すべて“量り売り” イギリス最新買い物スタイル

すべて“量り売り” イギリス最新買い物スタイル
日本でレジ袋が有料化されて1年余り。レジ袋を辞退することが定着しつつあるものの、買い物をするたびに包装や容器がごみとなるのは今もあまり変わっていないのではないだろうか。
こうした中、イギリスでは買い物によって発生するプラスチックごみを“ゼロ”にしようというスーパーが広がっている。
食品から日用品まですべての商品を“量り売り”にして、持参した容器で持ち帰るしくみだ。新たな買い物のスタイルとして根付くのだろうか。
(ロンドン支局 松崎浩子)

すべて“量り売り”

ロンドン中心部から東に車で30分ほど走った場所にあるグリニッジ。天文台があることでも知られる高級住宅街だ。町の中心部にあるマーケットの一角で、その店は営業している。
扱う商品の数は豊富だ。卵や牛乳、調味料はもちろん、日用品や化粧品など、あわせて450あまりの品がずらりと並ぶ。商品はすべて“量り売り”だ。

客は容器を持参し、店に入るとまず空のまま重さを量る。買い物の準備はそれで完了だ。それぞれの容器にほしい品を必要なだけ入れていく。最後に再び容器の重さを計ると、自動で値段が表示されるしくみだ。しょうゆやシャンプーを含め、どんな商品もすべてこの方法で販売される。
試しに私もオートミールを購入することにした。一緒に取材したカメラマンが横でつぶやく。

「思ったより安い」

500グラム容器いっぱいに入れて260円ほど。地元のオーガニック品のわりに、大手スーパーで買う値段と変わらなかった。

経営者は「質が良くても高すぎたら店に通ってもらえないので、手頃な価格で提供できるよう努力しています」と話す。容器や包装が要らない分、コストを抑えられることもその秘密のようだ。

コロナ禍で注目高まる

この店を夫と経営するヴィトゥテ・ヴィスカッチカイタさんは、地元グリニッジに住んでいる。

プラスチックごみに対する問題意識が強く、以前はバスを乗り継いで別の量り売りの店に通っていた。しかし新型コロナウイルスの感染拡大で遠出が難しくなり、それを機に自分たちで店を構えることを決めた。
今年4月に店をオープン。地域にどこまで受け入れられるか不安だったというが、新型コロナ対策の規制がほぼ撤廃された夏以降、客は一気に増えた。

多い日で100人以上が訪れ、8月の売り上げは約160万円に達した。ヴィトゥテさんは、コロナ禍による生活の変化が背景にあるとみている。
店を経営するヴィトゥテ・ヴィスカッチカイタさん
「オンラインショッピングが増えたことをきっかけに、買い物によるごみがたくさん出ることに驚かされ、見直したいと考えるようになった人が増えたようです。口コミで広がっているので、半年後には売り上げを2倍に伸ばせるでしょう」

効果はプラゴミ削減だけではない

取材したのは金曜日の午後。平日の日中にもかかわらず店にはひっきりなしに人が訪れていた。
常連客はどう考えているのだろうか。
常連客
「ここに来れば必要な食品のほとんどを手に入れることができます。何よりプラスチックごみを減らす動機付けになります」
日頃から気になっていた、ごみ問題の解決につなげたいという意識は強そうだ。何人かに話を聞くうちに、近所に住む客からさらに興味深い話を聞くことができた。
近所に住む客
「必要な物があればその分だけ買いに来ます。例えば、夕飯の鶏肉料理のためにオレガノが必要なら、少量を買えます。スーパーと違って、買いすぎて残すことがないので本当にごみが出ません」
プラスチックごみだけでなく、フードロスの解決につながる可能性もありそうだ。

広がる“ゼロ・ウェイスト”

こうした店は、現地でゼロ・ウェイストショップ=ごみゼロの店と呼ばれ、各地に広がっている。
インターネット上にはゼロ・ウェイストショップ各店のオーナーが登録して作る地図があり、その数はイギリス全土で371店舗にのぼる。
店を経営するヴィトゥテ・ヴィスカッチカイタさん
「いきなりプラスチックごみをゼロにするのは難しいですが、試しに100グラムのお米を買った人が今は常連客になっているように、少しずつでもごみを減らせるとわかると楽しくなってくるんです。環境を考えた未来志向の店がより身近で当たり前なものになってほしいというのが、私たちの願いです」

大手スーパーも追随

ゼロ・ウェイストは大手スーパーにも広がり始めている。
イギリス国内で300以上の店舗を展開する「ウェイトローズ」は、大学の街オックスフォードの店でドライフルーツや紅茶などの量り売り方式を試験的に導入した。
11週間でプラスチック容器を83%削減できたといい、会社は量り売りをする店を4店舗に拡大している。

別の方法を取り入れるのが「テスコ」だ。
ジャムや洗剤などの容器を客に返却してもらい、店で再利用するしくみを10店舗で始めると発表した。

消費者の意識の高まりを受け、大手スーパー各社は「どれだけプラスチックごみを減らすか」を競うようにアピールしていて、大手もごみゼロを目指して少しずつ動き始めている。

ゼロ・ウェイストで町おこし

高まるゼロ・ウェイスト人気を町の活性化につなげようという動きも出ている。
イギリス南東部にある人口およそ3万人の町、バージェス・ヒル。ここ数年空き店舗が目立っていた商店街に再開発の計画が持ち上がった際、町は集客が期待できるゼロ・ウェイストショップを中心に据えると決めた。

経営者を募ると、初めて起業するという地元の住民からも手が上がった。町は、地主と交渉して家賃を引き下げたり、改装や空調設備の費用を支援したりして、4店舗の開業にこぎ着けた。
中には何百人もの常連客がついた店もあり、ゼロ・ウェイストショップが集まる中心部には町外からも客が訪れるようになったという。

活動の中心となったロバート・エグルストン議員は、町の長期的な発展を考えれば、その時々の流行を追いかけるより、環境に配慮したビジネスに本腰を入れるべきだと強調する。
ロバート・エグルストン議員
「イギリスの商店街は急速に変化していて、20年前のビジネスはもはや存在しない。ごみゼロを目指すビジネスが、この町の持続可能な経済の道しるべになると期待しています」

実は“ごみ大国”のイギリス

環境問題への意識がほかの国に比べて高いように映るイギリスだが、実は追い込まれた結果ともいえる。

科学雑誌「サイエンス・アドバンシズ」は去年、2016年時点でイギリスの1人あたりのプラスチックごみの排出量がアメリカに次ぐ2位だったと伝えた。

また、イギリスがプラスチックごみの多くをトルコなど国外に送っているという調査結果を環境団体が発表したことも大きな話題になった。この環境団体が作ったアニメーションは、ごみ問題の解決を求める世論が高まる引き金となった。
「イギリスから国外に送られた1日のプラスチックごみの量はどれくらいか」を視覚化したもので、ジョンソン首相の人形が降ってきた大量のプラスチックごみに押し流される様子はインターネットで1000万PVを記録。37万人以上が自国のごみを国外に送らないよう求める嘆願書に署名したという。

政府は対応を迫られ、スーパーのレジ袋の価格を1枚10ペンス(約15円)に引き上げたり、使い捨てのプラスチック皿やフォークを数年以内に禁止する方針を打ち出したりしている。

専門家にイギリスの今後について聞いた。
小売コンサルタント ケイト・ハードキャッスルさん
「ことし秋には国連の環境会議COP26がイギリスのグラスゴーで行われます。市民のプラスチックごみへの懸念が高まるなか、政府や企業がリーダーシップを果たすよう求める圧力は一段と高まっています。人々の環境意識を背景に、ゼロ・ウェイストショップは今後人々をひきつけ、持続可能なビジネスモデルとしてさらに拡大するでしょう」

新たな買い物スタイルになるか

イギリスでは、ゼロ・ウェイストショップが一時的な流行にとどまらず、地元のスーパーとして根付きつつあると感じた。

日本でも、レジ袋有料化からすでに1年余りがたち、新たな習慣が受け入れられている。使い捨てのプラスチック製品の提供方法の見直しを求める案もまとまり、対応はさらに進みそうだ。

プラスチックの利用を減らすことは利便性との引き換えでもあり、簡単には実現できない事情もある。しかし、例えば量り売りを利用すれば、フードロスが減ったり商品を安く購入できたりと、くらしでメリットを感じる部分もある。少しずつであっても、各地で新しい買い物の形が広がっていくことを期待したい。
ロンドン支局
松崎浩子
2012年入局 名古屋局、国際部を経て現所属。欧州経済やジェンダー、環境問題など取材