地価調査にコロナの影響… 暮らしの変化で見えてきたこと

全国の土地の価格を調べた「都道府県地価調査」が公表され、新型コロナウイルスの影響が長期化する中、全国平均の地価は商業地、住宅地ともに下落が続く結果となりました。

ただ、下落幅は「商業地で拡大」する一方「住宅地では縮小」しています。背景には、コロナ禍での新たな働き方やライフスタイルの変化がありました。

全国平均 去年比マイナス0.4% 2年連続の下落

「都道府県地価調査」は毎年7月1日時点の全国の土地の価格を都道府県が調べるもので、国土交通省はことし対象となった2万1400余りの地点の結果をまとめ21日、公表しました。

それによりますと、全体の地価の全国平均は去年に比べてマイナス0.4%と、2年連続の下落となりました。新型コロナウイルスの影響が長期化する中、全国的に土地の需要が低迷していることが要因です。

<商業地>下落幅 去年から「拡大」

用途別では、店舗やオフィス向けなどの「商業地」の全国平均がマイナス0.5%と2年連続の下落となり、その幅は去年のマイナス0.3%から拡大しました。

背景1. “新しい働き方”

背景には、在宅勤務など新しい働き方の広がりがあります。出社する社員が減ったことでオフィスの在り方を見直す企業が相次いでいるのです。

富士通・ヤフー“オフィス縮小へ”

このうち「富士通」は製造現場を除いて社員はリモートワークを基本とし、2年後にはオフィスの面積を今の半分に減らす計画です。

IT大手の「ヤフー」も、本社をはじめとする都内のオフィスを大幅に縮小する方向で検討しているということです。

ベンチャー企業も“オフィス縮小”

オフィス縮小の動きはベンチャー企業でも加速しています。障害者と企業をつないで雇用を後押しする都内の人材サービス会社もその一つです。
今月、本社を移転しましたが、引っ越した先は広さ6畳のシェアオフィス。以前はビル内に本社を構え、面積およそ400平方メートルのオフィスで毎日100人余りが働いていたといいます。しかし、新型コロナの感染拡大を受けて原則リモートワークとしたことで、広いオフィスは必要なくなりました。
従業員を対象に行ったアンケート調査では、感染が収束したとしてもリモートワークを希望すると答えた人が7割に上ったということです。このため会社はコロナ後も働き方はもとに戻らないと判断し、本社をおよそ40分の1のサイズに縮小することを決めました。

合わせてほかのシェアオフィスの運営会社も通じて全国におよそ300の拠点を確保し、従業員が働く場所を自由に選べるようにしたということです。
ベンチャー企業の「ゼネラルパートナーズ」の東海林恵一 コーポレート部門長は「アナログの働き方が長く、本社に出勤すること自体が目的になっていた。多様な働き方を進めるうえで一つの場所に固定するのではなく、柔軟に変えていけるオフィスにする必要があると考えた」と話していました。

背景2. “国内外からの旅行客減少”

一方、国内外からの旅行客が減少している影響で、観光地や繁華街では全国的に地価の下落が目立っています。

大阪 たこ焼きチェーン店 地元住民向けの新商品販売

大阪の道頓堀地区にある大阪市中央区宗右衛門町はマイナス18.5%と、全国の商業地で最も落ち込みが大きくなりました。

地区の一角にあるたこ焼きチェーン店は、外はカリッと、中はとろとろに焼き上げた商品が自慢で、新型コロナの感染拡大前は多くの観光客が訪れていたといいます。特に外国人旅行者の人気が高く売り上げのおよそ7割を占めていたということですが、今はその分の売り上げをほぼすべて失いました。
感染の収束が見えない中、この店が新たに販売を始めたのが韓国風の鶏のから揚げです。主に外国人旅行者向けに串カツなどを提供していた店舗の2階を専用のフロアに改装しました。

甘辛のタレや、たっぷりの粉チーズをつけたから揚げが、地元の若い女性を中心に好まれているということで、配達の需要も含め売り上げの底上げにつながっているということです。
この店を運営する「くれおーる」の加西幸裕社長は「売り上げの大きな回復は難しいかもしれませんが、日々来店してもらうと必要とされているという安心感があります。試行錯誤しながらおよそ1年半、営業を続けてきました。これからも何とか店を維持していきたい」と話していました。

<住宅地>下落幅 去年から「縮小」

一方の「住宅地」。
全国平均はマイナス0.5%と30年連続の下落だったものの、その幅は商業地とは対照的に去年のマイナス0.7%から縮小しました。

背景1. 家の中で過ごす時間増え 自宅購入のニーズ高まる

▽在宅勤務の広がりや
▽外出の自粛などによって
家の中で過ごす時間が増えていることを背景に自宅を購入するニーズが高まっているということで、今回の地価調査からは住宅需要が一部で持ち直しつつあることもうかがえます。こうした中、注目を集めているのが「空き家」です。
横浜市の会社員、椎名高文さん(40)と妻の由布子さん(36)は去年8月、当時住んでいた賃貸住宅の近くにあった築40年以上の空き家を購入しました。椎名さんの働き方がほぼ毎日、在宅勤務に変わり、そのためのスペースが必要になったのがきっかけでした。

新築の物件も検討しましたが、3人の子育てにかかる費用も含めると住宅の負担が重くなりすぎると考え、空き家を全面的にリフォームする方法を選んだのです。
リフォームは注文住宅に比べて大幅に安く済み
▽椎名さんの仕事部屋を確保できたほか
▽由布子さんの希望でキッチンも広くしたということです。

椎名さんは「在宅勤務を集中して行うためにも自分の部屋があったらいいなと思っていました」と話していました。

由布子さんは「コロナ禍で食事を作る回数がものすごく増えたので料理が苦痛になりつつありましたが、今は明るい気持ちでキッチンに立てるようになったと思います。空き家のリフォームに抵抗はありませんでした」と話していました。

大手不動産会社“子育て世帯からのリフォーム注文が増加”

大手不動産会社によりますと、ことしに入って中古住宅を取得した子育て世帯からのリフォームの注文が大幅に増えているということです。東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県では、先月時点で去年の同じ時期より5割ほど多くなっていて、椎名さん夫婦のような空き家のリフォームの注文も目立つということです。

住友不動産の担当者の南澤博さんは「コロナ禍で顕著に変わってきたのが、在宅勤務用のスペースがほしいというお客様が増えたことだ。ただ、家計的な不安を持つお客様も多い。新築の住宅の価格が高騰していることで、リーズナブルなリフォームが受け入れられているのではないか」と話しています。

専門家「商業地 需要の弱い状況続く可能性」

不動産調査会社「東京カンテイ」 井出武 上席主任研究員
▽住宅地の下落幅が縮小したことについて
「新型コロナの感染者が増えてまず起きたのが『巣ごもり』で、自分の生活の中心地である家を重視する考え方が以前よりもさらに強まった。利便性が高く生活の質を維持しながら巣ごもりできる場所はどこか、多くの人が考えた結果が地価の戻りという形であらわれたのではないか」

▽商業地について
「これまで割と需要が底堅かったオフィスに関しても『そんなに広い面積が必要なのか』と今まさに検討されている最中だ。先行きの不透明感がなくならないかぎり需要の弱い状況が続く可能性がある」

主な地価の上昇・下落地点

今回の「地価調査」の主な結果です。全国的に地価の下落が続く中、沖縄県や北海道、福岡県の地域で地価の上昇が目立っています。

住宅地

住宅地で地価の上昇率が最も高かったのは2年連続で
▽沖縄県宮古島市城辺で去年よりも22.9%上昇しました。
コロナの収束後を見据えた開発が進んでいて、建設関係者やホテルの従業員らの住宅需要が増えていることが要因です。

次は、いずれも北海道で
2位が
▽北広島市共栄町4丁目でプラス19.2%
3位が
▽北広島市若葉町3丁目でプラス18.8%でした。
北広島市にはプロ野球・日本ハムの新球場が開業する予定で人口の増加が見込まれるうえ、隣の札幌市と比べて割安感があるという見方から需要が高まっています。

商業地

商業地では上昇率が高かった上位はいずれも福岡市でした。
最も上昇率が高かったのは
▽博多区綱場町でプラス15.8%
2位は
▽博多区冷泉町でプラス15.1%
3位は
▽中央区高砂2丁目でプラス15.0%でした。
福岡市の中心部は大規模な再開発が進んでいて、交通の利便性がよく人口も増加していることから、商業地の需要が増えています。

一方、観光地や繁華街では国内外からの旅行客が減小している影響で全国的に地価の下落が目立っています。
▽大阪の道頓堀地区にある大阪市中央区宗右衛門町はマイナス18.5%と、全国の商業地で最も落ち込みが大きくなりました。

工業地

工業地で最も地価が上昇したのは4年連続で
▽沖縄県豊見城市豊崎で28.9%上昇しました。
国道の4車線化に伴って那覇市の中心部や空港へのアクセスが向上していることから、物流施設としての需要が高くなっています。