新型コロナで世界経済に「危険な格差」 IMFが警鐘

新型コロナウイルスで打撃を受けた世界経済について、IMF=国際通貨基金は、全体として回復傾向にあるもののワクチンの普及状況などによって国ごとにばらつきがあるとして、「危険な格差」が生じていると警鐘を鳴らしています。

IMFはことしの世界経済について、経済活動の再開が進むことから、マイナス成長に落ち込んだ去年から一転して6%のプラス成長になると見込んでいます。

ただ、ワクチンの普及状況や、経済を立て直すための財政支出の規模などによって国ごとにばらつきがあるとしていて、2024年にかけての1人当たりの所得をみると、感染拡大前の予測と比べて、先進国では年に2.3%が失われる一方、途上国で失われる所得は年に5.7%にのぼると試算しています。

IMFは、こうした状況を「危険な格差」だと表現していて各国が協力してことし中に少なくとも世界の人口の40%、来年前半に60%、ワクチンを接種することなどを提言しています。

NHKのインタビューに応じたIMFのギータ・ゴピナート調査局長は「回復格差は非常に深刻な問題だ。一部の国の回復の遅れが社会的な緊張の高まりを招けば世界全体の問題になり得る。いま経済活動の正常化が進んでいる国でも変異ウイルスの拡大などのおそれはあり、各国は一致して取り組まねばならない」と指摘しました。

アメリカ 景気回復が加速 物価は記録的上昇

今、景気の回復が加速しているのがアメリカです。

IMFの予測ではことしの経済成長率はプラス6.4%と、去年のマイナス成長からのV字回復が見込まれています。

各地の観光地には人出が戻っていて、西部劇のような町並みが残り、「カウボーイの聖地」とも呼ばれる南部テキサス州のストックヤード地区には、大勢の観光客が押し寄せてパレードの見物などを楽しんでいました。

この地区にある南部料理のレストランは、新型コロナウイルスの影響で半年間休業していましたが、今では月の売り上げが感染拡大前の70%程度まで戻っているということで、オーナーのグレイディ・スピアーズさんは「夏前には完全に元どおりになると見込んでいる」と話し、回復の手応えを感じていました。

アメリカでは、海外への旅行者は大きく減少したままですが、「アメリカ旅行協会」の5月の調査では、90%近くの人が半年以内に旅行の計画を立てていると回答していて、コロナ禍で控えられてきた個人消費の反動、いわゆる“リベンジ消費”は国内に集中しています。

家族連れの男性は「海外旅行はまだ安全ではないと思う。できれば車で行ける距離で、いろいろ出かけようと思う」と話していました。

アメリカの景気回復を後押ししているのは、ワクチンの普及で、少なくとも1回接種した人の割合は今月13日時点で51.9%となっています。

物価が記録的な上昇

急速な景気回復に伴って際立っているのが物価の記録的な上昇です。

アメリカの消費者物価は前の年の同じ時期と比べた上昇幅が、4月が4.2%、5月が5.0%と、およそ12年ぶりの高い水準を記録しています。
首都ワシントンの郊外にあるスーパーマーケットでは、コーヒーやチョコレートといった食品、それに赤ちゃん用のおむつなどを値上げしていて、商品全体の平均では、1年前より6%を超える値上げになっているということです。

客の女性は「店に来るたびに何かが高くなっている気がします」と話していました。

店のオーナーのノーラン・ロッドマンさんは「すべてのものの仕入れ価格が値上がりしている。15年間、小売業で働いているが、これほど急激にあらゆる分野で値上げするのは初めてです」と話していました。

アメリカの中央銀行、FRB=連邦準備制度理事会のパウエル議長は、今の物価の上昇は景気の急速な回復に伴う一時的な現象だという認識を示していて、今後の景気動向を見るうえで物価の推移が大きな焦点になっています。

東南アジアなど 経済の回復進まない国も

一方、東南アジアなどの新興国の中には、感染の再拡大やワクチン接種の遅れを背景に経済の回復が進まず、雇用や生活への影響が広がる国もあります。

去年の経済成長率がマイナス6.1%と大幅に落ち込んだタイ。

ことしも3月以降、感染が再拡大し、1日当たり2000人以上の感染者の確認が続いているうえ、ワクチンを少なくとも1回接種した人の割合は今月13日時点で6.4%にとどまっています。

外国人観光客の本格的な受け入れも再開できず、主要な産業である観光業を中心に深刻な打撃を受けています。

景気の回復が遅れる中、タイ政府は、コメや卵、野菜などの生活必需品を車に乗せ、割安な価格で住民に販売する移動販売の事業を行っています。

政府の支援によって一般的な価格よりも最大で60%ほど安くなっているということで、700台余りの車が首都バンコクと周辺の自治体を移動しながら販売にあたっています。

バンコクに隣接するノンタブリ県での販売では、10人以上が並んで卵や油などを次々と買い求めていました。

政府は、今月上旬までの1か月間で人々の生活費の支出を8億円以上抑えたと見込んでいます。

4月から仕事がないという女性は「普通に買えば高い値段の商品をとても安く買えました。この卵で1週間は生活できます」と話し、売り上げが半分に減ったという家具店の女性は「タイの経済が悪すぎてアメリカや中国とは差が開くばかりです。来年までこの悪い状況が続くような気がします」と話していました。

タイの中央銀行はことしの経済成長率の予測をプラス3%と見込んでいましたが先月、ワクチンの確保が進まない場合にはプラス1%にとどまると下方修正していて、ワクチンの確保が大きな課題になっています。

IMF調査局長「回復レベルに『危険な格差』」

IMFのギータ・ゴピナート調査局長はNHKのインタビューの中で、世界経済はアメリカと中国が力強くけん引する形で回復傾向にあるとしながらも「非常に早く回復している国がある一方で、回復が遅い国が多くある。回復のレベルに『危険な格差』が生じている」と述べました。

ゴピナート局長は格差の背景としてワクチンの普及状況の違いや国ごとの財政支援の規模の差を挙げたほか「観光産業への依存度が高い国ほど回復が遅れている。旅行による感染リスクが残る以上は、回復に時間がかかる」とし、観光産業への依存度が高い東南アジアの国などの回復の遅れに懸念を示しました。

景気回復が加速するアメリカでは、中央銀行にあたるFRB=連邦準備制度理事会が経済を下支えするために続けてきた量的緩和を縮小する時期が焦点になっていて、日本時間の17日未明にかけて開かれている今回の金融政策を決める会合でどのようなメッセージが発せられるか、市場の関心が集まっています。

FRBが大規模な金融緩和策の転換に踏み切った場合の影響についてゴピナート局長は「今後の経済の先行きは、FRBがいかに慎重に金融政策を見直すかに、かかっている。今は非常に困難で不確実な時代になっていて、金利が急激に上昇した場合は、新興国や途上国がリスクに直面する可能性がある」と述べ、FRBが金融政策の転換を急いだ場合、世界経済の懸念材料になりうるとの認識を示しました。