教え魔かもしれない

教え魔かもしれない
頼んでもいないのに、あれや、これやと教えてくる…あなたの近くに、そんな“教え魔”いませんか?
もしかしたら、私も“教え魔”になっているかも…?

ボウリング場に掲示された1枚の張り紙をきっかけに「人に教える」ために必要なことは何か、考えました。

この記事の内容
▽「STOP!教え魔」
 SNSに多くの反応 なぜ?
▽教える立場の人たちも悩んでいます
▽心理学で読み解く
▽あなたの“教え魔度”をチェック
▽プロコーチに聞いた
 「教える」ための技術とは

(ネットワーク報道部記者 谷井実穂子 秋元宏美 國仲真一郎)

いったい何なの?

大きな赤いフォントで印刷された衝撃的な文字のポスターの写真は、SNS上でも話題となりました。

強烈なインパクト…。

このポスター、いったい何なの!?
気になって、投稿した人に連絡を取ってみました。
投稿したのは、40代の男性「金ちゃん足ピコ会」さんです。
ボウリングが趣味で仲間とボウリング場に訪れたところ、このポスターに遭遇したそうです。

実はかねてからボウリング場内のある人たちの存在が気になっていたんだとか。
頼まれてもいないのに、ボウリング歴の長い人たちが初心者とみられる他の客に投げ方などを指導する姿をよく目にしていたのです。

ポスターはそのような人たちのことを“教え魔”として注意を呼びかけていたのです。
金ちゃん足ピコ会さん
「ボウリング場に対して『よく言ってくれた』という思いで投稿しました」

背景には切実な声も

店に取材しようと調べてみると、このボウリング場「湘南ボウル」は神奈川県鎌倉市で50年近く地域の人たちから親しまれてきましたが、新型コロナウイルスの影響による利用客の減少などで先月(3月)閉店していました。

湘南ボウルを経営していた湘南モノレールの広報担当者に話を聞きました。
広報担当者
「お客様から日常的に“教え魔行為をやめさせてほしい”という苦情をいただくことが増えていたからです。私どもの店舗だけでなく、全国的にもボウリング場で同じような迷惑行為があることは知られていて、皆さんに快適に使っていただきたいという思いで張り出しました」
強い呼びかけに踏み切った背景には、こうした行為が繰り返されてきたことがあります。
「実は、ポスターを張り出したのは今回が初めてではないんです。数年前にも教え魔に対する苦情が増えて、ポスターで注意喚起し、その時はしばらくするとピタリといなくなったんです。しかし最近になってまた苦情が増えてきて、中には“頼んでもいないのに教えてくるし、体もベタベタ触ってくる。ボウリングは大好きだけどもう来たくない”という訴えもあり、私たちとしては非常に悲しく、改めて注意喚起しようと張り出したしだいです」
ポスターの反響についてはどのように受け止めているのでしょうか。
「ゴルフ場やゲームセンターなどにもそういった方がいるというお声もいただき、反響に驚いています。“教えてあげたい”という親切心もあると思うのですが、相手の捉え方もさまざまだと思います」

いるいる! 私たちの周りにも…

皆さんも教え魔に遭遇したという経験、あるのではないでしょうか。

記者(秋元)自身、子育てをめぐって先輩ママから「○歳までに○○したほうがいい」「習い事は○○が絶対にいい」と一方的に言われて困惑したことを思い出しました。

SNS上では職場にいる教え魔についての投稿が数多く寄せられていました。
「います!うちの職場にも“教え魔”が。周りはまた教えていると生暖かい目で見ています」

「職場にアドバイス的なことを1日10回くらいしてくる人がいて、わりとストレス。自分のやり方を見つけ始めているのに『これはこうした方がいいよ』と何度も言われると『うるさい』ってなる」

あなたは教え魔? 街で聞いてみた

教える側の人たちの声も聞きたい。
さすがに顔見知りの上司に直接、聞くのは気が引けます…。

というわけで、向かった先は東京・新橋。
コロナ禍とあって以前のようなにぎわいはありませんが、スーツ姿の人たちが大勢います。
道行く人たちに大変失礼ながら「もしかして“教え魔”になっていませんか?」と聞いてみました。

まず話をしてくれたのは60代の男性です。
60代の男性
「お酒を飲んでいる時は教え魔になりやすいですね。『昔はこういうことをやったよ』などと、ついつい武勇伝を語りがちです。あんまりしつこいと嫌がられるので、1つか2つにとどめるように気をつけてはいますが。ただ、最近はコロナで職場の飲み会がないので、武勇伝を語る機会もありません」
コロナ禍で、教え魔になったことはないか尋ねると…
「コロナ禍ではありません。リモートワークが進んで、より効率が求められるようになったからです。ゆっくり教えられる余裕がないので、新入社員は大変だと思います」
50代の男性からも、コロナ禍ならではの悩みが聞かれました。
50代の男性
「いま新入社員研修をやっていますが、オンラインなので一方的に教えてばかりになりがちです。そういう意味では“教え魔”なのかな…。質問を受け付けても、なかなか手を挙げてくれなかったりして悩ましいですが、なるべく表情や反応を見るようにしています」
一方、女性からはこんな声も。
教える立場になった女性
「昔は職場のおじさま、お姉さまに教え魔がたくさんいて、若かったのでうまくいなせず悩みました。教える立場になった今、部下に同じ思いをさせないように、反応を見ながら気を遣って教えています」
教える側の立場の人たちも、悩んだり気遣ったりしながら、教え魔にならないために模索しているようです。

教え魔の心理 人はなぜ“教えたがる”のか

教え魔の心理はどのようなものなのでしょうか。社会心理学が専門で教えることの心理状態に詳しい新潟青陵大学の碓井真史教授は2つの側面を指摘しました。
(1)教えるものを愛している
今回のようなボウリングなど、自分がその物事を愛するあまり、他人にもそれを好きになってほしい、上手になってほしい。だからこそ「違う、そうじゃない」と言いたくなることが目についてしまい、ついつい教えてしまう。

(2)教えていることで気持ちがよくなる
教えるという行為は、自分が相手より上の立場に立つことができ、人は気持ちがよくなる。
新潟青陵大学 碓井真史教授
「自分が愛している物事に貢献できるし、自分が気持ちよくなれる。これが教え魔の心理だと言えると思います」

「中高年の男性が多いという印象はあるかもしれません。ただ、必ずしもおじさんだけが教え魔になるわけではありません。年齢・性別関係なく、可能性はあります」
碓井教授によると、心理学の研究でこんな実験があるそうです。
ある集団を2つのグループ、先生役と生徒役にランダムに分け、先生役には問題とその解答・解説を事前に渡しておきます。

その状態で先生役が生徒役に出題します。

すると先生役のほうが「頭がよく、賢く、人格的にも優れている」と感じやすい傾向がみられました。役割を入れ替えても同様だということです。

そう、教え魔には誰もがなりうるのです。

あなたの“教え魔度”は?

ここまで読んできて「自分も教え魔かもしれない…」と不安に思った人も多いのでは。

具体的にどういう点に気をつければいいのでしょうか?
冒頭のポスターをめぐって、教える側の立場でコメントを投稿した君塚正道さんです。
大学駅伝部を箱根駅伝に導いたこともある陸上やウォーキング指導のプロコーチとしての経験から、注意が必要な点を挙げてもらいました。
□ 自分のやり方は正しいから、他人も同じようにすべきだと思う
□ 話す相手が自分に視線を向けていなかったり、表情が暗かったりする
□ 教えることは、指示し、命令することだと思う
□ 人の弱点を見つけ、指摘するのが好き
□ 相手の評価は、結果だけを見るべきだ
□ 他人の失敗や過ちはすぐに指摘すべきだと思う
□ 何がなんでも1から10まで全部教えるほうがいい
□ 話す相手に怖がられることが多い
□ 課題や問題は教える側がすぐに指摘して解決すべきだ
□ 相手の予定や都合を気にしないことが多い
□ 他人のことを常に自分の思いどおりにコントロールしたい
「はい」と答えた項目が多ければ多いほど、気をつけたほうがいいとのことです。

アドバイスをしない!? プロコーチの「教え方」

君塚さんは日頃の指導の中で「アドバイスをしない」ことを意識しているそうです。

教えるのにアドバイスをしないって、どういうこと?
プロコーチ 君塚正道さん
「教わる側の人がやりたいことや、その人にとっての答えを導いてあげるのを意識しています。AとBの2つの選択肢がある場合に『君はAをとるべきだ』というのではなく、『AとB、どっちをやりたい?』と尋ねることです。決定権を持たせることで、結果として自発的に取り組んでもらうことができると感じています」
かつては選手の役に立つだろうと教えすぎたあまり、失敗した経験もあるという君塚さん。

最後に聞いてみました。

教えるのにいちばん必要な事って何ですか?
君塚さん
「教える側と教わる側の関係性ができているか、そして同じ方向を見ているかが大事だと思います。望んでいないのに『こっちを見ろ』と言っても難しい。一方的に教えたほうが早いかもしれませんが、自分のものにしてもらうために考えることを促す。それを待つことが、教える側に求められると思います」