五輪 大会組織委 橋本会長「大きな問題なく閉幕」成果強調

東京オリンピックが8日夜に閉幕するのを前に、大会組織委員会の橋本会長が記者会見し「安全最優先に、全体として大きな問題なく閉幕の日を迎えられた」と述べ、大会運営のために新型コロナウイルスの感染対策が一定の成果を挙げたと強調しました。

先月23日に開幕した東京オリンピックが、8日夜、国立競技場で行われる閉会式で17日間の日程を終えるのを前に、組織委員会の橋本会長は東京 江東区のメインプレスセンターで記者会見しました。

この中で、大会の最大の課題だった新型コロナの感染対策について「安全安心の要は検査で、陽性者は速やかに隔離を行って、感染が広がらないよう適切な措置を講じた。安全最優先に、全体として大きな問題なく閉幕の日を迎えられた」と述べ、大会運営のために感染対策が一定の成果を挙げたと強調しました。

そのうえで、一部の選手や大会関係者の間で感染対策のルールが守られない事例が相次いだことを踏まえ、「徹底した管理をしてもルールを100%守ってもらうことの難しさも感じた。引き続きコロナ対策に万全を期してパラリンピックに向けて準備したい」と述べました。

また、ほとんどの会場が無観客となったことについては「感染拡大が続く中で無観客は致し方なかった。無観客だからこそテクノロジーを生かし映像を通じてつながるという今までにない大会の価値をもたらすことができた」と理解を求めました。

一方で、今月24日に開幕する東京パラリンピックの観客の扱いについては「感染状況と政府の方針を踏まえて、適切な時に慎重に判断したい」と述べるにとどまりました。

人種差別への抗議容認 多様性の実現へ前進

IOC=国際オリンピック委員会は今大会から「政治的、宗教的、人種的な宣伝活動を禁止する」というオリンピック憲章の規定を一部、緩和し、選手たちが競技場で試合前に人種差別への抗議の意志を示す行動などを認めました。

これは、各国や地域の選手たちと対話を重ねたIOCのアスリート委員会からの提言を受けて決定したもので、今大会ではサッカー女子のなでしこジャパンや海外のチームが、試合前に片方のひざを地面について人種差別への抗議を示しました。
また、心と生まれつきの体の性が一致しないトランスジェンダーの選手がオリンピックに初めて出場したことも歴史的でした。

IOCは2015年にガイドラインを策定し、男性ホルモンのテストステロンの値などが一定の基準を満たせばオリンピックに出場できるとしていて、今大会で初めて、この基準を満たして出場したのがウエイトリフティング女子87キロを超えるクラスのニュージーランド代表、ローレル・ハッバード選手です。

このほか、今大会では多くの競技で男女混合の種目が取り入れられ、大会コンセプトの1つ、多様性の実現に向けて大きく前進した大会となりました。

SNSで選手への中傷相次ぐ

今回の東京オリンピックでは、直接、選手に対するSNSによる中傷が相次ぐなどデジタル時代の課題が浮かび上がった一方で、選手たちがお互いのプレーをたたえ合うなど、スポーツが本来持つ価値を強く印象づける場面もありました。

今回の東京オリンピックでは、選手みずからがSNSを使って、さまざまな発信を行う一方で、直接、ひぼう中傷の被害を受けるケースも相次ぎました。
日本選手では、体操男子で2つの金メダルを獲得した橋本大輝選手や卓球の水谷隼選手などが自身のSNSにひぼう中傷の投稿が寄せられたことを明らかにしています。

IOC=国際オリンピック委員会は24時間態勢の相談窓口でカウンセリングを行うほか、JOC=日本オリンピック委員会も「断じて許されることではない」として関係機関と連携して対処する方針を示しました。

ただ、デジタル時代の負の側面が浮かび上がる一方で選手たちがお互いの健闘をたたえ合うなど、スポーツが本来持つ価値を印象づける場面も多く見られました。
特に、東京オリンピックから採用された新競技では、スケートボードの女子パークでメダルを逃したものの、難度の高い技にチャレンジし続けた岡本碧優選手をほかの選手が駆け寄ってたたえたシーンやスポーツクライミングで、戦いを終えた選手たちが国や地域の違いを超えて涙を流して健闘をたたえ合う姿が印象的でした。

新型コロナウイルスの感染拡大によってオリンピック開催の意義が問われた大会で選手たちが見せた、順位を競うだけでなく、さまざまな違いを乗り越えてお互いを尊重し、自分のベストを追求するという姿勢は、スポーツやオリンピック本来の意義を再認識させるものでした。

選手から暑さ対策求める声相次ぐ

日本特有の高温多湿の気候条件の中で行われた東京オリンピックでは、大会期間中に多くの選手から対応を求める声が上がり、大会組織委員会は期間中、暑さ対策に追われる事態となりました。

真夏の東京をメイン会場に行われた今回のオリンピックは連日、暑さの中で競技が行われました。
これに対し、テニス男子シングルスで世界ランキング1位のノバク・ジョコビッチ選手が「体のすべてが重たくて、足を引きずる感じだった」と言えば、スケートボード男子ストリートの世界ランキング1位のナイジャ・ヒューストン選手は「会場のコースはすばらしかったが、暑さだけは厳しかった」と、トップ選手からも苦言が相次ぎました。

選手からの声を受けて、大会組織委員会は国際競技団体などと協議のうえ、暑さ対策のためにテニスやサッカー、それに札幌で行われたマラソンなどの競技で開催時間を急きょ変更する対応を取りました。

これについて、組織委員会の運営責任者は「ここまでの暑さだと選手の健康や命に影響があるという強い声が出て、時間を動かさない選択肢はなかった」と述べ、新型コロナウイルスの感染対策と並んで重要な課題と位置づけていた暑さ対策が想定を上回る事態に変更を余儀なくされたことを認めざるをえませんでした。

さらに、懸念された熱中症は、競技が本格的に始まった先月24日から今月6日までに、大会運営に当たるスタッフやボランティア、合わせて54人が熱中症で治療を受けたということです。

組織委員会は今大会の教訓を踏まえて、今月24日に開幕するパラリンピックでの暑さ対策に生かしていく考えです。