児童の舞台芸術鑑賞会 コロナ禍で前年度の3分の1に激減

学校で、子どもたちがひとしく演劇などに触れる機会になっている舞台芸術鑑賞会について、児童演劇の団体がコロナ禍の影響を調べたところ、全国の小学校での昨年度の実施率は21%と、前の年度の3分の1に激減していることが分かりました。

この調査は、児演協=「日本児童・青少年演劇 劇団協同組合」が全国の小学校と特別支援学校、合わせて2万校余りを対象に初めて行いました。

それによりますと、このうち小学校では、2019年度には全体の64%に当たる1万2346校が鑑賞会を行っていましたが、昨年度は4122校と3分の1に激減し21%にとどまりました。

実施しなかった学校に理由を尋ねたところ、2019年度は「授業時間数が確保できない」が「その他」に次いで多くなりましたが、昨年度は69%に当たる1万72校が「コロナの影響で中止した」と答えています。

また、今年度、鑑賞会を行う予定と答えたのは6671校と全体の35%にとどまり、コロナ禍で実施のめどが立っていない状況が浮き彫りとなりました。

一方、児演協に加盟している劇団を対象に行った別の調査では、回答のあった15劇団の事業収入は、コロナ禍で平均でおよそ6割減っているということで、この状況が続けば各劇団の存続が危ぶまれるとしています。
児演協の大※マ弘幸理事は「すでにいくつかの劇団は活動停止していて、やめるという劇団もあります。子どもが文化に触れる機会が奪われている状況でもあり、学校や教育委員会には児童演劇の大切さを継続して訴えていきたい」と話しています。

※「マ」はさんずいに「間」

各地の劇団 危機感強める

コロナ禍で学校での鑑賞会が激減したことについて、各地の劇団は危機感を強めています。

名古屋市を拠点に半世紀以上活動を続け、各地で公演を行っている「人形劇団むすび座」は、昨年度、例年の半数ほどに当たるおよそ500公演が中止となり、7500万円を超える損失が出ました。

また、今年度も公演の中止が相次ぎ、すでに1000万円近い損失が出ているということです。

こうした状況について、むすび座の大野正雄代表は「子どもたちに元気になってもらいたい、明るい心になってもらいたいということを私たちは大事にしていて、今、そういうことを封じられていることで、団員たちもつらい思いをしています」と話しています。

むすび座は、劇団をなんとか存続させようと、去年7月にクラウドファンディングを始め、2か月ほどで1000万円を超える支援が集まりました。

大野代表は「応援してくださる人たちの思いに触れられて団員にとっても励みになりました」とする一方で「いつまでも皆さんのお気持ちにすがっているわけにはいかないですし、行政の支援もコロナが収束するとなくなっていくと思います」と話しています。

そのうえで「コロナの状況が収まるのを待っているだけではいけないと思っているし、有効な手段を考えて行動しないといけない」と危機感を強めています。

専門家「持続的な公的支援が必要」

児童演劇の研究が専門の東京都市大学の小林由利子教授は、児童演劇は戦後、子どもたちに文化に触れてもらいたいと盛んに行われた歴史があるとしたうえで「学校に劇団が来てくれると、学校にいる子どもたち全員が見ることができる。文化に触れる機会、演劇を見る習慣がない家庭、経済的に余裕がない家庭など関係なく、みんなが見られるので、学校公演はものすごく大事だ」とその重要性を強調しています。

そのうえで、今回の調査結果を踏まえ「子どものころにグループで美的体験をすることはすごく大事で、友達が隣で笑ったり泣いたりするのに共感、同調するという体験ができないことは非常に不幸な状況だ」と指摘しています。

また、このまま鑑賞会が減っていけば劇団の存続も危ぶまれるとして「多くの劇団の人たちの、子どもたちに向けて上演するのがすごく楽しい、好きだという思いに支えられている部分があるので、もっとサポートしなければいけないと思います。国も地方自治体ももう少し考えて、もっと助成金を出してほしいと思います」と持続的な公的支援の必要性を訴えていました。