NY ブロードウェイ 出演者などに多様な人種を起用する動き

新型コロナウイルスの影響による休演から先月、1年半ぶりに本格的に再開したアメリカ・ニューヨークのブロードウェイミュージカルで、出演者やスタッフに多様な人種を起用する動きが広がっています。
休演期間中のブラック・ライブズ・マター運動などが、白人中心だった業界に一石を投じた形です。

『マイ・フェア・レディ』は中東系の女性が主役

新型コロナの影響で休演が続いていたニューヨーク・ブロードウェイのミュージカルは、先月14日、1年半ぶりに本格的に再開しました。

業界では、これまで出演者やスタッフの多くが白人で占められ、閉鎖的な人種観がたびたび批判されてきましたが、再開後はより多様な人種を起用する動きが広がっています。
このうち、1950年代に初めて上演され、長年、白人女性が主人公を演じてきた『マイ・フェア・レディ』も今回から、中東系の女性が主役を演じることになりました。

背景には休演期間中、黒人男性が白人警察官に押さえつけられ死亡した事件をきっかけに起きたブラック・ライブズ・マター運動や、アジア系住民をねらった暴力事件が相次いだことなどを受け、業界で人種問題への意識や危機感が高まったことがあります。

演目によっては「アンコンシャス・バイアス」と言われる、人種などに関する無意識の偏見に気付くための研修をしたり、出演者の半数を有色人種にする努力目標を設けたりするなど、抜本的な変革に乗り出しています。
『マイ・フェア・レディ』の演出家、バートレット・シアさんは「俳優に実力が求められるのはもちろんだが、私たちは配役についてこれまでの考え方を見直さなければならない。肌の色は、1つの世界を作り上げるための必要条件ではない」と話しています。

日本人俳優「道がひらかれていると感じる」

多くのブロードウェイミュージカルに出演してきた俳優の由水南さんは、先月から『マイ・フェア・レディ』の全米ツアーに、ただ1人の日本人として参加しています。
由水さん
「これまでのキャストに有色人種はほとんどいなかったが、今回は自分を含めアジア系の俳優が4人いるので、とてもうれしい。タイ系アメリカ人の俳優が主役級を演じていることも『道がひらかれている』と感じる。アジア人としてのアイデンティティーなど、自分らしさを積極的に出して演じたい」

今回のツアーで由水さんは「ダンス・キャプテン」という、舞台の安全管理や俳優たちを取りまとめる役割も任されているということで「これまでアジア人、かつ女性でこの役割を任された人はほとんどいないので、責任のあるポジションを任せてもらえたのは大きな変化だと思う。自分がこの仕事をすることで、アジア人でも日本人でも外国人でも、こういう立場に立てるという可能性を感じてもらえたらとても意義のあることだ。次の世代の方に希望を持ってもらえたらうれしい」と話しています。

そして、休演期間を経たブロードウェイの変化について新たなファンの獲得にもつながると評価しています。

由水さん
「今まではみんなが忙しすぎて人種の問題を見て見ぬふりをしていたけれど、きちんと耳を傾けないと業界としてやっていけないという危機感から、ようやく本格的に変化が起きたのではないか。舞台上の多様性が広がれば観客層も広がるので、業界にとってもいいきっかけだったと思う」

「多様性高めるには意識的な努力が必要」

タイにルーツを持つブロードウェイ俳優のパン・バンドゥさんは、みずからを含む多くのアジア系アメリカ人の俳優がオーディションすら受けられないといった差別を受けてきたことから、アジア系の俳優の団体を創設し、ブロードウェイにおける人種問題について調査してきました。

バンドゥさんは有色人種の割合は増えたものの、白人中心の構図は変わっていなかったと指摘していました。

バンドゥさん
「ブロードウェイはこの10年余りの間、白人中心の物語に有色人種の俳優を起用することで多様性を高めてきたが、ビジネスのやり方を基本的に変えていなかった。多様性を義務づけるような仕組みもない」

ところが今回の休演期間のあとに上演されている演目では有色人種の脚本家の作品が一気に増えたとして、バンドゥさんはその急速な変化の理由について、休演中にアメリカ社会全体の人種に関する意識が高まったことで、ブロードウェイも変わらざるを得なかったと分析しています。

バンドゥさん
「ブロードウェイにかかっているプレッシャーを反映したものだと思う。ブラック・ライブズ・マター運動が引き起こした社会の怒りによって、多くの業界がみずからを見つめ直す必要があった」

そのうえで、多様性を実現するためには一過性の現象で終わらせないことが重要だと強調しています。

バンドゥさん
「多様性をより高めるためには意識的な努力が必要だ。これまでより多くのことをしなければならないと、誰もが気付いたと思う。まだまだ道半ばで、改善の余地があり、プレッシャーをかけ続けなくてはいけない」

主役級や主要スタッフは白人が依然大半

ブロードウェイの出演者に占める有色人種の割合は、この10年余りで確実に増えてきているものの、主役級や主要なスタッフは依然として白人が大半を占めています。

ブロードウェイの人種問題について調査している、アジア系の俳優で作る団体「AAPAC」によりますと、ブロードウェイの出演者における有色人種の割合は2006年から2007年にかけては11%でしたが、その後徐々に増え、2018年から2019年にかけては34%、ミュージカルに限ると41%でした。

一方で、同じ2018年から2019年のミュージカルでも主役級の出演者では有色人種の割合は20%、脚本家では14%にとどまり、演出家にいたっては1人もいないという結果が出るなど、主役級や主要なスタッフは依然として白人が大半を占めていることも明らかになり、この団体はさらなる改善を求めています。