上が接種対象とされています。

10月26日、FDAの専門家の委員会は、接種対象を5歳から11歳にも広げる案について議論を行い、「接種の利益はリスクを上回る」とする結論を可決しました。

ここで報告されたのが、ファイザーなどが行った、5歳から11歳の子どもを対象にした新型コロナワクチンの臨床試験の結果です。

FDAの資料によりますと、2200人以上の子どもを、12歳以上に使われている3分の1の量のワクチンを接種するグループと、ワクチンに似せた偽の薬=プラセボを投与するグループに分けて、有効性や安全性を確認したということです。

その結果、発症を防ぐ効果は90.7%に上り、重症化したケースはなかったとしています。

一方で、ワクチンの副反応は、
▽38度以上の発熱が
1回目の接種の後で2.5%の子どもで
2回目の接種の後では6.5%で、
▽けん怠感が
1回目の接種の後で33.6%、
2回目の接種の後では39.4%で見られるなどしたということです。

ファイザーは安全性にも懸念は示されなかったと説明しています。

日本でも今後議論に

ファイザーのワクチンは、当初は16歳以上が対象でしたが、2021年5月、アメリカで12歳以上に拡大されたあとで日本でも拡大されています。

このとき、ファイザーは、3月31日に臨床試験の結果、12歳から15歳への安全性と有効性を確認したと発表。

4月9日には、FDAに接種年齢の拡大を申請しました。

そして、5月10日にはFDAが緊急使用の許可の対象を拡大し、5月13日にはアメリカでこの年代での接種が始まりました。

ファイザーは、日本でも厚生労働省に海外での臨床試験のデータを提出。

厚生労働省は5月28日、接種が可能な年齢に12歳から15歳も加えることを決めました。

そして、5月31日には公的接種の対象となり、接種が始まりました。

このときは、アメリカで接種の対象が拡大された、およそ3週間のちに、日本でもこの年代での接種が始まっています。

FDAは、5歳から11歳の子どもへの接種についても、近く、接種対象を拡大する緊急使用の許可を出すものとみられ、日本でも今後、この年代を接種の対象にするのか、議論が始まる見通しです。

小学生年代の接種の意味は

今回のFDAの委員会の結論を受けて、小児科の医師でワクチンに詳しい北里大学の中山哲夫特任教授は「この年代は、これまで接種できるワクチンがなく、ワクチン以外の対策に頼っていたので、接種できるようになることは、新たな感染対策の1つの手段ができるという点で意義がある」と話しています。

ワクチン接種を考える際に大事なことは、「接種によって得られる利益、メリット」と、「副反応のリスク」のバランスを考えることです。

いま、日本で子どもの感染はどうなっているのでしょうか。

「子どもも感染するが重症化する子どもは少ない」

子どもも新型コロナに感染しますが、ほとんどが軽症で、重症化するケースは少ないことが知られています。

厚生労働省は、感染者数や重症化した人の数などのデータを、年代別に取りまとめて定期的に公表しています。
最新のデータでは、日本国内で感染した人は累計で171万2947人、亡くなった人は1万8213人、死亡率は1.06%となっています。

今月19日の時点で、感染した人のうち10歳未満は9万2000人余り、10代は17万2000人余りです。

亡くなった人はほとんどおらず、各地の自治体の発表によりますと、大阪府で基礎疾患があった10代後半の男性と、横浜市で10代の女性が亡くなったケースが報告されています。
また、厚生労働省の別の資料によりますと、診断された人のうち、重症化した割合は、10歳未満では0.09%、10代では0%でした。

基礎疾患のある子どもで重症化するケースはありますが、重症化した子どもは少ないのが現状です。

「感染は『子ども→大人』より『大人→子ども』」

厚生労働省の専門家会合の分析では、家庭内での感染は多くが「大人から子どもに感染」していて、「子どもから大人への感染」は比較的少ないとしています。

学校などで子どもが感染し、家庭で家族に広がるインフルエンザのようにはなっていないとしています脇田隆字座長は、第5波の感染拡大がまだ収まっていなかった時期、8月25日の専門家会合の後、子どもの感染について聞かれ「全体的に感染が拡大しているために、まず大人の感染が増え、それに伴って家庭内感染が増えており、子どもの感染増加とつながっていると考えている。今のところ、子どもたちの間で感染がどんどん増幅するインフルエンザのような状況にはならないだろうと予測している」と話しています。

子どもがワクチンを打つメリットは

子どもは感染してもほとんどが軽症である一方で、一定程度、副反応があることを考えると、子どもが接種する意義は、大人よりは小さいとも考えられます。

接種するメリットはどのようなものがあるのでしょうか?。

▽発症を防ぐ、重症化を防ぐ
いま接種が行われているワクチンは、デルタ株に対しても、発症や重症化を防ぐ効果が高いことが分かっています。

▽学校や習い事でのクラスター減らす
感染拡大の第5波では、学校や塾などの習い事を通じて、子どもを中心としたクラスターが起きましたが、こうしたクラスターの発生を減らせると考えられます。

▽家庭内の感染リスクを下げる
子どもがワクチンを打つことで、家庭内でワクチンを接種していない人や、接種ができない人に感染が広がるリスクを下げることができると考えられています。

専門家の意見 “メリット > リスク”

中山特任教授は「5歳から11歳についても、発症を抑える効果が90%ということで、高い有効性があると捉えていいと思う。一定の副反応はあるが多くは軽いもので、それほどリスクの高いワクチンではなく、有効性の方が上回っていると考えていいと思う」と話し、リスクよりメリットが大きいとする考えを示しました。

また「学校や塾などでクラスターが実際に発生していて、感染すると自分自身のリスクだけでなく、周囲の子どもにも感染を広げる可能性がある。ワクチンは個人を守ると同時に、個人が生活する集団を守る効果もある。今の状況では感染した場合に隔離が必要となることがあり、心の負担にもなり得るといったことも考える必要がある」と話しています。

アメリカとの事情の違い踏まえ議論を

一方で、子どもへの接種の議論が進むアメリカとは事情が異なるという指摘も。

アメリカ小児科学会のデータでは、10月21日までに630万人の子どもが新型コロナウイルスに感染し、その直近の1週間でも11万8000人の感染が新たに確認されています。

また、CDC=疾病対策センターからは、デルタ株の拡大に伴って、入院する子どもの数が増えたというデータも報告されています。

これに対して、日本では現在、子どもも含め、感染者数が急速に減少してきています。

中山特任教授は「アメリカでは子どもたちの感染がかなり広がっている面はあるが、日本ではだんだん感染者が少なくなっていて、子どもの感染者も少なくなっている」と話し、日米で傾向が異なることも考慮すべきだと指摘しました。

そのうえで「基礎疾患のある子どもたちに関しては、感染すると重症化するリスクが高いので、ワクチン接種は進めたほうがいいと思う。ただ、今の日本の感染状況の中で、子どもたち全員に接種すべきなのか、慎重に考えなければいけない。性急に子どもたちの接種を急ぐのでは無く、様子を見ながら徐々に接種が拡大して、自身の周囲で接種が進むことで、新たに接種を受ける人が増えればいいと思う」と話しています。

バランスを考えて

感染拡大の次の波がいつ来るか分かりませんが、ワクチンは引き続き、大きな武器となります。

接種の対象年齢の拡大は、子どもの感染対策として関心が高くなっています。

有効性などのメリットと、副反応などのリスクを慎重に見極め、そのバランスを考えることが大事で、子ども自身や保護者が希望するかどうかも含めて判断することが求められることになります。