新型コロナで肺に重い後遺症 生体肺移植 世界初 京大病院

京都大学病院は、新型コロナウイルスに感染して肺炎となり、肺に重い後遺症を患う女性患者に夫と息子から提供を受けた肺の一部を移植する手術を行い、成功したと発表しました。病院によりますと、新型コロナウイルスで肺に後遺症を患った患者への生体肺移植は世界で初めてだということです。

これは8日、京都大学医学部附属病院の呼吸器外科長で、執刀した伊達洋至教授らが会見して明らかにしたものです。

それによりますと、肺移植を受けたのは、関西在住の女性患者です。

女性は、去年の末、新型コロナウイルスに感染して重度の肺炎を患い、人工心肺装置=ECMOによる治療をうけてその後、陰性が確認されました。

しかし、両方の肺が線維化してほとんど機能しなくなり、回復は見込めない状態だったということで家族から、臓器の提供の申し出があったことから、7日、女性の夫と息子から提供された左右の肺の一部を移植する手術を行ったということです。

手術は11時間近くかけて無事に終了し女性は現在、集中治療室で手当てを受けているということですが、このまま回復すれば、3か月で社会復帰できる見込みだということです。

夫と息子の経過も良好だということです。

京都大学によりますと新型コロナで肺に後遺症がある患者への生体肺移植は、世界で初めてだということで、執刀した伊達教授は、「新型コロナで肺に障害の残った患者にとって、生体肺移植は希望のある治療法になるだろう」と話しています。

新型コロナによる肺炎特有の難しさも

執刀した伊達洋至教授によりますと、手術には、新型コロナウイルスによる肺炎特有の難しさがあったということです。

手術では、女性の肺をすべて摘出したうえで、息子の右の肺と夫の左の肺のそれぞれ一部を女性の左右の気道の先に移植しました。

女性は、新型コロナウイルスについては2度の検査でいずれも陰性が確認されていることから、手術は通常の感染対策のもと行われたということです。

ただ、肺の組織がもろくなっていたため出血しやすく、止血の対応だけでも数時間はかかったということです。

女性の肺のエックス線写真では、手術前は両方の肺が白く写り、機能していない状態でしたが、手術後は、黒く写り、正常に機能していることが確認できたということです。

生体肺移植は、肺以外の臓器に障害のない65歳未満の患者が対象ですが、新型コロナウイルスにより重症化する患者は、もともと基礎疾患があったり、肺以外の臓器にも障害があったりすることが多く、対象となる患者は限られているということです。

病院によりますと、新型コロナウイルスの患者に対する肺移植では、中国や欧米で、脳死からの移植が数十例、報告されていますが、伊達教授は「脳死からの肺移植は、日本では提供を受けるまでに待ち時間が平均で800日を超えるのが現状で、今回は不可能だった」と話しています。