「わたしいま幸せです!」職失った技能実習生が活躍!

「わたしいま幸せです!」職失った技能実習生が活躍!
日本で働く外国人技能実習生にも大きな影響を与えている新型コロナウイルス。

私はその影響で仕事を解雇されるなどして、行き場を失う外国人技能実習生が増えているという話を、さまざまな取材先から聞いていました。

そんな中、「一度は仕事を失った実習生が活躍している場所がある」と知り合いから教えてもらい、さっそく行ってみることにしました。
(青森放送局記者 細川高頌)
向かったのは、青森県の南部町。

岩手県との県境に近い約3ヘクタールの農園にあるミニトマトの農業用ハウスで出迎えてくれたのは、明るい笑顔が印象的な女性、ニシャさん(25)です。
ニシャさんはこの農園で、ミニトマトやねぎなどの野菜、そしてサクランボやぶどうなどの果物の栽培に携わっています。

働き始めてまだ半年ほどだということですが、休憩時間になると一緒に働いている人たちと机を囲んで談笑し、すっかり溶け込んでいる様子です。
ニシャさんが生まれ育ったのは、南部町から7000キロほど離れたインド洋の島国スリランカです。

幼いころから日本のアニメや食文化に興味があったというニシャさん。

日本で暮らしてみたいという思いから、3年前、技能実習生として来日しました。

同じくスリランカから来た20代と30代の女性と3人で、青森県外の漬物を作る会社で働いていました。
仕事にも慣れてきて、充実した生活を送っていたといいますが、新型コロナの感染拡大が3人の生活を一変させます。

会社の業績が悪化して倒産し、3人とも仕事を失ってしまったのです。
ニシャさん
「突然、仕事がなくなったからびっくりしました。とても不安だった」
国のまとめでは、新型コロナの影響で勤め先を解雇されるなどして仕事を続けられなくなった外国人技能実習生は、ことし7月の時点でのべ約5600人。

再び働きたくても受け入れ先が見つかっていない人もいます。

技能実習生に活躍の場を!農家の挑戦

“なんとかして日本で実習を続けたい”。

思いを酌んで、3人を受け入れた監理団体も新たな就職先を探しましたが、なかなか見つかりませんでした。

そんなニシャさんたちの苦境を人づてに聞いて手を上げたのが南部町の農家でした。
3人を受け入れたのは、町内で野菜や果物を栽培する3軒の農家。

ニシャさんは大規模農園を経営している沼畑俊吉さんのもとで働くことになりました。

沼畑さんは、とにかく困っている人を助けたい一心で受け入れを決めたといいます。
沼畑俊吉さん
「これまで外国人技能実習生を受け入れたことはなく、近い将来も受け入れは考えてはいませんでした。しかしコロナ禍で困ってる人たちがいるという話を聞き、農家の仲間2人と、それぞれ1人ずつ受け入れることを決めました」
沼畑さんは以前から、若い人にも農業に興味を持ってもらいたいと考えていましたが、なかなかそのきっかけがありませんでした。

今回、思わぬ形でニシャさんという若い働き手が来てくれたことを、今では心強く思っているといいます。

取材にうかがったときには、ニシャさんは、沼畑さんから教わった熟した実の見分け方などを確認しながら、ミニトマトを一つ一つ丁寧に収穫していました。
沼畑俊吉さん
「ニシャさんの働きぶりは申し分ないです。真面目に農業に取り組む姿には、私だけでなく一緒に働いている人たちにとっても励みになっています」

初めての受け入れ 町がサポート

ただ…。

沼畑さんにとって外国人技能実習生の受け入れは初めてのことで、当初はわからないことだらけ。

思いつく限り、いろんな人に相談をします。

そんな沼畑さんに支援の手を差し伸べたのが南部町の交流推進課でした。
高齢化が進む南部町では、2030年には、65歳以上の高齢者の人口が、15歳から64歳までの生産年齢人口を上回ると推計されています。

町は不足する働き手を補おうと、外国人を受け入れる企業などの支援に乗り出していたのです。
南部町交流推進課 松原浩紀課長
「労働力不足がさまざまな分野で顕在化してきている。町内の事業者から支援についての相談などがあった場合はできるだけ支援していきたい」
町はすぐさまニシャさんたちの住まいについて支援を始めます。

当初、3人で暮らす家がなかなか見つからなかったため、条件に合う家が見つかるまでの間、移住促進のために町が整備した住宅を無償で貸し出したのです。
3人が移住促進住宅から農園に通って働く間、沼畑さんたちは家探しを続けました。

約3か月後、条件に合った家が町内で見つかりました。

5DKの平屋で、3人が一緒に暮らせます。

昼食の時間にお邪魔すると、3人で手分けをしながら手際よく料理を作っていました。
台所にある食材の多くが、3人を受け入れている農家や近所の人たちからのおすそ分けなのだとか。

地域の行事に誘ってもらったり、災害があった際には様子を見に来てくれたりと、地域の人たちの助けも、南部町での生活の支えになっているといいます。
そして、いま南部町が力を入れているのが、外国人技能実習生などを対象にした日本語教室です。

できるだけ不安なく生活してもらおうと日常生活で使う言葉や、漢字の書き方などを月に2回ほど教えています。
日本の文化にも親しんでもらおうと習字にも取り組んでいます。

ニシャさんたち3人も挑戦!

「愛」や「助」など思い思いの漢字を書いていきます。

ニシャさんが選んだのは意外な字でした。
その漢字は「葱(ねぎ)」です。

農園で栽培されるネギの管理もしているニシャさん。

この字を選んだ理由について「南部町で作られている有名な野菜だから」と発表していました。

「南部町のいろんな人に助けてもらって、楽しく農業ができている。わたしはいま幸せです!」

そう話すニシャさんの南部町への愛着を感じました。

“さらに多くの外国人を受け入れたい”

こうしてニシャさんたちを支えている南部町は今後、さらに多くの外国人の働き手を受け入れていきたいとしています。
南部町交流推進課 松原課長
「外国人の受け入れをこの地域では先駆けて実施して、外国人の受け入れが進んでいる南部町というのを認知してもらえるよう積極的に支援していきたい」
ニシャさんは、南部町に来てから夢ができたといいます。

それはふるさとスリランカで「しゃぶしゃぶ店」を開くこと。
ニシャさんのふるさとでは、新鮮な野菜を食べる機会がほとんどないそうです。

家族やふるさとの人たちに、新鮮な野菜を使ったしゃぶしゃぶを食べてもらいたい。

スリランカで、南部町で作られるようなおいしい野菜を栽培するため、ニシャさんは土作りから収穫まで1人でできるよう、沼畑さんからアドバイスを受けながら実習を続けています。

取材を終えて

外国での生活という不安のうえに、仕事まで失ってしまう。

ある意味で“弱い立場”の外国人技能実習生には、新型コロナが深刻な影響を及ぼしているのだと改めて実感しました。

一方で南部町では、そうした実習生を農家が受け入れ働き手となり、行政も含めた“地域ぐるみ”でサポートしていました。

私は、ニシャさんの笑顔を思い出すたび、その活躍が、高齢化と人口減少が進む地方で外国人との共生を進めるうえでのヒントになるのではないかと考えるようになっています。
青森放送局記者
細川高頌
平成29年入局
青森局を経て現在八戸支局
ニシャさんたちの家で食べさせてもらったカレーの味が忘れられず、いつの日かスリランカでカレーを食べてみたい!と思いをはせています