ママたちの“緊急事態宣言” パパはどうする

ママたちの“緊急事態宣言” パパはどうする
新型コロナウイルスの影響で、子育て中のママたちが孤立してしまい、精神的にも追い込まれています。

妊娠中や出産後の女性を対象に大学の研究グループが行った調査では、およそ3割が「うつ」のおそれがあるという結果も出ています。

「なぜ母親だけが悩まなければ?」

中には、夫が育児に比較的、協力的なのにも関わらず、悶々としてしまったママもいます。

では、ママを孤立させないために、一番身近な夫はどうすればいいのか。

育休を経験したパパたちに話を聞くと、ちょっとした対応でママが笑顔になるヒントがいくつも出てきました。

(大阪拠点放送局「#つながろう子育て」プロジェクト)

コロナ禍で母子が“ひきこもり状態”に

大阪府内に住む西島明美さん(仮名)は、3歳の長女と5か月の次女の2人の子どもを育てています。

育児休業中、西島さんは、新型コロナの感染拡大のため、長女を保育園に通わせず自宅で見ることが増えました。

このため、日中は自宅で2人の子どもと過ごす生活が続きました。

もともと外出が大好きだった西島さん。

長女が生まれてすぐは、実家のある九州に里帰りしたり、大阪でも区役所などが開催する親子向けの会に参加したりと、積極的に人とつながることで、子育てを楽しめていたといいます。
しかし、コロナ禍で人が集まるイベントは相次いで中止に。

「気軽に人と会って話せない」
「外に出られない」

子どもと3人、家に“ひきこもる”状態に陥り、気持ちがふさぎこむようになっていったといいます。
西島さん
「どんどん、しんどさが増してきて、勝手に涙が出てきたり、イライラしたり、急に落ち込んで無気力状態が続いたりするようになった」
夫は、比較的、育児に協力的なのにも関わらず、悶々とした状態が変わらないことも、もどかしかったといいます。

行政の子育て支援も利用しようとしましたが、どこも現場がコロナの対応に追われていて、まさに“助けてほしい瞬間”に、助けが得られないことが、何度も重なっていきました。
西島さん
「一番しんどい時は、消えたいなって。死ぬ勇気はないけど、このまま消えたら楽だなぁって思った事もいっぱいあった」

出産も育児も “ないないづくし”

コロナ禍での妊娠・出産はどんな状況になっているのか。

大阪市内の助産院を訪れた母親に話を聞くと、次のような話が返ってきました。
「初めての出産なので、夫に立ち会ってほしかったけど、制限されていて無理だったのはさみしかった」
「コロナだから遊び場も閉まっていることが多いし、開いていても行きにくい。だからといって、家にいると、世界でひとりぼっちな気持ちになるときもある」
「立ち会い出産できない」
「子育て世代とつながれない」
「気軽に人と会えない」

聞こえてきたのは、以前は当たり前にできていたことができない、“ないないづくし”の状況です。

この助産院も、コロナ以前は日常的に開催していた、母と子の集いの場を、感染拡大の影響で、一時、中止せざるを得なくなったといいます。

そうした中、気持ちを吐き出す場所もなくなった母親たちから切実な声が相次ぐようになり、再開に踏み切りました。
助産師 北田真紗美さん
「ふだんなら、しんどくならなくてもよかった人も、コロナでしんどくなっている可能性がある。子育てって、突然やってくる不安だったり、しんどさがある時に、ふらっといける場所があるっていうことが本当は一番いい」

コロナ禍で“うつ”のリスク「3割」に

コロナ禍でママたちが追いつめられている状況は、データにも表れています。

日本産科婦人科学会と横浜市立大学の宮城悦子教授らのグループが去年9月に妊産婦約8000人を対象に行った調査では、約3割に、うつのおそれがあることがわかりました。

なぜ母親だけが悩まなければいけないの?

コロナ禍で、悩みや不安を深めているママたち。

専門家は、日本の場合、子育ての負担が母親に集中しすぎていることが問題だと指摘しています。
京都大学文学研究科の落合恵美子教授は、家族と社会の関係について研究してきました。

かつては、家族だけでなく、祖父母や地域住民など、さまざまな人が子育てに関わっていた日本。

しかし、都市化が進み核家族が増える中で、育児は、特に母親に集中するようになっていきました。

それでもコロナ以前は、保育園の増設や子ども園の設置など、子育てを社会全体でサポートしていこうという動きが加速していたといいます。

ところが、コロナの感染拡大によって、子育てが、再び家族だけの問題になってきていると指摘します。
京都大学文学研究科 落合恵美子教授
「子育てを社会や地域が肩代わりしていく“脱家族化”が進みつつあったのに、それがコロナによって減速している。さらに、子育てが家族に押し戻される“再家族化”も起きている。ここから、どうやってもう一度、育児を“社会でするもの”にしていくかが、すごく重要なことだと思います」

一番身近な夫が出来ることって

コロナ禍で大変な思いで出産や子育てをしているママたち。

“一番身近”なはずの夫には、何かできることはないのでしょうか。

育児中のパパたちの交流団体、NPO「ファザーリング・ジャパン関西」の皆さんに話を伺うと、ちょっとした対応でママが笑顔になるヒントをいくつも教えてくれました。

1 ママの代わりに料理を作ってみる

9歳と3歳の二人の娘がいる堀恭平さん(41歳)が大切だと感じたのは「ママの大変さに気づくこと」。

それまで、ほとんど料理をしてこなかったという堀さん。

コロナ禍でパパ向けのオンラインの料理教室に参加。

すると、炊飯器やホームベーカリーなどの調理家電を使いこなして、うどんやピザ、カオマンガイなどが作れるようになりました。
自分で料理をすることで、毎日料理を作る妻の大変さに気づけたといいます。
堀恭平さん
「毎日料理を作るというのはとても大変なんだなと分かりました。料理が『自分ごと』になったため、妻の作ってくれる料理に不満を抱かなくなりました。結果としてケンカは減っていると思いますし、妻の負担の軽減には貢献できているかな。妻が疲れて帰ってきたときに『料理が用意されていることの幸せよ…』としみじみ言っているのを聞くと、作ってよかったなあと思います」

2 ママに“ひとり時間”をプレゼント

阿川勇太さん(32)は、今年5月に3人目の長女が生まれた際、1か月間の育休をとりました。

ささいなことでイライラする妻。妻が何を求めているのか阿川さんはじっくり夫婦で話し合いました。

そこで分かったのが“ひとりだけの時間がほしい”という妻の思いでした。

阿川さんは、ママに“ひとり時間”をプレゼントすることに。

赤ちゃんを連れて、深夜に数時間、ドライブに出かける日を作りました。

ドライブ中は阿川さんがミルクで授乳します。
その間、ママは授乳のために何度も起こされることがなく、久しぶりに熟睡できたといいます。
阿川勇太さん
「ママが一人になれる時間も大切だと思いました。育休が取れなくても、金曜日や土曜日の夜に赤ちゃんを自分が見ることで、睡眠不足になりがちなママがしっかり眠ることができ、心身共に疲れ果てるのを防げると思います」

3 授乳やおむつ替えの“履歴”をアプリでシェア

平井雅俊さん(32)は、赤ちゃんの授乳やおむつ替えなどの“履歴”を、夫婦の間でシェアできる「子育てアプリ」を活用しました。

去年5月に長男が誕生した時に、夫婦で育休を取得したという平井さん。

このアプリを利用することで、一つ一つのお世話を“夫婦が一緒に行っている”という感覚がさらに高まったといいます。
アプリでは、赤ちゃんのおむつ替えをした時間や、ミルクやおっぱいをどれくらい飲んだのかなど、赤ちゃんのお世話の記録をつけることができ、その記録は夫婦で共有できます。

「およそ3時間ごとの授乳」や「オムツ替え」のタイミングなど、赤ちゃんの生活リズムを可視化することもできたといいます。
「夫が赤ちゃんを見ているこの時間に、妻が30分間仮眠をとる」
「この時間は、どちらかが買い出しに行く」
アプリを活用することで、その日1日のスケジュールを想定し、夫婦の間であらかじめ役割分担し、産後の大変な時期を乗り越えられたといいます。
平井雅俊さん
「お互いに忙しいときでも、何時に何のお世話をしたか、夫婦で共有できるということは、すごくいいことだと思います」

#つながろう子育て

ママのためにできることはないか。

そう思ってパパを取材してみると、さまざまなアイデアがでてきました。

そして強く感じたのは「パパたちだってつながりたい」という思いです。

子育てに役に立つ情報や喜びや苦労を分かち合えるつながりがほしい。そう思うのはママもパパも一緒だと思いました。
ファザーリング・ジャパン関西 桜井一宇理事長
「ママだけでなく、育児に悩んでいるパパもたくさんいます。子育ては特権、義務ではなくもっと楽しもうと活動されているパパもたくさんいます。多様なパパたちですが『笑ろてるパパがええやん』『父親であることを楽しもう』とそんな父親たちが増えていくこと、つながっていくことで、家庭や地域、企業、誰にとっても素晴らしい社会を実現する機運を盛り上げていきたい。もっと当たり前にパパが子育てやっていいという空気を広めていきたい」
大阪拠点放送局 ディレクター
白瀧愛芽
大阪拠点放送局 ディレクター
伊藤愛
●放送予定(関西地方)
かんさい熱視線「#つながろう子育て ママたちの緊急事態宣言」
放送 :10月15日(金)総合 午後7時30分
再放送:10月16日(土)総合 午前10時55分

小さな命と向き合うママ・パパたちの“孤育て”が深刻化している。コロナ禍で「ないないづくし」の子育ての不安や悩み。明日からでも出来るサポートとは?