職域接種 中小企業にとまどいも 約20大学で先行実施の方針

職場や大学などでのワクチン接種の申請受け付けが8日から始まり、できるだけ早く接種を実施したい企業などが早速、手続きを進めていました。

職域接種 実施の要件は

職域接種は、ワクチン接種にかかる地域の負担を軽減しながら、接種を加速させる目的で企業や大学などの単位で行われるもので、会場や接種に当たる医師や看護師などの医療従事者は、自治体が行う接種に影響を与えないよう、それぞれの企業や大学が確保することになっています。

自治体で行われる接種ではアメリカの製薬大手、ファイザー製のワクチンが使われていますが、職域接種ではアメリカの製薬会社、モデルナのワクチンが使われることになっていて、1つの会場で1000人程度に対して、2回の接種を完了することなどが実施の要件になっています。

接種を実施するまでに企業や大学などは、▽会場のコードの付与を受けたうえで契約し、▽接種で責任を持つ医師やワクチンの管理者などの情報、それに、必要なワクチンの量を厚生労働省が開発したワクチン接種を円滑に進めるためのシステム、「VーSYS」に入力するとともに、▽マイナス20度で保管できる冷凍庫を用意する必要があり、こうした準備について国が代行したり、補助したりするとしています。

厚生労働省によりますと、自治体で行っている高齢者を対象にした接種が順調に進んでいる場合は、その市町村では職域接種の開始日とされる今月21日を待たずに接種を開始できるということです。接種の費用は、職域接種を実施した医療機関が市町村などに請求することになっています。

また、接種を受けた人のデータは、誰が、いつ、どこでワクチンを接種したのか、個人の接種状況を管理するVRS=「ワクチン接種記録システム」に記録されます。接種会場にはワクチンなどの資材に加えて、VRSに情報を記録できる専用のタブレット端末が配付されることになっていて、医師など担当者がこの端末を通じて接種した日や回数などの情報を入力すると、接種を受けた人が住む自治体と共有されます。

新型コロナウイルス対策について助言する厚生労働省の専門家会合は、感染拡大を抑制するためにもできるかぎり速やかに職域接種を含めて多くの人への接種を全国で円滑に進めることが必要だとしています。

関西電力 5人の産業医などが担当

大阪 北区にある関西電力の本店では8日、労務の担当者が午後2時ごろに設けられた政府の申請サイトにアクセスして登録の作業に必要な情報を確認していました。

サイトに入力するのは、接種の会場に関する情報や、必要な人員や設備、支援が得られる医療機関などの検討状況です。

職域接種の会場として予定しているのは、大阪の本店と福井県内にある3か所の原子力発電所です。対象は、関西電力と送配電事業を担う子会社の社員合わせておよそ1万8000人と、その家族に加え、グループ会社や協力会社の従業員も加えるとしています。

本店や原発に勤務する合わせて5人の産業医などに接種を担ってもらい、21日以降、ワクチンの準備などが整い次第、1か月に延べ5000人分を実施する方針です。
関西電力の尾仲直也労務部長は「国や自治体の接種では進まない人に実施することで、社会全体の接種スピードが上がることが最も大事だ」と話しています。

ビックカメラ 店舗営業継続のためできるだけ早く接種を

また、家電量販店大手の「ビックカメラ」は、グループ企業を含めた従業員とその家族などおよそ1万7000人を対象に、ワクチンの接種を計画しています。
感染が広がる中でも店舗の営業を続けているため、できるだけ早く従業員の接種を進めたいと考えています。

午後2時に申請の受け付けが始まると、人事部の担当者が早速、専用サイトにアクセスして接種を行う会場とする施設の名称などを入力していました。会社では、まず、首都圏の従業員や家族などを対象に21日から1日当たり1200人に接種を行う計画です。

ただ、ワクチンを接種する人が特定の日や時間帯に集中すると、営業に必要な人員が確保できなくなるおそれもあるため、人事の担当部署が店舗ごとに接種を希望する人数や日時を調整しているということです。
岩見信一郎人事部長は「職場での接種の申請ができて安心する一方で身が引き締まる思いだ。きちんと接種を行えるよう準備を進め、自治体の負担も減らしたい」と話していました。

中小企業 医療従事者の確保や会場の費用負担が課題に

一方、中小企業は団体が窓口となって申請を検討していますが、医療従事者の確保などが進まず、調整が難航しています。

中小企業の各団体によりますと、中小企業は産業医が常駐していないところが多いほか、1000人以上の希望者をとりまとめることが難しく、大企業や大学に比べ、申請する動きは広がっていないということです。
こうした中、東京都内のおよそ2500社が加盟する「東京中小企業家同友会」には、共同でワクチン接種を進めてほしいという声が多く寄せられていて8日、担当者が会議を開きました。

最大の課題は医療従事者の確保だということで、この団体では、7日に医師会に協力を打診したものの、調整は進んでいないということです。またワクチンをむだにしないよう希望する人をどう正確に把握するかや、接種会場の費用をどう負担するかなど、調整が必要になっているということです。
東京中小企業家同友会の林隆史事務局長は「中小企業と大手でワクチン格差が出てくると思う。中小企業ほど現場に出る仕事が多く、接種を広げていかなければならないので、条件が整うのを待つのではなく、自分たちから前に進んで条件を整え、早くワクチンを届けたい」と話しています。

戸惑いも 「確実な情報がほしい」

ワクチンの職域接種に必要な態勢をどう確保すればよいのか、戸惑いを感じている中小企業もあります。
大阪 中央区に本社を置き、留学生の支援事業などを行っている「森興産」は、グループ会社がステンレスなどの加工・販売を行っています。

このグループ会社では、ことし4月、社員の家族が新型コロナウイルスに感染し、社員も濃厚接触者として一時、職場の離脱を余儀なくされました。こうしたこともあって、会社ではなるべく早くワクチンの接種を進めて安心して働ける環境をつくりたいと考えています。

しかし、このグループ会社には、常駐する産業医がいないうえ、地域のクリニックの医師に接種を依頼する作業も手つかずのままです。国は1000人以上の規模の企業などから接種を進める方針を示していますが、グループ全体でも社員はおよそ250人です。

大阪商工会議所に職域接種の支援が受けられるのか、問い合わせましたが、詳細が把握できていないと回答されたということです。
森興産の森隼人代表は「今の制度は大企業を中心としたもので、中小企業にとっては産業医が常駐しておらず医師に来てもらうことも難しい。できるかぎり早く行いたいとは思うので地域の商工会議所などに取りまとめてもらって確実な情報がほしいです」と話していました。

接種会場と医療従事者の確保を合わせて行うサービスも

接種会場と医療従事者の確保を合わせて行うサービスを検討する企業も出ています。

東京 新宿区に本社があり、全国で会議室のレンタルなどを手がける「ティーケーピー」は、21日からワクチン接種の会場として会議室を無償で企業に貸し出すことを決めました。
新型コロナウイルスの影響で会議室の利用が減少する中、感染を抑えれば需要が戻ると期待して企画し、先月末にこのサービスを公表してから1週間で350件以上の問い合わせがあったということです。

問い合わせの中では、中小企業から医師や看護師の確保などについて不安の声が多く寄せられたため、この会社では、新たに、医療従事者の確保も請け負ってワクチン接種会場を提供するサービスも検討しています。複数の中小企業が共同で利用することを想定していて、企業に負担を求めるか調整を進めています。
ティーケーピーの河野貴輝社長は「企業のワクチン接種へのニーズは高いと感じている。ワクチン接種が済めば、日本の経済も急回復すると思っているが、まだまだスピードが足りていない。数が多く、経済を支える中小企業のワクチン接種を1日でも早く行うことが重要だと考えている」と話しています。

文部科学省 20程度の大学で先行実施目指す

一方、文部科学省では今月4日に40人ほどからなる対応チームを立ち上げ、全国およそ800の大学に職域接種の意向を確認していて、まずは20程度の大学での先行実施を目指し、支援していきたいとしています。

申請が始まった8日も、対応チームのもとには大学から問い合わせが相次ぎ、「具体的な申請方法や必要な設備、対象者の範囲を知りたい」とか医療系の学部がない大学からは「場所はあるが接種をする医療従事者をどう確保をすればよいか」といった相談が寄せられていました。

文部科学省によりますと、医学部や看護学部、歯学部など医療系の学部がある大学は全体の4割程度ということで、こうした大学と周辺の大学で連携してもらうことなども検討しています。
文部科学省「大学等ワクチン接種加速化検討チーム」の淵上孝企画調整班長は、「医療系人材の確保は大きな課題の一つだが、周辺の大学や医療機関などとの連携も視野に対応している。学生や教職員だけでなく大学を近隣の学校や幼稚園の教職員への接種拠点にしていくことで、地域全体の学びを支えていきたい」と話していました。
大学での職域接種は、これまでに、▽広島大学、▽大阪大学、▽近畿大学、▽大阪府立大学、▽大阪市立大学、▽慶応大学、▽千葉大学、▽東北大学の少なくとも8大学が実施する方針を示しています。

文部科学省は大学をワクチン接種の拠点とし、若い人たちの接種率を高めるとともに、大学が夏休みに入る期間は、周辺の幼稚園や小中学校、それに高校や特別支援学校などの教職員にも接種を進め、2学期に備えたい考えです。

このほか、ワクチン接種が義務化されている海外の大学に留学を予定している人についても、大学で接種を受けられるようにし、大臣名で英語の接種証明書を発行する予定です。