緊急事態宣言の効果は? 感染の現状と対策の成否を記者が解説

東京では、今月12日から4度目の緊急事態宣言が出されたあとも、新規感染者は増え続けています。
その中で、政府は、緊急事態宣言の対象地域に、埼玉、千葉、神奈川、大阪の4府県を追加するほか、北海道、石川、兵庫、京都、福岡の5道府県に、まん延防止等重点措置を適用することを決めました。

全国で感染が急拡大する中で、緊急事態宣言などの効果をどう考えたらよいのか、政府の考えや、感染状況の分析を記者が詳しく解説します。

各地の感染拡大ペース 上がり続ける

新型コロナウイルスの新規感染者数を1週間平均で比較すると、オリンピックが開かれている東京都では緊急事態宣言が出された後も感染拡大のペースが上がり続けています。

全国のほとんどの地域で増加し、沖縄県や新たに緊急事態宣言が出される首都圏の3県や大阪府では拡大のペースが上がっていて感染拡大に歯止めがかからない状況となっています。

NHKは各地の自治体で発表された感染者数を元に、1週間平均での新規感染者数の傾向について前の週と比較してまとめました。

全国 42の都道府県で感染拡大

全国では、6月下旬までは6週連続で新規感染者数が減少していましたが、
▽7月1日までの1週間では前の週と比べて1.04倍
▽7月8日は1.16倍
▽7月15日は1.41倍
▽7月22日は1.56倍
▽29日まででは1.69倍
と、5週連続で感染が拡大するペースが上がり続けています。

1日当たりの新規感染者数はおよそ6474人となっています。

42の都道府県で感染が拡大しています。

緊急事態宣言延長の東京・沖縄は

東京都は先月下旬から新規感染者数が増加し、緊急事態宣言が出された後の
▽7月15日までの1週間では前の週の1.33倍
▽7月22日は1.56倍
▽29日まででは1.62倍
と6週連続で感染が拡大するペースが上がり続けています。

1日当たりの新規感染者数はおよそ2224人と、先週よりおよそ851人増え、直近1週間の人口10万人当たりの感染者数も111.84人と全国で最も多く東京都ではこれまでで最も多くなっています。
5月23日から緊急事態宣言が出されている沖縄県では、今月初めまでは5週連続で減少していましたが、
▽7月15日までの1週間では前の週の1.09倍と再び増加に転じ、
▽7月22日は1.92倍
▽29日まででは2.19倍
と3週連続で感染が拡大するペースが上がっています。

1日当たりの新規感染者数は231人で、直近1週間の人口10万人当たりの感染者数は111.29人と東京都と同様の高い水準となっています。

新たに緊急事態宣言の地域は神奈川・埼玉・千葉・大阪は

8月2日から新たに緊急事態宣言が出される首都圏の3県と大阪府でも感染の急拡大が続いています。

神奈川県は先月下旬から増加し、
▽7月15日までの1週間では前の週の1.45倍
▽7月月22日は1.43倍
▽29日まででは1.52倍
と急増が続いています。
1日当たりの新規感染者数はおよそ749人となっています。
埼玉県は先月下旬から増加し、
▽7月15日までの1週間では1.48倍
▽7月22日は1.74倍
▽29日まででは1.73倍
と急増が続き、1日当たりの新規感染者数はおよそ567人となっています。
千葉県は
▽7月15日までの1週間では前の週の1.28倍
▽7月22日は1.40倍
▽29日まででは1.61倍
と感染拡大のペースが上がっていて1日当たりの新規感染者数はおよそ426人となっています。
大阪府は今月初めから増加し、
▽7月15日までの1週間では前の週の1.78倍
▽7月月22日は1.58倍
▽29日まででは1.67倍と急速な感染拡大が続いています。

1日当たりの新規感染者数はおよそ568人となっています。

新たに重点措置の北海道・石川・京都・兵庫・福岡は

新たにまん延防止等重点措置が適用される地域でも、感染が急速に拡大しています。

北海道は
▽7月15日までの1週間では前の週の1.52倍
▽7月22日は1.65倍、
▽29日まででは1.48倍
と急速な感染拡大が続き、1日当たりの新規感染者数はおよそ153人となっています。
石川県は
▽7月15日までの1週間では前の週の2.05倍
▽7月22日は2.26倍
▽29日まででは1.89倍
と急速な感染拡大となっていて、1日当たりの新規感染者数はおよそ74人となっています。
京都府は
▽7月15日までの1週間では前の週の1.68倍
▽7月22日は1.80倍
▽29日まででは1.88倍
と拡大のペースが上がり続けていて1日当たりの新規感染者数はおよそ97人となっています。
兵庫県は
▽7月15日までの1週間では前の週の1.77倍
▽7月22日は1.89倍
▽29日まででは1.59倍
と急速な感染拡大が続き、1日当たりの新規感染者数はおよそ163人となっています。
福岡県は
▽7月15日までの1週間では前の週の1.77倍
▽7月22日は1.49倍
▽29日まででは2.62倍
と急速な感染拡大になっていて、1日当たりの新規感染者数はおよそ227人となっています。

【記者解説】1.政府は現状をどう受け止めているか

【政治部 瀧川学記者】

政府関係者からは「これほど急激な感染拡大は予想外だった」という声が聞かれます。

宣言の対象となった4府県には、まん延防止等重点措置が適用されていましたので、当初、政府内では「飲食店への酒の提供停止の要請や見回りなど、まだ、自治体の責任でやれる対策がある」といった意見が大勢でした。

しかし、先週22日からの4連休のあと、感染者が、連日、過去最多を更新するなど、感染が急拡大したことで、政府内の雰囲気は一変し、今回の判断に至りました。

一方、東京オリンピックについて、政府は、選手や関係者の感染対策は万全だと繰り返し説明しています。

ただ、専門家からは、大会の開催で警戒感が薄れたり、対策に協力が得られにくかったりするリスクも指摘されてきました。

政府としては、宣言を延長し、対象を広げることで、国民にも強い危機感を共有してもらい、感染の急拡大に歯止めをかけて、減少に転じさせたい考えです。

2.宣言の効果について、どう考えているか

東京には、7月12日から4回目の緊急事態宣言が出されていますが、これまでのところ、政府が期待するほど効果は上がっていないのが実情です。

繁華街などの人の流れは減少傾向にあるとは言え、過去の宣言の時よりも減少幅は小さく、時短要請に応じていない飲食店は都内で数千に上るとされています。

宣言を出しても、現在の仕組みのもとでは、新たに講じられる有効な手段も少ないことから、政府内からは「手詰まりの状態だ」という声も漏れています。

ただ、感染の急拡大を早期に食い止めなければ、医療のひっ迫につながり、自宅などでの療養中に亡くなる人が出るおそれもあります。

政府としては、このままでは、救える命が救えなくなる状況になりかねないと訴え、感染対策への理解を得たい考えです。

同時に「宣言慣れ」や「自粛疲れ」が広がっていることから、ワクチン接種が進めば、徐々にさまざまな制約の緩和が可能になるとして、今後の見通しを示すことで、今度こそ、「最後の我慢」にできるよう、協力を呼びかけていく方針です。

3.対策の効果を上げるために、政府には何が求められるか

宣言が出されるたびに、国民の理解と協力を得ることが課題だと言われてきましたが、とりわけ今回は、国民目線で、なぜ対策が必要なのかを説明することが重要だと思います。

自粛要請に応じた飲食店に対しては、これまで以上に自治体と連携し、協力金の支給を急ぐとともに、「要請に応じない飲食店があり、不公平だ」といった声に応えるためにも、見回りや呼びかけを、きめ細かく、丁寧に進める必要があります。

政府としては、鍵となるワクチン接種をさらに進めるとともに先に承認された治療薬を活用するなどして、感染の抑制と医療への負荷の軽減を図りたい考えです。

ただ、若い世代を中心に接種に慎重な意見が多いのも実情です。

政府としては、自治体や専門家とも足並みをそろえ、あらゆる場面を通じて、丁寧に説明し、国民の納得と共感を得ることができるのかが、対策の成否を左右すると思います。

【記者解説】1.感染の急拡大 これまでとは何が違うのか

【科学文化部 水野雄太記者】

感染の急拡大について、最も異なるのは、緊急事態宣言が出ているのに、感染拡大に歯止めがかからず、拡大のペースがむしろ上がっていることです。

感染力が従来のウイルスのおよそ2倍とされる、変異ウイルス「デルタ株」は、たとえば東京など首都圏では、すでに70%以上を占めると推定されています。

デルタ株が主流になってきているのに、夜間の繁華街の人出の減少は、東京では20%程度にとどまっていて、その結果、拡大のペースが上がっています。

4連休があり、夏休みで、さらにオリンピックも開催され、人出自体もこれまでのような減少が見込めない状況です。

こうした中で、感染の場として目立ってきているのが、職場。
そして、家族以外のふだん会わない人と大人数で会う中で感染したケースです。

政府分科会の尾身会長も「飲食を介している場合でもそうでない場合でも、ふだん会わない人との大人数での接触で感染が拡大していることは間違いない。そういう接触の機会をなるべく避けてほしい」と話しています。

2.医療現場の状況、これもこれまでとは違うのか

これまでと異なるのは、病床が中等症・軽症用から先に埋まっていることです。

一般の医療が制限されるケースも出てきていて、これは、たとえばけがをしたり、急病になったとしても、すぐには医療が受けられなくなるような状況が近づいているということなんです。

また、誤解があるのは、中等症といっても、肺炎は起きていて普通に息はできず、酸素吸入が必要なこともあるレベルです。患者にとってはとても苦しく、重症化して、意識を失うこともあります。
ワクチンの効果で、高齢者の重症者が少ないのは事実ですが、絶対に間違えてはいけないのが「感染者数が大きく増え続ければ、確保している病床を超える重症者が必ず出てしまう」ということです。

実際に、全体の重症者数も増えています。
全国の重症者は29日まで539人でしたが、30日は626人。一気に増えました。

専門家は次のように話しています。
「今まで少ない患者に集中した医療ができていたのが、いままでのように十分な医療ができにくくなってくる状況が出てくる。それが死亡率、死者数の増加につながってくる。そういうリスクも考えて置かなければいけないと思う」

3.新型コロナに感染した場合の治療法の状況は

この1年半、治療法や対処法が医療現場でも浸透して、かなり症状をコントロールできるようになってきました。

その中で、このほど承認されたのが、軽症の人を対象にした初めての治療法、「抗体カクテル療法」の薬です。

海外で行われた臨床試験では、重症化し、入院や死亡のリスクをおよそ70%減らすことが示されました。

点滴で1回投与することになっていて、医療機関で受ける治療です。

症状が出てから速やかに投与することが必要ですが、自宅療養者や入院できずに待機している患者が急増し始めている今の状況で、すぐに受けられるか、必ずしも保障されないような状態になっています。

医療のひっ迫をできるかぎり早く解消する必要があります。

4.感染や重症化などを防ぐためのワクチン

人口全体でみると2回の接種を受けたのはまだ20%程度で、社会全体として、重症化や感染そのものを防ぐレベルには至っていません。

その中でワクチンの供給がニーズに追いついていない状況は、各地で続いています。

たとえば今週月曜日には、自衛隊が設けている東京と大阪の大規模接種会場の予約6万人分が30分で埋まりました。

接種が進んでいない世代で重症者が増えていることなどを受けて、アストラゼネカのワクチンも公的接種の対象になりました。

このワクチンはイギリスなどで、接種した人に、ごくまれに若い年代で血栓が起きるという問題が報告されていますが、デルタ株にも一定の有効性が示されていて、ワクチン接種で発症や重症化を防ぐメリットが、副反応のリスクを上回るため、接種する利益はあると考えられています。

5.対策に実効性をもたせるために、何が必要か、専門家は

とにかく、危機感の共有です。

30日午後、菅総理と会談したあと尾身会長は、「いままでと違うレベルの危機に直面していることを総理に伝えた」と非常に厳しい表情で語りました。

医療現場や専門家からは「救える命が救えなくなる状況がすぐそこにある」と強い危機感が示されています。

長期に及ぶコロナ対策への疲れもある中で、こうした危機感を持って、政府や自治体が対策への協力を呼びかけることが必要だと強調しています。