フランスが猛反発 アメリカ・オーストラリアとの間に何が?

フランスがアメリカ、オーストラリアに対する強い憤りを示しています。

背景にあるのがフランスがオーストラリアと共同で進めていた潜水艦の開発計画が破棄されることになったことです。

フランスはアメリカとオーストラリアに駐在する大使の召還を決めるなど強く反発しています。

新たな安全保障の枠組みに伴って…

アメリカとイギリス、オーストラリアの3か国は今月15日、中国を念頭に、「AUKUS(オーカス)」と呼ばれる新たな安全保障の枠組みを創設し、オーストラリアの原子力潜水艦の配備を支援することを決めました。

これに伴ってオーストラリアがフランスと共同で進めてきた潜水艦の開発計画は破棄されることになりました。

フランスはこれに強く反発。ルドリアン外相は17日、マクロン大統領の要求を受けてアメリカとオーストラリアに駐在する両フランス大使の召還を決めたと発表しました。

フランスはアメリカに対する不信感が背景に

フランスではこの問題について「潜水艦危機」として多くのメディアで連日大きく報道されていて「重大な信頼関係の破壊」とか「『世紀の契約』が魚雷攻撃を受けた」といった見出しが並び、アメリカの突然の発表による衝撃の大きさをうかがわせます。

フランス政府が強く反発する背景には、アメリカのバイデン政権が同盟関係を軽視しているのではないかという不信感があります。

フランスは、自国第一主義を掲げたトランプ前政権との間で貿易や気候変動などをめぐりぎくしゃくした関係が続いたことから、バイデン大統領の就任でアメリカとの関係回復に強く期待してきました。

ところが先月アフガニスタンでタリバンが政権を掌握した際には自国民などを確実に退避させるためフランスからはアメリカ軍の撤退期限を延期するよう求める声があがりましたが、バイデン政権は予定どおり先月末に軍の撤退を完了させました。

契約総額は7兆円余り「世紀の契約」とも

今回バイデン大統領が発表した「AUKUS」の創設をめぐってフランス政府は、事前の協議はなかったとしています。

インド太平洋地域に海外領土を持つフランスにとって、この地域の安全保障はとりわけ重要で、ヨーロッパ各国の中でもひとあし早く、2018年に独自の戦略を打ち出しています。

この中でオーストラリアは、日本やインドと並んでインド太平洋地域の重要なパートナーと位置づけていて、その核となってきたのが、5年前に日本やドイツと競った末にオーストラリア政府から受注した12隻の潜水艦の共同開発計画です。

契約の総額は、追加の費用も含めて560億ユーロ、日本円で7兆円余りにのぼると見込まれ、フランスでは「世紀の契約」とも言われてきました。
それだけに、開発計画が破棄されることは、フランス政府にとって大きなショックで、みずから前政権の国防相時代に契約を取り付けたルドリアン外相は16日「背中を刺されたようなものだ」とオーストラリア政府を厳しく批判したうえで、バイデン政権に対しても「一方的で予測できない決定はトランプ前大統領がやっていたことに似ている」と不快感をあらわにしていました。

バイデン政権 中国の軍事増強への危機感

アメリカのバイデン政権が、フランスの反発を招いてでも、原子力潜水艦の技術をオーストラリアに提供する決断をしたのは、中国を念頭に置いた軍事戦略にオーストラリアを確実に取り込むとともに、対中政策での具体的な成果を国内外に示すねらいがあったと見られます。

背景にはまず、中国の軍事増強への危機感があります。

西太平洋地域では、中国軍に対するアメリカ軍の優位性が失われつつある一方で、みずからの軍事費は大幅には増やせない事情があり、インド太平洋地域の同盟国との連携強化が不可欠でした。

また、原子力潜水艦は作戦海域が広く、南シナ海だけでなく、東シナ海やインド洋にも展開でき、アメリカの技術を使えば、アメリカ軍などと「統合運用」をしやすいメリットもあります。

一方で、バイデン政権の外交・軍事戦略に対して向けられた懐疑的な見方を払拭したいという思惑もあったと見られます。

バイデン大統領は、アフガニスタンからの軍の撤退に伴う混乱で、国内での支持率が就任後、最も低い水準に落ち込んでいます。

さらに、アジアの国々からは、中国に対抗する上での明確な戦略が示されていないとの声があがっていたこともあり、具体的な行動で示す必要に迫られていました。

オーストラリア 地域情勢の変化で高性能の潜水艦必要に

オーストラリアは、保有する6隻の潜水艦の老朽化が進んだことから、新型の潜水艦12隻を外国と共同開発し、2030年代から順次、導入することを目指していました。

そして5年前の2016年、共同開発のパートナーとして、フランスとドイツ、それに日本の3か国の中からフランスを選びました。

しかし現地の報道によりますと▼共同開発にかかる費用が、日本円にして7兆円余りと、当初から2倍近くに増えた上、▼計画の進捗に遅れも出ていたことから、政府内で不満の声が上がっていたということです。

またフランスとは、通常のディーゼル型の潜水艦を開発する予定でしたが、今回、原子力潜水艦の導入を決めた理由について、モリソン首相は「当初予定していたフランスの潜水艦は、オーストラリアにとってもはや最善の選択ではなくなった」と述べ、インド太平洋地域の情勢が変化しより高性能の原子力潜水艦が必要になったと説明しています。

オーストラリアは、貿易や安全保障の分野で中国との関係が冷え込んでいることから、民主主義の価値観を共有するアメリカ、イギリスと連携し、防衛能力を強化することで、中国をけん制したいねらいがあるとみられます。
フランスの反発についてモリソン首相は19日共同開発計画の破棄は、事前にフランス側に説明したと強調したうえで「フランスの失望は理解できるが、自国の利益を最優先した判断に後悔はない」と述べました。

専門家「インド太平洋地域の重要性は変わらない」

インド太平洋地域の安全保障問題に詳しい明海大学の小谷哲男教授は『AUKUS』について「オーストラリアからすれば、フランスと潜水艦開発で合意はしたものの納期は遅れそうだし、コストはどんどん上がっていくということで、不満を抱えていた。他方でアメリカとしては、オーストラリアがフランスとの間で話をつけたうえで、自分たちとの協力を進めるものだと思っていたようだ」と述べ、各国の思惑が微妙に異なっていたのではないかという見方を示しました。

そのうえで「フランスとしては、アフガニスタンの撤退についてバイデン政権に対して不信を募らせていた時で、今回の件についても大使を召還するなど、非常に強く反発している。しかし、それぞれの国にとってインド太平洋地域の重要性は変わらず、中国とのバランスをとらなければならないという点でも一致しているので、短期的に関係の修復が難しくても、中長期的には関係を再び強化する必要性に迫られるのではないか」と分析しました。

「AUKUS」と「QUAD」どう位置づける?

また『AUKUS』と、日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4か国の枠組み『QUAD』の位置づけについて「インド太平洋地域ではここ数年、QUADを中心に協力の枠組みをどう考えるべきかという議論がなされてきた。QUADはもともとは軍事的な意味合いが強まるのではないかという期待があったが、最近はどちらかと言えば経済安全保障に焦点を当てるようになっている。その一方で軍事的な協力を深める枠組みが必要だという判断が特にバイデン政権の中に強くあり、それがAUKUSにつながったと考えられる」と述べました。

そして「今後アメリカは、この地域における枠組みをより柔軟な形でいろいろと作り上げ、それぞれの問題に最適な形で活用していくのではないか。日本も柔軟な発想を持ってこの地域の枠組みを考え、アメリカやそのほかの国と調整していく必要がある」と指摘しました。

中国「唯一の勝者はアメリカだ」

オーストラリアが原子力潜水艦の配備をめぐってアメリカなどの支援を受けることについて、中国共産党の機関紙「人民日報」の電子版は、軍事ニュースを扱う国内メディアの分析記事を掲載しました。

記事では「離れた海域まで航行できる原子力潜水艦は、南シナ海や台湾の問題に足を突っ込みたいアメリカに追随するオーストラリアにとって魅力が大きいのだろう」と分析しています。

その上で「今回の局面で、唯一の勝者はアメリカだ。アジア太平洋に近接した地区で初めて原子力潜水艦を維持・補修する能力を持つことができるからだ」として、アメリカが同盟国を利用し、中国包囲網を強化しているとけん制しています。

また、今回の事態について「アメリカのような、他人の利益を損ねて自分を利するふるまいがフランスを苦しめている」と表現し、NATO=北大西洋条約機構の加盟国どうしの内紛にもつながりかねないと指摘しています。