アメリカ ワクチン接種のペース鈍化 接種率向上が課題

アメリカでは、今月1日までに3億回分を超える新型コロナウイルスワクチンが各州などに供給され、2億4000万回分余りが接種されました。供給が安定する一方で、接種のペースは鈍化していて、州によっては予約なしでも接種できる会場を設けるなどして接種率を高めようとしています。

アメリカでこれまでに供給されたワクチンの数は3億1200万回分を超え、接種された数は2億4300万回分以上、接種を完了した人の割合は31.2%となっています。

一方、1日当たりの接種回数は、1週間の平均で320万回以上に達した先月11日をピークに減少し、先月26日には240万回余りと、ペースが鈍化しています。

複数の専門家は、高齢者などの接種が一とおり終わり、需要が減少していることが背景にあると指摘しています。

社会全体で感染を抑え、経済活動や社会活動をこれまでのように再開するには接種率をさらに高める必要があると考えられていますが、民間の調査団体が3月末に発表した世論調査では、接種をためらう人や否定的な人が全体の37%に上っているほか、若い世代での接種率は低い水準にとどまっています。

このため州によっては、誰でも予約なしで接種ができるようにしたり、若い世代に金銭的な支援をしたりして、接種率を高める取り組みを進めています。

ニューヨーク 予約なしで接種可能な会場も

ワクチンの接種が進むアメリカ ニューヨークでは、ワクチンの供給が安定したことから予約なしでも接種ができる会場があります。

ニューヨーク・マンハッタンにある全米最大規模の博物館、アメリカ自然史博物館には先月23日、大規模な接種会場が設けられました。
この会場では事前の予約は必要なく、ニューヨーク市民や、ニューヨーク市内で働いている人であれば、会場に来るだけで接種を受けることができます。
海洋生物の展示ホールでは、天井からつり下げられた巨大な鯨の模型に、ワクチンを接種した場所に貼るばんそうこうが貼られていました。
ニューヨーク市では高齢者への接種が始まったことし1月から3月半ばごろまで、ワクチンの接種の予約が難しい状態が続きました。
その後、ワクチンの供給量が増加し、小規模な診療所や薬局でも接種ができるようになったため、予約が難しい状態は解消されつつありますが、一方で、経済的な理由などからインターネットを利用できず予約できない人や、住むところが安定していない不法移民の人たちの間で、接種が進んでいないと指摘されています。

ニューヨーク州も先月27日、州が運営するすべての大規模接種会場で、予約なしで接種を受けられるようにすると発表しています。

また、東部ペンシルベニア州やニューハンプシャー州など、少なくとも18の州などが住民以外にも接種の対象を拡大しています。

また、南部フロリダ州の一部の接種会場では、海外からの旅行者も接種できるため、地元のメディアによりますと南米の国々から接種を受けに来る人が増加しているということです。

追加供給 辞退する州も

アメリカでは接種が進み、一部の地域ではワクチンは十分供給されているとして、追加の供給を辞退するところもでてきています。

このうちアイオワ州では、州内の99の郡のうち、80の郡が、今月3日に予定されていた追加の供給を「必要ない」として辞退しました。

また、ペンシルベニア州のフィラデルフィア市では先月28日、接種の予約が見込みより少なく、翌日の昼までに使用期限が切れるワクチンが4000回分残ったため、接種をしていない市民に対し市内の接種会場で接種を受けるよう呼びかけました。

接種可能な時間を延長するなどして、期限までに4000回分を接種し終えたということですが、市の当局者は「何かしら接種の動機になることを考えたい」と追加の施策が必要だという考えを示しました。
若い世代に対し、金銭的な支援を行って接種率を高めようという州もあります。
南部ウェストバージニア州では、16歳から35歳の接種率が伸び悩んでいるとして、ジャスティス知事は先月26日、この年齢の人が接種を受けた場合、100ドルを受け取れる債券を配布すると発表しました。

州単位でこうした取り組みを行うのはウェストバージニア州がはじめてですが、ミシガン州やノースカロライナ州の州立大学では、接種を受けた学生に食堂で使えるクーポンを渡したり、抽せんで寮の費用を安くしたりする取り組みを行っているところもあります。

公衆衛生の専門家「地域や社会的背景に応じきめ細かい対応を」

ラトガース大学公衆衛生大学院のペリー・ハルキータス教授は「接種を求められることを権利や自由の侵害だとして政治的な問題だととらえる人もいて、接種率を上げることをより困難にしている」と指摘しています。

そのうえで「さまざまな理由で接種ができなかったり、ためらったりしている人に対し、住む地域や社会的な背景に応じたきめ細かい働きかけが必要になってくる」と話しています。