緊急事態宣言から1年 暮らし・経済への影響は?

1度目の緊急事態宣言が出てから1年、私たちの暮らしや経済への影響をまとめました。

航空会社 歴史的な落ち込み

深刻な影響を受けた代表的な業種の一つが航空や鉄道などの交通機関です。
国内の航空会社が運航する旅客機の利用者は、歴史的な落ち込みとなりました。国内線は、1度目の緊急事態宣言が出た去年4月は96万人、5月は60万人と、いずれも前の年に比べて9割前後の減少となりました。その後は7月に始まったGo Toトラベルなどで持ち直し、11月の利用者は520万人と、減少幅は44%にまで縮小しました。しかし、再び感染者が増えた12月には、54%へと拡大し、年が明けて2度目の緊急事態宣言が出た1月は、75%の落ち込みとなりました。
国際線も、去年4月は5万2000人と前の年から97%減少し、5月は3万3000人と、98%の減少となり、その後も減少幅は90%を超えています。

こうした厳しい状況を受けて、航空大手2社は昨年度の業績予想で、ANAホールディングスが5100億円、日本航空が3000億円といずれも巨額の最終赤字を見込んでいます。両社は経営が悪化する中で雇用を守るため、一部の従業員を外部の企業に出向させる対応をとっています。

鉄道会社 本格的な回復の見通したたず

鉄道会社も経営への影響は深刻です。

出張や旅行での利用が多かった新幹線は特に影響が大きく、緊急事態宣言が出た去年4月の利用者は、前の年と比べて、JR東海が90%、JR西日本が88%、JR東日本が87%といずれも大幅に減少しました。

去年11月には、3社とも減少幅はおよそ50%に回復しましたが、2度目の緊急事態宣言が出たことし1月には、JR東海が75%、JR東日本とJR西日本が73%と、再び大きく落ち込んでいて、本格的な回復の見通しはたっていません。

JR各社や主要な私鉄各社は昨年度の決算が軒並み最終赤字に陥る見通しで、安全に支障のない範囲で設備投資を先送りしたり、人件費を削減したりといった対応を余儀なくされています。

JR西日本は7日、東京で記者会見を開き、新型コロナウイルスの影響で昨年度の鉄道事業の収入は、前の年度と比べて51.8%減少したと発表しました。
また、初めての緊急事態宣言から7日で1年となったことについて、JR西日本の長谷川一明社長は「経営に想像以上の影響があり大きな転換点になった1年だった。仕事や暮らし方の変化はコロナの収束後も残る。需要を創出することが重要だ」と述べました。

ホテル・旅館 大規模な合理化も相次ぐ

東京オリンピック・パラリンピックで国内外からの旅行者による需要をあてこんでいたホテルや旅館などは大きな打撃を受けました。
観光庁によりますと、去年1年間に国内のホテルや旅館などを利用した宿泊者は、延べ3億479万人と、前の年から一気に48%減少し、比較可能な2010年以降で最も少なくなりました。特に、緊急事態宣言が出た去年の4月と5月は、80%を超える大幅な落ち込みとなりました。

その後は回復傾向が続き、減少幅は、11月には30%に回復しましたが、感染者が増えた12月には、40%に拡大しました。

厳しい環境が続く中、先月には、全国で18のホテルを運営する「ビスタホテルマネジメント」が、自力での経営に行き詰まり、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請しました。

大規模な合理化も相次ぎました。

関西の大手私鉄では、「近鉄グループホールディングス」が所有するホテルの3分の1にあたる8か所をアメリカの投資ファンドとつくる新会社に売却することを決めたほか、「阪急阪神ホールディングス」は、東京と大阪にある6つのホテルの営業を終了する方針を明らかにしました。

ワシントンホテルなどを全国に展開する「藤田観光」は、大阪市にある宴会施設で、2019年のG20大阪サミットでは、閣僚会合の会場にもなった「太閤園」を売却し、6月末で営業を終了することになりました。

依然として、感染収束のめどが立たない苦境が続く中、ホテル業界では、少しでも利用者を確保しようと、割安の料金でホテルを“生活の場”として提供する長期滞在型のプランを販売する動きが広がっています。

居酒屋チェーン 営業時間短縮や休業で…

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言で、主な居酒屋チェーンのことし2月時点の店舗数が1年前と比べて17%余り減少したことが業界団体の調査でわかりました。

営業時間の短縮や休業が飲食店の経営に深刻な影響を及ぼしています。

日本フードサービス協会のまとめによりますと、全国の主な外食チェーンの去年1年間の売り上げは、前の年よりも15.1%減少しました。落ち込み幅は、リーマンショック後の2009年を上回り過去最大となりました。
中でも夜の営業を中心とする居酒屋やビアホールなどへの影響は大きく、去年の売り上げは前の年に比べて49.5%減少とほぼ半減しました。また、ことし2月の時点で居酒屋チェーン31社の店舗数が1年前に比べて17.7%減少しました。

主なチェーンでは、「甘太郎」などを展開するコロワイドがおよそ200店舗を閉店したほか、ワタミは、居酒屋100店舗余りを閉店し比較的売り上げの回復が早いとされる焼肉店に業態を転換しています。

居酒屋チェーン各社は、夜間の売り上げの減少を補うためランチ営業を強化するなど新たなサービスを模索していますが、アルバイトなど非正規で働く従業員も多い業種だけに雇用の維持も課題となっています。

外食業界で拡大する「宅配」

新型コロナウイルスの感染拡大で外食業界では、店内での飲食が大幅に減る一方、宅配の売り上げが大きく伸び、消費者のライフスタイルが変化していることをうかがわせていて、企業側も宅配の事業展開に力を入れています。

民間の調査会社「エヌピーディー・ジャパン」は全国13万人の消費者から集めた毎日の支出のデータをもとに外食産業の市場規模を推計しています。それによりますと、去年1年間の外食業全体の売り上げは、おととしよりも27.2%減少しました。
このうち「店内での飲食」は、前の年に比べて34.1%減少しましたが、「宅配」の売り上げはプラス49.7%と大幅に増加していて、消費者のニーズが、外食から自宅での食事に移っていることをうかがわせています。

消費者のライフスタイルの変化に企業側も対応を急いでいます。

ファミリーレストランのデニーズは、去年10月に宅配やテイクアウトの専門店を初めて東京 新宿に出店しました。従来の店舗に比べて店の賃料や人件費などのコストを抑えることができるとしていて、都内と埼玉県で、さらに2店舗出店しています。

また、ステーキチェーンの「いきなり!ステーキ」は、キッチンカーによる移動販売をことし2月から都内で始めています。外食を控える消費者のニーズを取り込むねらいで、今後、車両を増やすことも検討しています。

品薄だったマスクは

国内で初めて緊急事態宣言が出された去年春ごろは、全国的にマスクや消毒液などが品薄となっていました。
特にマスクは買い占めや転売などが社会問題となりましたが、この1年で生産体制が強化されるなどして国内の流通量は、感染拡大前の5倍近くに増えたということです。

新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、マスクは去年1月下旬ごろから全国的に品薄となり、販売する店に長蛇の列ができたり、高く転売されたりと社会問題となりました。

このため政府は、去年3月、法律で転売を禁止したほか、4月には全国のすべての世帯に、布マスクを配布する方針も示しました。

厚生労働省と経済産業省によりますと、国の補助事業で去年3月ごろからマスクを生産するメーカーが増えるなど、国内の生産能力が向上したことに加え、その後は、停滞していた海外のマスクの流通も次第に回復し、状況は改善に向かったということです。厚生労働省は、一般のマスクの品薄状態が解消したのは7月末の段階だとしています。

1か月平均のマスクの流通量は、去年の秋ごろのデータで、国内生産分が2億9000万枚と感染拡大前の3倍以上、海外からの輸入量が14億枚と5倍以上になりました。国内全体の流通量は5倍近くに増加しているとしています。

また、業界団体の「全国マスク工業会」によりますと、一般用のマスクを生産する国内メーカーはこの1年で少なくとも3倍以上に増え、確認できるだけで100社以上にのぼるということです。

アルコール消毒液は

経済産業省によりますとマスクと同様に品薄となったアルコール消毒液は、国内の生産量がおととしの1か月平均で96万リットルでしたが、国内メーカーが設備を拡充するなどした結果、去年5月には600万リットルを超え、品薄の状態は解消に向かったということです。

需要が高い状態は今も続き、ことし2月も500万リットルを超える生産量となっています。