妊娠中に新型コロナ感染 都内で200人超 妊婦健診に影響も

妊娠中に新型コロナウイルスの感染が確認された女性は、東京都内で昨年度1年間に231人いたことが産婦人科医でつくる団体のまとめで分かりました。妊婦が感染した確率は一般の人より低かったものの、予定していた妊婦健診を受けられなくなるなど影響も出ています。

産婦人科の医師でつくる日本産婦人科医会は東京都のデータをもとに昨年度1年間の妊婦の感染状況を分析しました。

それによりますと新型コロナウイルスの感染が確認された妊婦は東京都内で231人いたということです。

都内で感染が確認された人全体に占める妊婦の割合は0.19%と、都内の全人口に占める妊婦の割合の3分の1以下となっていて、妊婦が感染した確率は一般の人より低いことがうかがえます。

日本産婦人科医会は多くの妊婦が外出を避けるなど一般の人より予防を心がけたためではないかとみています。

感染経路については全国1400余りの産科などの協力を得て、去年1月から6月までに感染が確認された妊婦のデータを分析したところ、56.9%が家庭内での感染だったということです。

妊婦が感染したり、濃厚接触者となったりした場合、予定していた妊婦健診を受けられなくなるなど影響も出ています。

分析を行った日本医科大学多摩永山病院の中井章人院長は「妊婦健診を延期せざるをえないというのは不安になる方もいると思います。そのような状況を防ぐために、ご家庭で徹底的な感染予防に努めてほしいし、産婦人科医としても妊婦さんに安心して出産に臨んでもらえるような情報提供や仕組み作りに取り組んでいきたい」と話しています。

子宮外妊娠のおそれも待つしか…

妊娠初期に家族が新型コロナウイルスに感染したため濃厚接触者となり、妊婦健診を延期せざるをえなかった女性がNHKの取材に応じました。

女性は子宮外妊娠のおそれがあるとされていましたが、ただ時間が過ぎるのを待つしかなかったと言います。

東京都内に住む38歳の女性は不妊治療で産婦人科のクリニックに通院していた先月21日に妊娠していることが分かりました。

しかし、超音波検査の結果「子宮外妊娠のおそれもあり経過を観察する必要がある」と医師から言われ、1週間後に再度、妊婦健診を受けることになりました。

「子宮外妊娠」は子宮以外の部分に受精卵が着床する病気で、おなかの中で大量出血が起きるおそれがあり、最悪の場合、妊婦の命にかかわるリスクもあります。

ところが、妊娠が分かったその日、女性の夫は発熱の症状があったためPCR検査を受け、翌日、陽性と判明しました。

女性もその後、PCR検査を受けたところ陰性でしたが、保健所から濃厚接触者として2週間、自宅待機するよう求められました。

女性は妊婦健診を受けられないかと保健所や通っていたクリニックに相談しましたが、自宅待機の期間が終わるまでは延期するように言われました。

女性はほかにも複数の医療機関に電話をかけて相談しましたが、濃厚接触者の妊婦を診察してもらえる病院は見つからなかったということです。

保健所や医療機関からは万が一、子宮外妊娠による腹痛が起きた場合には救急車を呼ぶよう指示されていたということです。

女性は2週間の自宅待機を終えて診察を受け、子宮外妊娠ではないことが分かりましたが、この2週間の間、とても不安な気持ちで過ごしていたといいます。

女性は「自宅で毎日泣きながらただ時間が過ぎるのを待つことしかできませんでした。妊娠の経過が順調なのか分からない中で、救急車を呼ぶような事態になるまで待てと言われていることが苦しかったです。ほかの人には同じような不安を持ってほしくないですし、コロナ禍でも妊婦が安心して穏やかな気持ちで過ごせるようになってほしいです」と話していました。

対応強化する医療機関も

新型コロナウイルスに感染したり、濃厚接触者となったりした妊婦への対応を強化している医療機関もあります。

その1つが北海道大学病院です。

産科の馬詰武医師によりますと札幌市内でも家族が感染したために妊婦自身も感染したり、濃厚接触者となったりするケースが相次ぎ、予定していた妊婦健診を延期することも少なくないということです。

そこで、病院では妊婦が自宅で胎児の心拍数を測定してオンラインで医師の問診を受けられるシステムを試験的に活用してきました。

しかし、準備に手間がかかるため、感染者が増加して入院患者の対応に追われている現在は利用が減っているということです。

こうした中、病院が今進めている取り組みは命にかかわる“万が一”の事態への備えです。

妊婦は出血や腹痛などさまざまな理由から救急搬送が必要となるリスクがありますが、新型コロナウイルスに感染していたり濃厚接触者だったりした場合は、搬送先が決まるまで時間がかかるおそれがあります。

特に濃厚接触者だった場合は、感染者専用の病棟にも一般の病棟にも受け入れてもらえず、病床の確保が困難なケースもあるということです。

そこで命にかかわるリスクのある子宮外妊娠の患者について、スムーズに受け入れるよう周辺の産科・婦人科の医療機関と事前想定を進めています。

今月、オンラインで行われた話し合いには札幌市内11の医療機関が参加し感染者と濃厚接触者のそれぞれを想定して、今の状況ならどの医療機関で受け入れられるかを確認していきました。

北海道大学病院の馬詰医師は「第4波で妊婦への影響が増し、どんどん感染状況も変わってくる中で対応方法を話し合いながら考えています。妊婦さんの行き場がなくなるような状況を防ぐためあらゆるケースを想定していち早く対応できるようにほかの医療機関や行政と今まで以上に緊密に連携し体制を整えていきたいです」と話していました。