移動式集中治療室「エクモカー」連日出動 重症化で転院相次ぐ

新型コロナウイルスの重症患者数は過去最多の水準が続いていて、東京都内では入院中に重症化し、人工心肺装置=ECMOを使った治療が必要になって転院を余儀なくされるケースが相次いでいます。

転院のためにECMOを使った治療ができる「エクモカー」が出動するケースも相次いでいて、現場の医師は「重症患者がこれ以上増えると対応が難しい」と話しています。

新型コロナウイルスの重症患者の治療についてまとめている「日本ECMOnet」によりますと、自力で呼吸ができなくなり、ECMOを使った治療を受けている患者は、4日の時点で全国で161人となり、過去最多の更新が続いています。

この治療の拠点になっている府中市の「都立多摩総合医療センター」には、別の病院で中等症で入院していた患者が重症化し、ECMOが必要だとして転院を要請されるケースが相次いでいます。

センターには、都内で唯一、「エクモカー」が配備されていてECMOの治療ができる病院への転院を行っていて、年末から年明けの感染拡大の第3波や春の第4波では、それぞれ数回しか出動がありませんでしたが、先月下旬からは、ほぼ連日、出動しているということです。

病院には「日本ECMOnet」を通じて重症患者への対応を行う医師たちが全国から派遣されていて、エクモカーに乗り込んだり、他の病院でのエクモの治療を指導したりしていますが、依頼が重なると対応が難しいこともあるということです。

病院の清水敬樹ECMOセンター長は「全国の医師たちの力を借りてなんとか対応できているが、本当にギリギリの運用で、これ以上、重症者が増えると難しくなる」と話しています。

厳しい運用の現場 転院完了に6時間

エクモカーは、一般の救急車より広く、人工呼吸器や酸素ボンベなどの医療機器が装備されているほか、移動中にもECMOを使った治療ができるようになっていて「移動式の集中治療室」とも呼ばれています。

医師や看護師、臨床工学技士など通常の救急車より多くのスタッフが乗り込むことができ、患者の容体の急変にも対応できるようになっています。

東京都内で唯一、配備されている府中市の都立多摩総合医療センターでは重症患者が急増した8月中旬ごろから出動要請が相次いでいて、取材した9月2日には、重症化した患者を転院させてほしいという要請を受けて、午前8時半ごろから救命救急が専門の医師や臨床工学技士、それに「日本ECMOnet」から派遣された医師らが準備を進め、合わせて7人が乗り込んで病院を出発しました。

エクモカーが向かったのは、主に中等症の患者を受け入れている東京文京区の病院で、人工呼吸器を使った治療を受けていた50代の患者の呼吸状態がさらに悪化し、ECMOでの治療が必要になったということです。

ECMOでは、患者の体内から取り出した血液に直接酸素を送り込むことで、肺の機能を一時的に代行することができ、首や足の付け根などから入れた管を通じて体内から血液を取りだしたあと、肺の代わりに酸素を溶け込ませて体内に戻します。
病院に到着した医療チームは患者の全身状態を確認したあと、患者の足の付け根と首に太い管を通すなどして、およそ3時間かけてECMOを装着し、正常に機能するか確認しました。

その後、医療チームは防護服を着たまま、患者をエクモカーに載せ、走行中も管がずれていないかや装置や管の中で血栓ができていないか、モニターなどを見ながら、慎重に確認していました。

そして、患者の転院先の品川区の昭和大学病院に到着すると、大学病院の医師や看護師などとともにおよそ10人がかりで、患者を病室に運び込み、ECMOや人工呼吸器などの装置の調整を行いました。
エクモカーが都立多摩総合医療センターを出発してから、1人の患者の転院が完了するまでにかかった時間はおよそ6時間で、医療チームでは多くの患者に対応するのは難しいこともあるとしています。

都立多摩総合医療センターの清水敬樹ECMOセンター長は「今回、転院搬送した患者は、ECMOを装着しなければ救命できない状態だった。対応が必要な患者がいればいつでも出向きたいが、運用はギリギリで、すべての要請に対応できていないのが現実だ。少しでも感染者を減らし、これ以上の重症患者を減らす行動を多くの人にとってもらいたい」と話しています。