尾身会長ら提言 五輪無観客望ましい 入れるなら厳しい基準で

東京オリンピック・パラリンピックに伴う感染拡大のリスク評価について、政府の分科会の尾身茂会長など専門家の有志が提言をまとめ、大会組織委員会の橋本会長と西村経済再生担当大臣に提出しました。提言では「無観客開催が最も感染拡大リスクが少なく望ましい」としたうえで、観客を入れるのであれば、現行の大規模イベントの開催基準より厳しい基準を採用することなどを政府や大会の主催者に求めています。

提言の中で専門家の有志は、国内ですでに存在している感染拡大や医療ひっ迫のリスクに加え、大会が開催されれば国内の医療にさらなる負荷がかかる可能性があり、リスク評価やその最小化に向けた考えを述べることは責務だとして、提言をまとめたとしています。
大会の開催にかかわらず存在する具体的なリスクとして、
▽現在、緊急事態宣言中でも首都圏の人出は増加の一途をたどり、来月にかけて感染が再拡大する蓋然性が高いことや、
▽夏休みの旅行や帰省での長距離の移動で感染が落ち着いていた地域でも拡大する可能性が高まること、
▽感染力が強いと指摘されているインドで確認された変異ウイルス「デルタ株」で感染拡大のスピードがこれまでより上がるおそれがあること、
それに、
▽ワクチン接種が進んでも、急激な感染拡大で重症者が増え、医療がひっ迫する可能性があることを挙げています。

そのうえで大会開催に伴うリスクとして
▽大会は規模や社会的な注目度が他のスポーツイベントとは別格で、
▽試合を見るために都道府県を越えた移動が集中して発生して、人の流れや接触・飲食の機会が格段に増加するほか、
▽多くの人にとって、一生に一度の記念にもなる非日常的なイベントで、いつも一緒にいない人や久しぶりに会う人との間で飲食の機会が増えると、感染拡大のリスクが高い場面が発生したり、試合を見て高揚感を高めた人たちが路上でのハイタッチなど、感染対策への警戒心が薄れた行動を取ったりするリスクもあるとしています。

また、
▽観客がいる中で深夜に及ぶ試合が行われたり、感染対策が不十分な状態の観客や応援イベントなどで盛り上がる人たちなどの映像が流れると、感染対策を行っている人たちにとっては、矛盾したメッセージとなり、警戒心を薄れさせ、対策への協力を得られにくくするリスクがあると指摘しています。

こうしたことから専門家の有志は「当然のことながら、無観客開催が最も感染拡大のリスクが少ないので望ましい」としたうえで、観客を入れるのであれば、現行の大規模イベントの開催基準より、さらに厳しい基準に基づいて行うべきで、都道府県を越える人の流れを抑制するため観客は開催地の人にかぎり、感染拡大の予兆があれば時機を逸しないで無観客とすることを求めています。

また、パブリックビューイングなど不特定多数の人が集まる応援イベントを中止し、応援を目的とした飲食店などでの観戦の自粛要請を検討するよう求めています。

さらに政府に対し、感染拡大の予兆があれば大会の開催中であっても、ちゅうちょせずに緊急事態宣言を出すなど、必要な対策をタイミングを逃さず実行してほしいと訴えています。

提言では最後に人々が感染対策のために行ってきた労苦をむだにしないよう、今後も感染対策に協力してもらえるような運営方法にしてほしいとしていて、この提言をIOC=国際オリンピック委員会に伝えるよう求めました。

尾身会長「リスクと工夫を書き込んだ」

政府の分科会の尾身茂会長は、東京オリンピック・パラリンピックに伴う新型コロナウイルスの感染拡大のリスク評価についての提言を西村経済再生担当大臣に提出したあと、報道陣の取材に応じました。

尾身会長は「オリンピックをやるのであれば感染が拡大し、医療がひっ迫しない方法でやってほしい。そのために専門家として、どんなリスクがあるのか、それに対してどんな工夫が考えられるのかを提言に書き込んだ。提言の内容は記者会見でじっくりと説明したい」と話しました。

橋本会長「提言踏まえ観客の上限など判断」

東京オリンピック・パラリンピック組織委員会の橋本会長は、政府の分科会の尾身会長から、東京大会に伴う感染拡大のリスク評価についての見解の提出を受けたことを明らかにし「提言を踏まえどのように安全安心を実現していくのか議論したい」と述べました。

そのうえで「政府の方針のもとで運営を行っていくことが基本だ」と述べ、来週にも開催する予定の政府やIOCなど5者による会談で観客数の上限などを判断したいという考えを示しました。

政府の分科会の尾身会長は、18日午前9時半前、大会組織委員会が入る東京 中央区の建物に歩いて1人で入り、記者からの問いかけには応じませんでした。

このあと、橋本会長に東京大会に伴う感染拡大のリスク評価についての見解を提出しました。

橋本会長は午前10時から開催された、組織委員会の新型コロナ対策を検討する専門家会議に出席し「先ほど尾身会長からご意見をいただいた。尾身会長の提言も踏まえ、どのように安全安心を実現していくのかこの専門家会議で議論してもらいたい」と述べました。

そのうえで「政府の方針のもとで運営を行っていくことが基本であり、政府やIOCなどとの5者協議で決定したい」と述べ、来週にも開催する予定の5者による会談で東京大会の観客数の上限などを判断したいという考えを示しました。

丸川五輪相「組織委の専門家会議の議論に注目」

丸川オリンピック・パラリンピック担当大臣は、閣議のあとの記者会見で「私はまだ見ていないが、きょうの組織委員会の専門家会議の場でさまざまな議論をして頂けると伺っている。どのように組織委員会がその内容を受け止めるかを、きちんと注目していきたい。私たちができることはしっかり支えていくという姿勢だ」と述べました。

さらに、東京オリンピック・パラリンピックの観客の扱いについて、丸川担当大臣は、まん延防止等重点措置が解除された際の経過措置の上限である1万人を上回ることはないという認識を示しました。

新型コロナウイルス対策で、政府は、大規模なスポーツイベントなどを行う場合緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が解除されたあとは、上限を1万人とする経過措置を講じることを決めています。

菅総理大臣は17日、東京オリンピック・パラリンピックの観客について「人数の上限は、こうしたルールに基づくことを基本として決定されると思う」と述べました。

これに関連して、丸川担当大臣は記者会見で「5者協議で、観客数にかかる判断を今月行うことを決めており、これから議論が大詰めになる」と述べました。

そのうえで「私の認識としては、政府で決めた上限規制を上回るということはないという理解だ」と述べ、まん延防止等重点措置が解除された際の経過措置の上限である1万人を上回ることはないという認識を示しました。

東京都 小池知事「専門家の意見として拝聴必要」

東京都の小池知事は、記者会見で「専門家の意見として拝聴していくことが必要かと思う。こうした意見も踏まえて国、組織委員会とともに対策の具体化をさらに進め、安全安心な大会に向けた準備を着実に進めていきたい」と述べました。

ただ観客の上限については、「政府のイベント開催の上限に沿って、決めていくことになっている」と述べました。

その一方で、「急激なコロナの拡大など変化があった場合には、柔軟性をどう確保するかも考える必要がある」とも述べました。

加藤官房長官「感染症対策にしっかり取り組む」

加藤官房長官は、臨時閣議のあとの記者会見で「安心して東京大会を迎えてもらえるよう、感染防止対策を徹底していくことが重要だ。引き続き、安全・安心を最優先に、感染状況を注視しつつ、専門家の知見も踏まえ、東京都などとも緊密に連携しながら、大会に向けた準備を着実に進めていくとともに、感染症対策にしっかりと取り組んでいきたい」と述べました。

西村経済再生相「しっかりと受け止めて対応」

西村経済再生担当大臣は、記者会見で「丸川オリンピック・パラリンピック担当大臣や菅総理大臣を含め、政府内で共有した。安全、安心な大会にするためにさまざまな観点からの指摘を頂いているので、しっかりと受け止めて対応していければと考えている。組織委員会でも、丸川大臣のところでも、さまざま検討がなされると考えている」と述べました。

田村厚労相「必要があれば対応する」

田村厚生労働大臣は、記者会見で「まだ具体的にいただいていないのでコメントをしようもないが、もしいただくようなことがあれば、参考にさせていただき、必要があれば対応する」と述べました。

立民 安住国対委員長「無観客がベストではないか」

立憲民主党の安住国会対策委員長は、「あれだけ『専門家の意見を尊重する』と言っている菅総理大臣が、オリンピックだけは『見ざる、言わざる、聞かざる』となっているのは、おかしな話だ。提言は、専門家としての政府への抗議とも受け取れる文書で、きちんと尊重すべきだ。寂しい大会になるかもしれないが、感染者を増やさないためには無観客でやるのがベストではないか」と述べました。

共産 田村政策委員長「専門家の危機感感じる」

共産党の田村政策委員長は、記者会見で「専門家たちが、これ以上黙っているわけにはいかないという決意で提言を出したと思う。提言からは、変異株の広がりや医療崩壊などが現実に起こるのではないかという危機感を感じる。大会が開催されれば、みんなで応援しようというキャンペーンになり、感染爆発を引き起こす可能性が高く、政府には改めて中止を強く求める」と述べました。

経団連 十倉会長「政府の判断を見守る」

東京オリンピック・パラリンピックに伴う感染拡大のリスク評価で政府の分科会の尾身茂会長など専門家の有志が「無観客開催が望ましい」などとする提言をまとめたことについて、経団連の十倉会長は記者団に対し、政府などの判断を見守る考えを改めて示しました。

この中で経団連の十倉会長は、「東京オリンピック・パラリンピックは安心安全に万全を期した大会にすべきだと思っている。政府も、尾身さんの提言も、感染の様子を見て、臨機応変に対応するというスタンスで変わらないと思う。政府や組織委員会などの議論を待ちたい」と述べ、政府などの判断を見守る考えを改めて示しました。

コロナ患者診療の医師「妥当な提言」

政府の分科会の尾身茂会長など専門家の有志が「無観客開催が望ましい」と提言したことについて、コロナ患者の診療にあたる現場の医師は、妥当な提言だとしたうえで、「患者を診る立場からすると、いくら対策を取っても大規模イベントが行われると感染が広がるおそれがあり非常に心配です。安心安全に開催できるという根拠のあるデータを示してほしい」と訴えています。

新型コロナ患者の治療にあたっている、埼玉医科大学総合医療センター感染症科の岡秀昭教授は「安心安全に大会が開催できるとだけ言うのではなく、根拠を見せてほしいし、その根拠を元にして、開催の在り方や観客数の設定を決めていただかないと、第4波で重症患者を診て疲弊している医療現場としては非常に不安です。専門家による分科会はシミュレーションのデータを基にした根拠を示しているので、サイエンスにはサイエンスで応じてほしいし、開催に対して、根拠のあるデータを示してほしい」と訴えています。

また、インドで確認された変異ウイルスが拡大しないか危機感を感じているとして、「“インド株”は、私の病院ではまだ見つかっておらず、これは、水際対策が有効だということ。海外からの流入、または入ってしまったものが広がらないようにする対策が有効な時期だと思います。水際対策をしっかりしないといけないのに、海外からの関係者を招き入れるわけで、相当慎重な対応が必要ではないか」と指摘しています。

街の人は…

30歳の会社員の男性は、「尾身会長の発言は国民からすると理解しやすい。コストがかかっているので、国としては観客を入れたいのだろうが個人的には反対です。飲食業や中小企業も抑制されている中で、五輪だけが前向きというのは理解が得られない。選手だけの最低限の開催なら同意できるが、観客を入れるのは別の話だ」と話していました。

70代の女性は「ワクチンは1回目を打ったが、まだまだ心配で、友人に会わないなど気をつけて生活しています。専門家も言うように無観客にしないと感染が増えて大変なことになると思います」と話していました。

一方、67歳の研究職の男性は「専門家が無観客が望ましいと言うのは理解できるが、思ったよりワクチンの接種率も向上していて人の気持ちも変わってくると考えると、観客がいたほうが盛り上がるし、オリンピックらしさが出ると思う」と話していました。

40代の会社員の男性は「満席にするのは危ないと思うが、単純に無観客にしなくてもいいのではないか。観戦後は真っ直ぐ帰るなどの行動制限をして、少しは観客を入れてもいいと思う」と話しました。

このほか、20歳の大学生の女性からは、「対面での授業がほとんど無くなっている状態で、国民が我慢している中で開催と言われても響かない。観客を入れるかどうかの前に、そもそもこの状況でオリンピック・パラリンピックをなぜやらないといけないのか、理由をちゃんと国民に説明してほしいです」と開催そのものに疑問があるという声も聞かれました。