オリンピック 高温多湿 アスリートからは苦言

東京オリンピックは大会の折り返し地点をすぎましたが、まだまだ暑さの中で競技は続きます。一方で高温多湿の厳しい環境に、大会に参加したアスリートなどから苦言が相次いでいます。

『理想的な気候』とはかけ離れた状況

東京オリンピックが開催される8年前。

当時の大会招致委員会がIOC=国際オリンピック委員会に提出した立候補ファイルには大会期間中の気候についてこう記されていました。

「この時期の天候は晴れる日が多く、かつ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」。

気象庁によると、実際に大会が始まった7月の東京の最高気温は34度7分、湿度は平均80%に上りました。

立候補ファイルでうたっていた「理想的な気候」とはほど遠い高温多湿の厳しい環境に、大会に参加したアスリートなどからは苦言が相次ぎました。

特に目立ったのがテニス選手からでした。

テニス初日の7月24日、男子シングルスの1回戦のあと、世界王者、セルビアのノバク・ジョコビッチ選手は「とても暑くて湿度が高くコートは暑さをため込み、体のすべてが重たくて、かなりタフな状況だ。夜の試合用のライトがあるのだから、午後4時や5時開始にして深夜までプレーするなど方法があるはずだ」として国際テニス連盟に大会運営面での改善を求めました。

新たな対策余儀なくされた国際テニス連盟

実は、運営を担う国際テニス連盟は大会前から東京の暑さを見越して対策を取っていました。

直近3年間の気象データをもとに大会期間中の気温を予測。

その結果、最高気温が連日40度を超える真夏のオーストラリアでの四大大会、「全豪オープン」や35度を超えるアメリカでの「全米オープン」と比べて、試合続行が困難になるほどの暑さにはならないと判断していました。

ただ、アジア特有の湿度を伴う暑さには警戒が必要だとして、通常、セットの間に設けることはない休憩をこの大会にかぎり、暑さ指数が一定の基準を上回った場合、シングルスのどちらかの選手の求めがあれば、第2セットと第3セットの間で10分間取ることができるようルールを大会前に変更していたのです。

しかし、大会が始まるとすぐに対策の見直しを迫られました。

それは会場の気温が30度を上回った初日、セットの間に休憩を取っても、顔を真っ赤にしてプレーする選手がいたことなどがきっかけでした。

全豪、全米ほどの高温とまではいえない状況でも直近4か月、ヨーロッパでツアー転戦の日々を送っていた選手たちにとって、高温多湿の環境は想像以上にきつかったのです。

国際テニス連盟は日中の試合を避けるため開始時間を遅らせることについて検討を始めました。

しかし、緊急事態宣言が課題となります。

テニスには男女シングルス、男女ダブルス、混合ダブルスの5種目があり、合計208の試合を9日間で終えることになっています。

開始時間を遅らせてこの試合数をこなすには、その分、試合の終わり時間を遅くしなければなりません。

ただ、東京の緊急事態宣言下で最終電車の時間が繰り上げされた影響で遅くまで大会運営に必要なスタッフを確保できない状況にありました。

こうしたことから国際テニス連盟はすぐに、試合時間を遅らせることはできないとして、トーナメントが進み、1日の試合日数が少なくなる7日目から開始時間を遅らせるのが現実的と考えました。

このときの判断について国際テニス連盟のデビッド・ハガティ会長は「選手の体調管理はもちろん重要視していたが、緊急事態宣言下の調整は困難を極めた。試合が佳境に入り、誰が残り、誰がどの種目に出場するのか、わかったタイミングで可能になると考えた」と振り返りました。

しかし、その後恐れていた事態が起きてしまいました。

5日目の7月28日、女子シングルスの準々決勝でスペインの選手が暑さで歩けなくなり、途中棄権したのです。

国際テニス連盟はその日の夕方、IOCと大会組織委員会、医療関係者などと話し合い、予定を1日前倒しして翌日の6日目から開始時間を午前11時から午後3時に遅らせるよう変更しました。

幸い、それ以降、暑さで棄権する選手は出ませんでした。

限られた状況でも最善を

最終日の1日、今大会の一連の対応の評価について国際テニス連盟の理事に尋ねてみました。

理事は「『アスリートファースト』とは一体何だろうと悩みながら運営として臨機応変な対応をとり、ギリギリを攻めたつもりだ。状況は異なるが、ほかの競技でも限られた状況で最善を尽くしてもらいたい」とほかの競技団体にエールを送りました。

オリンピックは大会の折り返し地点をすぎましたが、まだまだ暑さの中で競技は続きます。

選手自身の対策はもちろん、これから行われる競技の運営側も限られた中で最善を尽くし、アスリートファーストの実現に向けて柔軟な対応を進めてほしいと思います。