旧優生保護法訴訟 国会対応は違法の初判断 賠償責任は認めず

旧優生保護法のもとで不妊手術を強制された兵庫県内の5人が国を訴えた裁判の判決で、神戸地方裁判所はこの法律を憲法違反としたうえで平成8年まで法改正しなかった国会の対応を違法とする初めての判断を示しました。しかし、時間の経過によって国に賠償を求める権利は消滅しているとして訴えを退けました。

この裁判は昭和30年代から40年代に、旧優生保護法に基づく不妊手術を強制された兵庫県内に住む聴覚障害などがある5人が国に損害賠償を求めていたものです。

3日の判決で神戸地方裁判所の小池明善裁判長は、旧優生保護法について「立法目的は極めて非人道的であって、憲法の理念に反することは明らかだ」として個人の尊厳や子どもを産み育てる権利などを保障した憲法に違反すると判断しました。

さらに平成8年の法改正まで不妊手術を強制する条項を廃止しなかった国会の対応を違法とする初めての判断を示しました。

しかし、提訴時点で不妊手術から20年以上が経過していたことを理由に「賠償請求できる権利は消滅している」として国の賠償責任を認めず訴えを退けました。

全国で起こされている同様の裁判で今回が6件目の判決でしたが、すべて原告側の訴えが退けられています。

裁判長 “偏見や差別解消へ積極的な施策期待”

小池明善裁判長は、判決の最後に「旧優生保護法の優生条項が憲法に違反することが明白であるにもかかわらず、この条項が半世紀もの長きにわたり存続し、個人の尊厳が著しく侵害されてきた事実を真摯(しんし)に受け止め、この法律を背景として特定の病気や障害があることを理由に心身に多大な苦痛を受けた多くの被害者に必要で適切な措置がとられ、現在もこの法律の影響を受けて根深く存在する障害者への偏見や差別を解消するために積極的な施策が講じられることを期待したい」という一文を付けました。

原告 控訴する方針示す

判決が言い渡されると、原告側の弁護士は、裁判所の前で「不当判決」とか「障害のある人の人権を否定」などと書いた紙を掲げました。

集まった支援者たちからは落胆のため息が聞こえ「不当判決を許さないぞ」などという声があがっていました。

判決のあと、3人の原告と弁護団が神戸市内で記者会見を行い、控訴する方針を示しました。

この中で、聴覚障害がある妻が不妊手術を強制された、自身も聴覚に障害がある原告の小林寳二さん(89)は「強制的に不妊手術を受けさせられる優生保護法という法律があり、私たちは被害者であることを知らされてこなかった。怒りを抑えることができない」と述べました。

また、原告で先天性の脳性まひが原因で身体に障害がある鈴木由美さん(65)は「判決は納得できません。同じ人間としての扱いをしてほしい。弁護団のおかげでここまで来られました。これからも私たちは負けずにいたい」と述べました。

弁護団長の藤原精吾弁護士は「裁判所は司法としての役割を果たさず、国会の責任だと問題を投げている。この判決に裁判所がみずから書いている障害者に対する偏見や差別は現在の問題であり、問題を認識するなら、国会に立法を促すような判決を出すべきだ。障害者に対する差別偏見のない社会をつくるため、闘い続けていきたい」と述べ判決を批判しました。

厚生労働省「国の主張認められた」

判決を受けて厚生労働省は「国家賠償法上の国の主張が認められたと受け止めている。旧優生保護法の被害者への一時金の支給など着実な支援に取り組みたい」とコメントしています。

これまで5件の判決 すべて原告側の訴え退けられる

旧優生保護法のもとで不妊手術を受けさせられたとして国に賠償を求める裁判は、原告側の弁護団によりますと、全国の9か所の地方裁判所に起こされています。

これまでに、仙台、東京、大阪、札幌で、合わせて5件の判決が言い渡されています。

このうち3件は旧優生保護法を憲法違反とする判断を示しました。

しかし、この3件も含め5件すべてが原告の訴えを退けていて、4件は、改正前の民法で規定されていた「除斥期間」を適用し、提訴時点で賠償を求めることのできる20年間を過ぎているという理由でした。

1件は、旧優生保護法に基づいた強制的な不妊手術が実施されたとは認められないとしました。

「除斥期間」大きな壁に

今回の判決は、旧優生保護法を憲法違反とし、それに基づく不妊手術を強制された原告は国に損害賠償を請求する権利があったと認定しました。

さらに国会議員たちが平成8年まで長期間にわたって優生条項を廃止しなかったことも違法と判断し、この点でも原告には損害賠償を請求する権利があったと指摘しました。

それにもかかわらず訴えを退けたのは、相手の不法行為から20年が経過すると裁判で賠償を求める権利が消滅するという改正前の民法に規定されていた「除斥期間」を適用したからです。

今回の裁判で国側は「20年の起算点は不妊手術が行われた昭和30年代から昭和40年代とすべきで、提訴時点で20年を過ぎているため賠償請求はできない」と主張し、訴えを退けるよう求めていました。

「除斥期間」の適用は民事裁判では大原則とされていますが、過去には例外的に適用しなかったケースもあります。

昭和27年に生後5か月で国の政策による予防接種を受け、副作用で重い障害が残った男性が、22年後に国に賠償を求めた裁判で、最高裁判所が「男性は障害の影響などで長年、裁判を起こせなかった。その原因をつくった加害者が賠償を免れる結果は、著しく正義、公平の理念に反する」として、予防接種から20年を過ぎたあとでの賠償請求を認めました。

原告側はこうしたケースを引き合いに「受けた被害は極めて重大で、深刻な人権侵害であり、みずからが受けた手術の実態を最近まで知ることがなかった」などとして「除斥期間」を適用しないよう主張していました。

そして「除斥期間」の起算点についても、旧優生保護法のもとで不妊手術を強制的に受けさせられたとして、全国で初めて宮城県の女性が仙台地方裁判所に提訴した平成30年1月以降とすべきだと訴えていました。

しかし、今回の判決は「除斥期間」の起算点は手術を受けたときだと判断しました。

そして、原告の主張を前提にして検討しても、旧優生保護法が改正された平成8年には「除斥期間」は始まっていて、訴えを起こした時点では賠償を請求する権利が消滅していたと結論づけました。

全国で起こされている同様の裁判でも、この「除斥期間」は原告にとって大きな壁になっていて、これまでに言い渡されたほかの判決も、ほとんどが「除斥期間」を理由に訴えを退けています。