全国学力テスト結果 休校の長さによる正答率の差 確認されず

感染拡大の影響で、2年ぶりの実施となった「全国学力テスト」の結果が、8月31日公表されました。去年の一斉休校の長さによる正答率の差は確認されなかった一方、休校中の勉強に不安を感じた中学生は6割に上るなど課題もみられました。文部科学省は影響を詳細に分析していくとしています。

<この記事で分かること>
▽コロナ禍の休校期間の長さと正答率の関係は
▽都道府県別の正答率(一覧あり)
▽継続アンケート調査 注目項目ピックアップ
▽休校の格差不安 1人親家庭では
▽困窮家庭の子どもたちの学習支援どうする?
▽教育格差の専門家はどう見た?

今回の平均正答率

「全国学力テスト」は、文部科学省が全国の小学6年生と中学3年生を対象に行っていて、去年は感染拡大の影響で中止されましたが、ことしは5月に実施され、およそ200万人が参加しました。

平均正答率は、
▽小学校の国語が64.9%、算数が70.3%、
▽中学校の国語が64.9%、数学が57.5%で、
中学校の国語では前回より8ポイントほど低くなりました。

文部科学省は、問題の難易度などが異なるため、単純に比較はできないとしています。

コロナ禍の休校期間の影響は

コロナ禍による影響も調査していて、去年4月以降の地域一斉の臨時休校の期間は「50日以上、60日未満」が最も多く、80%余りの学校で30日以上となりました。

この間の家庭学習としては、「教科書に基づく指示」や「学校作成のプリント配布」を全校で実施した小中学校は8割を超えた一方で、「同時双方向型のオンライン指導」を全校で実施したのは小学校で3%、中学校で5%にとどまりました。

休校期間の長さによる平均正答率の差は、全体では見られなかったものの、家庭状況による影響などは今後、分析していくとしています。

休校中について、
「計画的に学習できた」と答えた中学生は38%にとどまり、
「勉強に不安を感じたか」という質問に、
「当てはまる」、「どちらかといえば当てはまる」と
回答した小学生は55%、中学生では63%となりました。

分からないことがあった際の対応を複数回答で尋ねると、「家族に聞いた」とか、「自分で調べた」という回答が多かった一方、「分からないことをそのままにした」という回答が、小学生で10%、中学生では14%を占めました。

文部科学省の浅原寛子学力調査室長は、「休校期間による学力面での大きな差は見られないものの、分からないことを誰にも聞けずに、そのままにした子どももおり、取り残されることがないよう影響を詳細に分析していきたい」と話しています。

都道府県別の結果は…

公立で都道府県別に最も正答率が高かったのは
▽小学校の国語が秋田県と石川県が71%、
 次いで青森県と福井県が69%。

▽算数が東京都と石川県が74%、
 次いで富山県と福井県それに京都府が73%でした。

▽中学校は国語が石川県で69%、
 次いで秋田県が68%、
 東京都と福井県が67%、
▽数学が石川県が63%、
 次いで福井県が61%、
 秋田県と東京都が60%でした。

教科ごとに最も正答率が高い県と低い県を比べたところ、その差は7ポイントから11ポイントで、文部科学省は前回の結果と比較して、自治体間の学力の差は、コロナ禍で広がっている状況はみられないとしています。

「将来の夢」「学校の楽しさ」は過去最低に

児童や生徒を対象に継続して実施しているアンケート調査のうち、
「将来の夢や目標を持っている」という項目では、
「当てはまる」と回答した割合が、
▽小学生で60%とコロナ禍の前に実施された
前回の2019年度から5.7ポイント減少し、
▽中学生でも4.4ポイント減って41%となりました。
また「学校に行くのは楽しいと思う」という項目では、
「当てはまる」が、
▽小学生で前回より6ポイント減少し48%、
▽中学生で2.4ポイント減って43%となりました。

それぞれの項目の調査を開始して以降、過去最低だということです。

今回の結果について、文部科学省が専門家に見解を求めたところ、感染拡大の影響で学校行事が中止されるなど目標を達成する機会が減ったことや、給食での会話や友達とのふれあいが制限されるなどの学校生活の変化が背景にあると指摘されたということです。

文部科学省では、コロナ下の心理面の変化についても、引き続き影響を注視して、必要な支援策を講じていきたいとしています。

「規則正しい生活」は半数「ゲーム時間」は大幅増

今回の学力テストでは、
去年の一斉休校の期間中の生徒たちの状況について聞いていて、
「規則正しい生活を送っていたか」という質問に、
「当てはまる」、「どちらかといえば当てはまる」と、
肯定的に回答した割合は、
▽小学生で63%、▽中学生で48%でした。
また休校期間に限らず、
平日にテレビやスマートフォンなどでゲームをした時間を聞いたところ、
「1日当たり3時間以上」という回答が、
▽小学生で29%、▽中学生で32%と、
いずれも2017年の調査より11ポイントほど増加し、
「1日当たり1時間以上」では
▽小学生が76%、▽中学生が80%と、
いずれも20ポイントほど増加していました。

小中学生ともに、1日当たりのゲーム時間が増えるほど、各教科の平均正答率が低い傾向にあり、1日4時間以上ゲームをする子と、全くしない子では、15ポイントから20ポイントの差がありました。

文部科学省の浅原寛子学力調査室長は「スマートフォンの普及に加え、感染拡大の影響で、子どもたちは外遊びができず、在宅で過ごす時間が増加したことが背景にあるとみられる。ゲームやスマートフォンの長時間利用が生活習慣の乱れなど日常生活に影響しないよう、普及啓発に努めていきたい」と話していました。

休校で格差不安 ひとり親家庭では…

経済的に厳しい中、ひとりで子育てしている40代の母親は、一斉休校中に学習や生活を保障できなかった経験から、格差が広がることを不安視しています。

東海地方で、小学4年生の息子と高校1年生の娘と3人で暮らす40代の母親は、去年の一斉休校の間、子どもを家に残し、朝8時には仕事に出て、夕方帰宅する生活をしばらく続けざるをえませんでした。

しかし、仕事から帰ってくると、当時小学3年生だった息子がパジャマのまま着替えもせず、食事もとらずにゲームをしている姿に、長時間子どもだけで勉強させることの難しさを痛感したといいます。
母親は、「小学生以下の子どもが1人で、計画的に1日を過ごすのはなかなか難しい。親がちゃんと家にいて、学習や生活を守ってあげられる家庭とは天と地の差があったと思う。学力面でも差が出るし、心のケアの面でも爪痕が残ってしまうので、一斉休校の状態は2度と起きて欲しくないです」と語りました。

小学4年生の息子は、「休校中はコロナで出かけられず、友だちとも遊べなかったので、暇しかなかった。勉強はちょっとやったけど、わからないときはとりあえず全部諦めた」と話していました。
学校が再開したあとは、2日に1度テストがあるなど、2倍から3倍の速さで授業が進んだということで、母親は「休校中の3か月間、何もできなかった家庭の子は、本当に置いていかれる状況でしんどかったと思います。朝学校に行くのが嫌だとすごく泣いて、何か月かは学校が怖くなり、楽しいことが何もない状態になっていたと思います」と振り返っていました。

結局、フルタイムだった仕事を辞めざるを得ず、今も就職活動を続けていますが条件に合う仕事は見つかっていないということで、「学習塾に通わせたり、通信教育を受けさせたりする経済的余裕もなく、教育に投資できる家庭と学力の格差がつくことを心配しています。タブレット端末が配られ、オンライン授業の準備も少しは整ってきたという変化はあったが、本当に使えるかどうかというと試行錯誤で、学校の先生にも家庭にも不安はあります」と話していました。

意欲を失う困窮家庭の子どもたち 支援の現場は

今回の学力テストでは、休校中の学習や生活の課題が浮き彫りになりましたが、経済的に困窮する家庭の子どもたちの学習塾では、コロナ禍で勉強への意欲が低下しないよう個別に支援する取り組みが続けられています。

都内のNPOが運営する無料の学習塾では、ひとり親など経済的に厳しい家庭の小中学生を対象に、月に2回ほど1対1で個別指導する学習会を開いていて、現在は外国籍の子どもを含めた20人ほどが通っています。

夏休み中も、子どもたちはボランティアに教わりながら、宿題や1学期の復習などに取り組んでいました。
学習塾によりますと、自宅に勉強する部屋や机がない子どももいて、家族も仕事で不在の中、一斉休校中に1人で学習を続けることが難しい状況にあったといいます。

このためボランティアたちは学習面の支援だけでなく、みずから進んで勉強したかや、気になる様子がないか、ほめた点などの項目ごとに記録して共有し、勉強への意欲が低下しないよう精神面でのサポートにも力を入れています。

小学5年生の女子児童は、「ここは先生のことばが伝わりやすくてコミュニケーションがとれて楽しいです。一斉休校の間は私は勉強に集中できず時間がかかりました。コロナもあるし先生も大変そうだし、宿題をどうしようと困りました」と話していました。

外国籍の中学2年生の女子生徒は、「休校になって前はできていたことが、ずっと家にいると分からなくなってしまった。学校は全員で勉強するけどここは先生と私だけでやるのでわかりやすいです」と話していました。
NPO法人「キッズドア」が運営する無料学習塾の中島健二さんは「ここの子どもたちの親は仕事を掛け持ちするなど忙しく一斉休校では家でも学校でもフォローしてもらえずどんどんやる気を失い、分からないところをそのまま放置しているケースも多く見られました。コロナ禍でこれまでもあった差がさらに開くおそれがあり、数年後にいろんな数値に表れるのではないか。日常で不安なことはないか、我慢していないか聞き取り、精神面を安定させた上で学習面と、2段階の支援を意識しています」と話していました。

専門家「学びを諦める子どもが出る懸念」

今回の調査結果について、教育格差に詳しい早稲田大学の松岡亮二准教授は「休校期間による差が正答率に出なかった背景には、その後の夏休みの短縮など学校現場での多くの努力があると考えている。ただ家庭の状況では、親がリモートワークで在宅だったり、オンラインの塾に通えたりした子は、学習上の疑問点を誰かに聞くことができたが、親が外に働きに出なくてはならず、子どもだけで家にいた子は、そのままやり残してしまうなど、休校中の学習の量や質に差があったことが考えられる」と話しています。
そのうえで、「今回の調査では見えなくても、コロナによる影響は家庭の経済状況などによって今後、数年にわたって出てくる可能性がある。経済的に苦しくなった家庭では高校受験や大学受験の場面で学ぶことを諦めてしまう層が出てくるのではないか。子どもたちが1人でも多く学び続けられるよう、休校で心が折れてしまわないよう国や教育現場は、取り組んでいく必要がある」と指摘しています。

そして、今後も感染拡大による休校が想定されることを踏まえ、「休校による影響は、子どもや家庭の環境によって大きく異なる。ひとり親家庭の子どもは休校中も登校できるようにするなど、表面的な公平感は多少失われたとしても、特に厳しい家庭環境にある子どもたちに対し、優先的に時間や資源を使うことも検討していく必要がある」と話していました。