どうやって年収アップ? 1.3倍目指す会社から学ぶ

年収をテーマに取材する私たち。
「賃金が何十年も上がらない」「転職すべきか迷う」といった切実な声が多いなか、大幅に賃上げしたという会社も。
いったいどうやって? 徹底取材しました。
(おはよう日本 岡本潤 / 岡本直史)

寄せられた声は

まずは、私たちに寄せられた「年収」にまつわる数々の意見を紹介します。
〈40代 / 東京都 / 独身 / 年収100万円台〉
「年収400万位にはしたいのだけど、会社にデジタル化しようと持ちかけても変化なし、SNSに書いても全く改善されない。何とか結果を出そうとするがやっても結局給料があがらないので転職すべきか、しっかりここで結果を出すべきか迷っている」

〈30代 / 静岡県 / 独身 / 年収500万円台〉
「政府がインフレ目標を掲げて、これが達成された場合、賃金がこれに追随する動きをしてくれるか不安。企業側は、不測の事態に備えて、インフレの物価上昇を加味した内部留保を蓄えるのではと危惧している。インフレなのに賃金は上がらない、上がっても動きが鈍い、そんな気がしてならない」

〈10代以下 / 東京都 / 独身 / 年収100万円未満〉
「現在大学生だがニュースや周りの労働者を見るとあまり満足にお金があるようには思えない。色々と資料を見ていると分配も大事だが、最近は企業の内部留保が大きくなっており、給料として増えてないように感じる」

〈10代以下 / 神奈川県 / 親に扶養されている / 年収100万円未満〉
「私は学生ですが、このような日本の経済低迷に関するニュースを見る度に漠然とした不安にかられる。大卒でも他の先進国に比べ初任給が低く、私の年上の知り合いは社会人2年目で給与は手取り10万円台前半と言っていた。今の企業の募集要項を見ていると400万円台ですら相当高いのでは?と考えてしまう」

企業の賃上げ実態は?

多くの人が上がらない年収に不安の声をあげていました。
では、実際に企業の賃上げはどういう状況なのか、今年8月、民間の調査会社が9700社余りを対象に行ったアンケートの結果を見てみると意外な結果が。
ことし春に賃上げした企業が全体の7割を超えていたのです。
内訳は大企業が76.6%、中小企業が69.2%でした。
ただ、「賃上げ率」はどうかといえば、3%未満が50.7%と半数以上を占める結果に。
さらに、こうした賃上げもベースアップや定期昇給ではなく、ボーナスなどの一時金でカバーした会社が増えていました。形の上では賃上げされていても、それが実感できるレベルにはないというのが本音のようです。
〈30代 / 東京都 / 夫婦(子どもなし) / 年収500万円台〉
「基本給の上げ幅は一年で数千円/月。残業する月はやや余裕があるにしても、しない月には生活を切り詰めるしかない。仕事の量はどんどん増えるが、収入は上がらない」

賃上げがままならない事情

一方、企業側にも賃上げがままならない事情があると専門家は指摘します。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 小林真一郎さん
「賃金は固定費なので、一回上げると下げられない。こうした中で企業側にとっては、よほど将来にわたって企業の業績がいい状態が続く自信がないと人件費をそこまで上げられないのです。過去にリーマンショックや東日本大震災を経験した日本企業にはこうした警戒感が根強く残っています」

成功例にヒントを探る!

どうすれば、社員の実感が伴う賃上げが実現できるのか。
取材すると、ここ10年で平均年収を大きく引き上げた建設サービス業の会社から話が聞けました。
東京 千代田区に本社があるこの企業は社員200人余り。業務量が増える中で、働きに見合った賃金を保証しないと、優秀な人材が確保できないと考えたといいます。
そこで会社は2012年に社員の平均年収を3割増やす目標を設定し、全社員に周知したのです。
「データ活用推進室」という部署を新たに立ち上げて、社員の1日の業務量をすべてデータベース化し、それを全社員が閲覧できるようにしました。これにより、社員が効率的な働き方を自発的に意識するようになったといいます。
具体的には、会議の時間を半減し、顧客のために何通りも作っていた資料を省略化。
出張の移動時間も有効に使って、できる業務をこなす。こういった取り組みは、すべて社員側が発案したものでした。
これらの取り組みで生産性が上がり、数年で経常利益は4倍以上に。浮いたコストは給与にも反映され、まもなく目標とした年収の3割アップを達成しつつあるといいます。
この会社の担当者は、「どうすれば給与を上げられるかを全社員と共有し、そのために行ったことを評価とひもづけたことが成功したポイントだと思います」と話していました。

「業務などのデジタル化で賃上げ可能」

人材マネジメントや労働経済学に詳しい専門家は、業績が右肩上がりの企業でなくても、こうした取り組みにより、賃金を上げることが可能だと言います。
一橋大学 ビジネススクール 小野浩教授
「一人ひとりの“生産性の向上”とコストになっている“ムダを省くこと”がなにより重要です。業務などをデジタル化することでムダを省くことができ、生産性もあげることができます。仮にデジタル化までいかなくても、誰がどんな仕事をしているのかを把握していくことで業務のムダを把握し、賃上げにつなげられる可能性があると思います」

中小企業でも できる?

ただし、こうした取り組みが大企業だからできるのであり、少ない従業員で切り盛りしている中小企業で果たして可能なのか。実際、寄せられた声には、同様の指摘が相次いでいました。
〈40代 / 夫婦(子どもあり)/ 年収500万円台〉
「中小製造業だから、月収がなかなか上がりにくい。労働組合もなく、会社員の立場も弱い。年功序列でなく、成果主義になっているが、相対評価なのは不満」

〈30代 / 三重県 / 夫婦(子どもなし)/ 年収700万円台〉
「零細企業で働いているが、今の年収が維持できるのか。物価の上昇とともに、年収も上がるのか不安。所得アップは結局、経営者の気分次第にならないかと不安に思う」

〈20代 / 岡山県 / 独身 / 年収200万円台〉
「大企業の利益は高いが、中小企業はあまり話を聞かない。なぜここに差が生まれているのかを聞きたい」

“当然 業績アップが前提”

その疑問を、中小企業専門のコンサルタントにぶつけてみました。山元浩二さんは中小企業のコンサルタント一筋20年。これまで500社以上の相談に乗ってきました。
山元さんも賃上げには当然、業績アップが前提となるといいます。ただ、そのカギとなる“生産性の向上”は中小企業でも可能なはずだと話していました。
日本人事経営研究室 山元浩二代表
「中小企業はマネジメントの仕組みがなかったり、業務のルールがなく社員がバラバラなことをやっていたりするところが多く見直す余地があるのですが、ビジョンを掲げ、戦略に落とし込み評価をしっかりさえすれば、事業規模や現状の業績にかかわらず誰でも取り組めるはずです」
ではどうすればいいのか。
山元さんが指摘するポイントをまとめてみました。

“生産性の向上”へ 3つのポイント

〈1 社員や顧客も含めて豊かにするため 明確なビジョンを定める〉
→ 10年後にどんな会社を目指すのか。例えば、売り上げなら10億円から30億円に伸ばすと言った数値目標を定める。“業界NO1”とか、“新卒の就職人気NO1”といった分かりやすいメッセージも実は重要。
〈2 道のりを決定し 戦略を作成する〉
→ 新商品の開発、顧客を増やすためのマーケティング、無駄な業務の削減など、具体的な目標を達成するための戦略を作成する
〈3 戦略を社員に実行してもらうための評価基準を作成〉
→ 一人一人の目標を数値化し、目標の達成度と賃上げのための評価をひも付ける。

「人件費を“投資”と考える意識 重要」

実際にこうした取り組みを進めた企業は数年かかるものの、ほとんどが賃上げに至っているそうです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングの小林真一郎さんも「生産性を高めるには、情報化への投資や設備への投資も必要だが、人件費をただの固定費としてみなさず投資と考えられるかどうかが重要です。手元の資金をこうした投資に振り向けられる決断ができるかどうかが大きなポイントになります」と話し、賃上げに必要なのは“意識の変化”だと指摘します。
今回、私たちが取材できたのは、まだ一部の企業です。
業種や会社の規模、また置かれている状況などにより、こうした取り組みがあてはまらない場合もあると思います。皆さんの会社ではいかがでしょうか?

ぜひ、以下の投稿フォームまでお寄せください。
https://forms.nhk.or.jp/q/OLPBS8UH

今後も取材したいと思います。