性犯罪「不同意」も処罰対象とするか法整備の在り方諮問 法相

法制審議会の総会が開かれ、上川法務大臣は、強制性交などの構成要件を見直して、暴行などがなくても被害者の同意がない性行為を処罰の対象とするかなど、性犯罪の被害の実態に応じた法整備の在り方を検討するよう諮問しました。
また、人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に懲役刑を導入する方針を示し、法定刑の上限を引き上げることも諮問しました。

強制性交などの性犯罪について、現在の刑法では暴行や脅迫などによって性行為に及んだことが構成要件になっていて、被害者が同意していないことだけでは処罰されないケースがあることから、法務省は見直しに向けた議論を進めています。

法制審議会の総会で、上川法務大臣は「性犯罪に適切に対処するための法整備の在り方について審議をお願いする」と述べ、被害の実態に応じた法整備の在り方を検討するよう諮問しました。

法制審議会では、
▽強制性交などの構成要件を見直して、暴行や脅迫などがなくても被害者の同意がない性行為を処罰の対象とするかや、
▽現在は13歳となっている性交への同意を判断できるとみなす年齢の引き上げ、
それに
▽性犯罪の時効の見直し、などをめぐって幅広く議論されることになります。

また、上川大臣は、SNS上のひぼう中傷対策を強化するため、公然と人を侮辱した行為に適用される侮辱罪に懲役刑を導入する方針を示し、法定刑の上限を引き上げて「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を追加することも諮問しました。

さらに、行政手続きなどのデジタル化を進めるため、戸籍の氏名に読みがなを付ける必要があるとして、戸籍法の見直しについても諮問し、今後は「キラキラネーム」と呼ばれる個性的な名前などをめぐり、漢字そのものの意味や読み方にかかわらず、読みがなをどの程度まで自由に認めるか、意見が交わされる見通しです。

刑法の見直し検討へ10の論点

法制審議会には、刑法などの見直しを検討するにあたって10の論点が示されました。

このうち、強制性交や準強制性交などの性犯罪について、現在の刑法では、暴行や脅迫、心神喪失などによって性行為に及んだことが構成要件になっていることから被害者が同意していないことだけでは処罰されないケースがあります。

そこで、この規定を見直して、暴行や脅迫などがなくても被害者の同意がない性行為を処罰の対象とするかなど、被害の実態に応じた法整備の在り方をめぐって、議論が行われる見通しです。

また、性犯罪の時効の見直しについて、子どもが被害にあったケースでは、性行為への認識が不十分で、被害を申し出ることが難しいことを踏まえて、被害者が一定の年齢に達していない場合は、時効の成立を遅らせることも含めて、意見が交わされる見通しです。

そして、
▽現在は13歳となっている性交への同意を判断できるとみなす年齢の引き上げや、
▽子どもが教師から被害を受けるケースなど優位な立場を悪用した性行為の処罰、
それに
▽性的な画像や動画を盗撮する行為を対象とした罪の新設
などをめぐって、議論が行われます。

一方、今回の諮問に先立って行われた法務省の検討会では、こうした多くの論点について、委員の間で意見が分かれたため、検討の方向性や留意点を示す程度にとどまっていて、今後の法制審議会での議論は難航することも予想されます。

侮辱罪 厳罰化議論の経緯 SNS上のひぼう中傷も

SNS上でのひぼう中傷をめぐっては、この夏開催された東京オリンピックでも、国内外の出場選手に対する悪意ある書き込みが相次いだことで、社会の関心を集めました。

このうち、国内では、体操男子で2つの金メダルを獲得した橋本大輝選手や卓球混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼選手などが自身のSNSにひぼう中傷の投稿が寄せられたことを明らかにしています。

こうした投稿に追い詰められて、みずから命を絶つケースも起きています。

去年5月、共同生活の様子を記録するフジテレビの番組「テラスハウス」に出演していたプロレスラーの木村花さんが、SNS上でひぼう中傷を受ける中で、自殺しました。

この問題をきっかけに、対策の強化に向けた議論が加速し、ことし4月には、投稿した人物を速やかに特定できるよう新たな裁判手続きを創設する「改正プロバイダ責任制限法」が成立しました。

一方、投稿した人物の刑事責任をめぐっては、処分が軽く被害の実態に見合っていないという声が上がっています。

木村さんが亡くなった問題では、悪質な書き込みをしたことが侮辱罪にあたるとして、男性2人が書類送検されましたが、いずれも科料の処分にとどまりました。

侮辱罪は、公然と人を侮辱した行為に適用されますが、現在の法定刑は「30日未満の拘留」か「1万円未満の科料」となっていて、刑法では最も軽いことから「抑止力になっていない」という指摘があり、法務省は見直しを検討してきました。

16日の諮問では、侮辱罪に懲役刑を導入する方針が示され、法定刑の上限を引き上げて「1年以下の懲役・禁錮」と「30万円以下の罰金」を追加するよう求めています。

法務省は、法制審議会の答申を踏まえて、来年の通常国会に、刑法の改正案を提出することにしていて、引き上げが実現した場合、現在は1年となっている時効が3年に延びることになります。

このため、抑止効果に加えて、加害者の特定に時間がかかるとされるSNS上での投稿に対し、捜査に時間をかけることが可能となることから、立件につながりやすくなると期待する声もあります。

4件の無罪判決が法整備求める声に

刑法の性犯罪に関する規定は平成29年に、110年ぶりに見直されました。

それからわずか4年で再び議論が動きだしたのは、おととし3月に性暴力をめぐる裁判で4件の無罪判決が相次いだことがきっかけでした。

このうち、愛知県で父親が19歳だった娘に性的暴行をした罪に問われた裁判では、1審の名古屋地方裁判所岡崎支部が娘の同意がなかったことは認めた一方、「著しく抵抗できない状態だったとは認められない」として無罪を言い渡しました。

現在の法律では性行為を犯罪として処罰するには「相手が同意していないこと」だけでなく、「暴行や脅迫を用いた」または「抵抗できない状態につけ込んだ」ことの証明が必要だからです。

これらの要件について、明らかな暴行や脅迫がなくても恐怖のあまり体が硬直してしまうといった性被害の実態に合わないとして、前回の法改正に向けた議論でも緩和や撤廃を求める意見が出ました。

しかし、暴行・脅迫などの要件をなくして同意がないことだけで処罰できるようにすると、有罪の立証が困難になる一方で、えん罪も生みかねないなどとする慎重な意見が多数を占め、具体的な検討には至りませんでした。

愛知の裁判はその後、2審で逆転有罪となり、去年確定していますが、1審で無罪判決が相次いだことを受けて性暴力の被害者や支援者が声をあげる「フラワーデモ」という抗議活動が広がり、被害の実態に即した法整備を求める声が高まっていました。

性暴力被害者支援団体「被害者中心の視点で議論を」

法制審議会への諮問について、性暴力の被害者などでつくる支援団体「Spring」の副代表で、自身も被害を受けた当事者である佐藤由紀子さんは「大きな前進だ」と評価する一方で、「性被害の実態に即した法改正につながるか不安も大きく、委員の人選を含め議論の行方を注視したい」と話しています。

佐藤さんたちの団体では4年前の法改正で「積み残された課題」として、
▽時効の撤廃または一定期間の停止、
▽暴行・脅迫の要件の見直し、
▽地位や関係性を利用した行為を処罰する法律の創設、
そして、
▽性行為への同意を判断できるとみなす年齢を16歳以上に引き上げること
の4点について改正を求めています。

なかでも暴行や脅迫の要件の見直しに注目しているということで、「実際に起きている性暴力は暴行脅迫を伴うものにとどまらない。被害者の同意を得ない行為とはどのようなものかを明確にすれば、えん罪も防げるはずだ。被害者の苦しみは生涯にわたって続くので、被害者を中心に考える視点で議論を進めていってほしい」と話しています。

刑法の専門家「慎重な議論を期待」

法制審議会への諮問について、刑法が専門で、性犯罪の規定について詳しい立命館大学の嘉門優教授は「性行為はコミュニケーションによって行われるものなので、誤解が生じるおそれも大きい。新たな規定を設ける場合には、被害者の意見も十分考慮したうえで過度な処罰にならないような法律を目指さないといけない」と指摘します。

被害者や支援者などが見直しを求めている暴行や脅迫の要件については、「フラワーデモ」のきっかけとなった4件の無罪判決のうち3件が2審で有罪になったことなどを例に、「裁判になった事例をみると、暴行や脅迫の考え方はかなり広めに解釈されており、現在の法律でも十分対応できると思う」と話しています。

そのうえで「同意していない性行為をすべて処罰するとなると、えん罪にもつながりかねない。被害者にとっても、同意があったかどうか捜査機関に根掘り葉掘り聞かれるような負担が生じてはいけない。被害者の声を踏まえつつ、自分が加害者になるかもしれないというリスクも見極めた慎重な議論を期待したい」としています。