「エア・ドゥ」と「ソラシドエア」共同で持ち株会社設立合意

新型コロナウイルスの影響で、航空会社の経営が厳しさを増す中、北海道を拠点とする「エア・ドゥ」と、九州を拠点とする「ソラシドエア」は、来年10月をめどに共同で持ち株会社を設立することで基本合意したと発表しました。感染拡大以降、初の航空業界の再編で、両社は経営を統合して業務の共通化を進め、経営の立て直しを急ぐことにしています。

発表によりますと、いずれも地域の航空会社で、札幌市に本社を置く「エア・ドゥ」と、宮崎市に本社を置く「ソラシドエア」は、来年10月をめどに共同で持ち株会社を設立することで基本合意しました。

両社は、それぞれ持ち株会社の子会社として傘下に入るとともに、経営を統合して業務を共通化し、費用の削減を図る方針です。

具体的には、航空機の部品や燃料を共同で調達したり、羽田空港にあるカウンターや事務所のほか、人事や総務部門などを共通化することを検討するとみられます。

新型コロナウイルスの影響で厳しい経営が続く航空業界で、初の再編となりますが、両社はブランドや路線網など経営の独立性は維持するとしています。

また、両社は、それぞれ資本金を減らす減資を行って、必要な資金を確保する一方、金融機関に議決権が制限される「優先株」を引き受けてもらう形で増資を行うことも発表しました。

このうち、
▽エア・ドゥは、政府系の日本政策投資銀行と北海道の北洋銀行から、合わせて70億円、
▽ソラシドエアは日本政策投資銀行と宮崎銀行、それに宮崎太陽銀行から合わせて25億円の出資を受けるとしています。

31日に発表された両社の昨年度の決算は、最終的な損益が、エア・ドゥが121億円、ソラシドエアが76億円の赤字でした。

航空業界の苦境 大手2社は

今回の動きの背景には、新型コロナウイルスの影響が長期化し、航空会社の経営が一段と厳しくなっていることがあります。

大手2社の昨年度の決算は、最終的な赤字額が、ANAホールディングスは過去最大の4046億円、日本航空は2866億円で、経営破綻後に株式を再上場した2012年以降、初めての赤字となりました。

両社は、大型機を中心に旅客機の数を減らしたり、社員を外部に出向させたりしてコストを削減していますが、いまも大幅な減便や運休を余儀なくされていて、需要の回復の見通しが立たない状況です。

両社は今後、感染が収束しても、ビジネス需要が以前の水準に回復することは難しいとみて、観光での利用が多いLCC=格安航空会社の事業や需要が伸びている貨物事業に力を入れるなど、戦略の転換を急いでいます。

地域の航空会社も厳しい状況は同じで、共同持ち株会社の設立で合意した北海道の「エア・ドゥ」と九州の「ソラシドエア」は、発表資料の中で「かつて経験したことのない極めて厳しい状況」としたうえで、「両社の事業展開にも大きな変革が求められる」と強い危機感を訴えています。

“ドル箱路線” 羽田空港の発着枠維持のねらい

「エア・ドゥ」と「ソラシドエア」は、共同持ち株会社を設立して経営を統合する一方で、それぞれの会社の経営の独立性を確保することを強調しました。

その背景には「ドル箱路線」である羽田空港の発着枠を維持したいというねらいがあります。

羽田空港は、航空機の発着回数が制限される「混雑空港」に指定されていて、航空各社には、多様な路線網や競争環境の確保などを考慮して、発着できる回数が「発着枠」として配分されています。

現在は、新型コロナウイルスの影響で航空需要が低迷していますが、本来、羽田空港と各地を結ぶ路線は、航空各社にとって貴重な収益源です。

しかし、この「発着枠」は、航空会社が合併した場合、一部は国に返還しなければならないことが国土交通省の通達で定められています。

両社は31日の会見で、共同持ち株会社を設立して経営を統合し、業務の共通化を進める一方、それぞれのブランドや路線網、経営の独立性は確保することを強調しました。

両社の羽田空港の発着枠は現在、1日当たりエア・ドゥは23往復、ソラシドエアは25往復が配分されていて、これを維持したいというねらいがあります。

両社の発着枠の扱いについて、国土交通省は、路線網やダイヤ、料金の設定などの観点から経営の独立性を保っているかなどを見極めて判断する方針です。

ソラシドエア高橋社長「地域に根ざした“九州・沖縄の翼”」

宮崎市で記者会見したソラシドエアの高橋宏輔社長は「共同持ち株会社を作ることを総称して経営統合ということもあるが、私どもとしては、そういう言い方はしない」と述べて、経営の独立性を維持することを強調しました。

そのうえで「会社の存在意義である『九州・沖縄の翼』として地域に根ざした独立した経営を行いながら、協業による費用削減などの効果を出していきたい」と述べました。

エア・ドゥ草野社長「地域との関係を重視」

札幌市で記者会見したエア・ドゥの草野晋社長は「コロナ禍の影響の強さやその後の事業環境の変化などを踏まえると、自助努力では限界があると判断し、組織の共通化によるコスト削減や協業による増収効果を得られる体制として共同持ち株会社化が最適であるという結論になった」と述べました。

そのうえで「両社とも地域に根ざした航空会社として事業とブランドを維持し、地域との関係を大切にするということがもっとも重要だという認識があったので、完全に1つの会社になるより、共同持ち株会社で2社が独立して存在し、切さたく磨しながら成長していくのがいちばんよいと判断した」と述べました。

雇用については「共同持ち株会社の設立を要因とした人員整理については、全く考えていない」と述べました。

今回、エア・ドゥとソラシドエアは、優先株を発行する一方で行い、資本金が1億円になることで中小企業と見なされ、税負担が軽減されることになります。
これについて、草野社長は「減資は優先株の償還や配当の原資を最大限確保することが目的ですが、結果として税法上の中小法人としての税効果も受けられると認識しています」と述べました。