新型コロナ 自治体独自の「接触通知システム」 多くは利用低迷

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、自治体が独自にQRコードなどを利用し、感染者と接触した可能性を通知するシステムを導入しています。

しかしNHKが調べたところ、運用している25都道府県のうち感染者情報を通知したことがあると答えたのは7つの道府県にとどまり、多くは利用が低迷していることがわかりました。

専門家は「“第4波”が懸念される今こそ活用に向けて改善する必要があり、利用者にとってのメリットを増やすことが重要だ」と指摘しています。

自治体独自の通知システムは1回目の緊急事態宣言が解除された去年5月以降、感染防止対策と経済活動を両立するため、導入が進められてきました。

飲食店やイベント会場などに設置されたQRコードを、利用者が携帯電話で読み取りメールアドレスやLINEを登録すると、施設で感染者が出た際に通知される仕組みです。
NHKが今月6日から15日にかけて全ての都道府県に尋ねたところ、運用している都道府県は25ありQRコードが設置されている飲食店や施設、それにイベントはあわせて45万件余りにのぼりました。

しかし、実際に通知が行われたのは「非公表」とした岩手県を除くと北海道、大阪府、茨城県、岐阜県、滋賀県、広島県、それに愛媛県の7道府県にとどまっていることがわかりました。

通知実績は茨城県で136施設を利用した904人で最も多いほかは大阪府が12のケースで人数は非公表、愛媛県が1ケースの110人などと活用例が少ないのが実情です。

担当者の多くが課題に挙げているのが利用の伸び悩みで、埼玉県では店舗やイベントなど6万件近くに設置されているもののQRコードの読み取り回数は21万回余りと1つの場所やイベントあたり3回程度にとどまっているほか京都府では1万7000余りの設置件数に対し、読み取り回数は3万回ほどにとどまっています。

IT政策に詳しい大阪大学社会技術共創研究センターの工藤郁子 招へい教員は「“第4波”や変異ウイルスが懸念される今こそ、活用に向けて課題を検証し改善していく必要がある。操作をわかりやすくし、利用者にとってのメリットを増やすことが重要だ」と指摘しています。

模索する茨城県 “いばらきアマビエちゃん”とは

QRコードを使った通知システムの運用に特に力を入れているのが茨城県です。

「いばらきアマビエちゃん」はQRコードを携帯電話で読み込み、メールアドレスを登録する仕組みですが、手軽に使ってもらうため、スマートフォンで利用できるアプリも配信しています。

「アマビエちゃん」に登録している店や施設を地図上で確認することもできます。

多くの自治体が店舗などに対してQRコードの設置を「要請」しているのに対し茨城県は条例で、飲食店などにシステムへの登録を義務づけました。

さらに、利用者に対して県産品をプレゼントするキャンペーンも先月にかけて実施しました。

これまでに登録している事業者は今月5日時点で飲食店がおよそ1万3500か所美容室がおよそ5600か所で、義務づけの対象のほぼすべてが登録しているほか、オフィスビルや地域のスポーツ大会などもあわせると合計で6万件近くになり、読み取りの回数は先月1日あたりの平均でおよそ1万9000回です。

通知実績は136施設を利用した904人で全国の通知実績の大半を茨城県が占め、PCR検査につながった例もあるということです。

全国的には高い水準にあるものの、東京や神奈川などで感染者が増加する中、利用者をさらに増やす必要があるとして14日からは県内の繁華街にある飲食店を対象に見回り活動を始め、システムの活用を呼びかけています。

県の担当者は店の店主に対してシステムの利用状況を聞くとともに知らない客には利用を直接呼びかけるよう依頼していました。

茨城県中小企業課の山口雅樹担当課長は「感染防止のためには店を訪れた人にもっと“アマビエちゃん”を利用してもらうことが課題になっている。試行錯誤しながら利用者の読み取りを習慣化させていきたい」と話しています。

専門家「官民の連携をもっと進めるべき」

IT政策に詳しい大阪大学社会技術共創研究センターの工藤郁子 招へい教員によりますと、海外ではIT技術の積極的な活用によって感染拡大の防止に一定の効果をあげているところもあるということです。

日本とはプライバシーに関する法律や捉え方も異なるため単純に比較できないものの、シンガポールや台湾などは、感染者の位置情報などを追跡し、接触者に通知したり発生場所を消毒して公表したりする取り組みが進んでいるということです。

日本では、国のCOCOAに先行する形で複数の自治体によってQRコードなどを利用した通知システムが始まり、「場所」に重点を置いた通知システムと、「人との接触」に重点を置くCOCOAとの併用で陽性者の早期把握や、二次感染の拡大を防ぐ効果などが期待されていました。
通知システムが今も広がりを見せないことについて工藤さんは、「感染が爆発した時に見直しても遅いので、“第4波”や変異型ウイルスが懸念される今こそ、活用に向けて課題を検証し改善していく必要がある」と指摘しています。

さらに「ITサービスのユーザーを増やすには、“手軽さ”と“メリット”が重要で、ユーザー目線に立ち、『自分が使うことでどういった利益を得ることが出来るのか』をもっと考え、分かりやすく示すべきだ」と述べました。

また、自治体の担当者の多くは利用者が伸び悩んでいる理由を個人情報に対して懸念があるからだと考えていますが、工藤さんが、国の接触確認アプリ「COCOA」をめぐって大学生などに聞き取ったところ個人情報の問題より、アプリの機能に対する不満感のほうが大きかったと指摘しました。

そのうえで工藤さんは「ユーザーにとってのメリットは行政よりも民間のIT事業者の方が詳しく、官民の連携をもっと進めるべきではないか。利用者を増やすためにやれることはまだある」と話しています。

東大教員と学生が開発「MOCHA」の特徴は

感染者の情報を通知するシステムで専門家が注目しているのが、東京大学の工学系の教員や学生が開発したアプリ「MOCHA(モカ)」です。

特徴は「利便性の良さ」と「手軽さ」。

感染者の情報は通知されますが機能の一つに過ぎず、メインの機能は教室や食堂の混雑状況をリアルタイムで見られるサービスと、教室や図書館の座席予約サービスです。

コロナ禍の学生が日常的に求める機能の中に、通知システムを組み込む設計になっています。
QRコードを読み取るのではなく、キャンパスに設置した「ビーコン」と呼ばれる機器を利用してMOCHAを有効にしているスマートフォンに位置情報が記録される仕組みで、たくさんの学生が利用することで混雑状況などのサービスの有効性が高まります。

利用者が新型コロナウイルスに感染したことがわかった場合に行われる通知は本人の同意を条件としています。

さらに、情報は個人が特定されない形になっていることを説明し、信頼感を得る工夫もしています。

さらに、アプリをダウンロードする際のタップ数を極力減らすなど、手軽に利用出来るような仕組みになっています。

アプリを利用している学生は「学校に来てみないと分からなかった教室などの状況を自宅でも見ることができて便利です。予約も簡単に出来ますし、使い勝手がいいです」と話していました。

大学側は対面授業や実験を進める上でMOCHAを活用したい考えで、今月から工学部で学び始めた新3年生、およそ1000人の大多数が利用しているほか、工学部の教職員もおよそ8割が使っているということです。

システムを開発した東京大学大学院工学系研究科の川原圭博 教授は「アプリを始めてからも利用している学生の意見を聞き取り、より使い勝手がよく、メリットも感じられるようアップデートを続けている。工学部以外の学生の利用や認知度が低いので、改善していきたい」と話していました。