コロナワクチン接種 途上国との格差拡大 WHOが分配の加速訴え

日本を含む先進国では新型コロナウイルスのワクチン接種を完了する人が増える中、3回目の接種の動きも広がっていますが、アフリカの国々など途上国では接種を完了した人がまだ少なく、ワクチンをめぐる格差が広がっています。WHO=世界保健機関は、ワクチンの分配を加速させるよう国際社会に訴えています。

G7=主要7か国はいずれも、新型コロナウイルスのワクチン接種を完了した人が人口の50%をこえていて、このうちドイツやフランスがワクチンの効果を保つためなどとして3回目の接種を始めたほか、日本やアメリカも今後、3回目の接種を行う方針です。

これに対し、WHOによりますと、アフリカ大陸で接種を終えた人は人口の3%余りにとどまるなど、先進国と途上国の間で、接種を受ける機会の格差が広がっています。

WHOヨーロッパ地域事務局でワクチンの接種や分配を担当するダッタ博士はNHKの取材に対し「自国だけでなく、自国を取り巻くほかの国の人たちも感染から守らなければ、結局はパンデミックを長引かせることになる」と述べ、ワクチンの分配を加速させるよう国際社会に訴えています。

また、途上国の中には接種の態勢作りが遅れている国もあり、アフリカ南部のマラウイでは、国際社会からの支援でワクチンを受け取ったものの、ことし5月にはおよそ2万回分の有効期限が切れて廃棄するケースが起き、望む人すべてがひとしくワクチンの接種を受けられるようになるには依然として多くの課題があると指摘されています。

アフリカでは3.6%にとどまる

アフリカでは、先進国などに比べて新型コロナウイルスのワクチン接種が大きく出遅れていて、WHO=世界保健機関によりますと、EU=ヨーロッパ連合の加盟国では人口の60%が接種を終えているのに対し、アフリカではわずか3.6%にとどまっています。

背景には、ワクチンの供給量が圧倒的に少ないことに加えて、国によっては接種を実施するための態勢を行政が整えるのに時間がかかっていること、さらに、ワクチンへの不信感を抱く国民も少なくないことが指摘されています。

このうち、アフリカ南部のマラウイでは、これまでに人口およそ1900万人のうち、6万人以上の感染が確認され、2200人余りが亡くなっていますが、ワクチンの接種率は人口の3%にも達していません。

国際社会からの支援でワクチンを受け取ったにもかかわらず、接種の態勢作りが遅れたことや、すでに有効期限が迫っていたワクチンだったこともあって、今年5月には一部のワクチンの有効期限が切れ、およそ2万回分を廃棄処分せざるを得なくなりました。

世界銀行のデータによりますと、マラウイは人口10万人当たりの医師の数が3.6人と日本の240人などと比べ、世界でも医療体制がぜい弱な国の1つです。

首都リロングウェ郊外に暮らす牧師のクレメンド・ピーリさん(36)は、早くからワクチンの接種を望んでいたもののその機会は訪れず、ことし3月には新型コロナウイルスに感染して容体が悪化し、死の危機に直面しました。

ピーリさんは、翌月になってようやく1回目の接種を受けることができましたが、接種を受けられなかった兄は感染して48歳で死亡したということで「政府の対応は遅すぎる。一部とはいえ、ワクチンが使用されないまま廃棄されたのはもったいないことだ」と批判しています。

一方で、政府によりますと、ワクチンへの不信感を抱く国民も少なくないことが接種の遅れに拍車をかけているということです。

会計士のジェームズ・ムタワンジさん(37)は、ワクチンの1回目の接種を終えた78歳の父親が感染して死亡したことを受け「ワクチンの効果を信じることができない。自分は接種する予定はない」と話しています。

マラウイ政府は、来年中に国民の60%が接種を完了することを目指し、ワクチンの確保を進める方針ですが、クンビゼ・チポンダ保健相はNHKのインタビューに対し「せっかくワクチンを確保しても、人々が接種を拒み、破棄してしまうようなことは再び繰り返してはならず、国民に正しい情報を伝えることに全力を上げる」と話しています。

アフリカでのワクチン接種が出遅れていることについて、WHOアフリカ地域事務局のモエティ事務局長は、今月2日の記者会見で、各国が今月末までに少なくとも人口の10%の接種を終えるというWHOの目標を、アフリカの国々の8割近くが達成できないだろうという見通しを明らかにしたうえで、国際社会に対してアフリカへのワクチン供給を増やすよう求めるとともに、アフリカ各国の政府に対しては接種態勢の構築や国民との対話を強化するよう改めて、呼びかけました。

接種の機会に大きな格差

新型コロナウイルスへの対策として、各国は人々にワクチンを接種してもらおうと取り組んでいますが、先進国と途上国の間では、接種を受ける機会に大きな格差が生じているのが現状です。

イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、G7=主要7か国で、ワクチンの接種を終えた人の人口に占める割合は18日の時点でカナダが69%と最も高く、イギリスとイタリアが65%、フランスが64%、ドイツが62%、アメリカが54%、などとなっています。

一方、アフリカ疾病予防管理センターによりますと、アフリカ大陸で接種を終えた人は今月14日の時点で人口の3.5%に満たないということです。

ワクチンの需要が供給を上回る状況が続く中、WHO=世界保健機関は先進国などに対して、年内はワクチンを追加の接種に使うのではなく、WHOなどが主導する国際的なワクチン分配の枠組み「COVAXファシリティ」に寄付するよう求めています。

WHOヨーロッパ地域事務局でワクチンの接種や分配を担当するシダータ・ダッタ博士は、NHKのインタビューに応じ、WHOとしては公平性を確保すべきだという観点に加えて、科学的な観点からも今の段階では追加のワクチン接種を勧められないと述べました。

ダッタ博士は、ファイザーやモデルナなどのワクチンは1回や2回の接種について行われた臨床試験の結果をもとにその安全性や有効性をWHOが確認したとしたうえで「3回目の接種が本当に安全なのか、調査しなければならない。追加の接種を進めるかどうかは各国が主権を持って決めることだが、WHOとしては今の段階ですべての加盟国に対して追加の接種を勧められるだけの証拠を持ち合わせていない」と述べました。

そのうえでダッタ博士は、アフリカをはじめ世界には、まだ1度も接種を受けることができていない人たちが大勢いるとしたうえで「自国だけでなく、自国を取り巻くほかの国の人たちも守る事ができなければ、感染はいつまでも続き、結局はパンデミックを長引かせることになる」と述べ、自国で追加の接種を進めるよりもほかの国で接種を受けられずにいる人たちへのワクチンの分配を加速させるべきだと強調しました。

世界各国の接種割合

イギリス・オックスフォード大学の研究者などが運営するサイト「アワ・ワールド・イン・データ」によりますと、新型コロナウイルスワクチンの接種を終えた人の割合は、詳しいデータがない国や地域を除いて、17日の時点で世界の人口の31.2%となっています。

主な国では、
▽ポルトガルが81.8%と最も高く
▽UAE=アラブ首長国連邦が79.8%
▽シンガポールが77.1%
▽スペインが76.6%
▽デンマークが74.4%
▽ウルグアイが73.4%
▽チリが72.9%
▽アイルランドが71.8%
▽カナダが69.1%
▽中国が67.2%
▽イタリアが65.3%
▽イギリスが65.0%
▽フランスが63.7%
▽イスラエルが63.4%
▽ドイツが62.3%
▽フィンランドが58.4%
▽アメリカが53.7%
▽トルコが49.1%
▽韓国が41.9%
▽ブラジルが36.5%
▽メキシコが31.6%
▽ロシアが27.8%
▽タイが20.4%
▽インドネシアが16.0%
▽イランが14.8%
▽インドが13.7%
▽南アフリカが12.9%
▽パキスタンが10.6%
▽バングラデシュが8.6%
▽ベトナムが6.1%
▽ケニアが1.6%
▽ナイジェリアが0.8%
▽タンザニアが0.6%
▽エチオピアが0.5%
などとなっています。