香港の選挙制度変更決定 体制に“忠誠”か 立候補者を事前審査

中国の習近平指導部は、香港の選挙に立候補する人を治安機関が事前に調査し、政府に忠誠を尽くしていないと判断された場合、立候補を認めないとする新たな制度の導入を決めました。

体制に批判的な勢力が政治の舞台から排除されることになり、香港の民主化の道は事実上断たれました。

中国国営の新華社通信によりますと、中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会は30日、北京で会議を開き、香港政府トップの行政長官と議会に当たる立法会の議員の選挙制度の変更の詳細を全会一致で可決しました。

それによりますと、立候補する人については、去年施行された香港国家安全維持法に基づいて設置された警察の治安部門が事前に調査します。

調査結果は新たに設置される「資格審査委員会」に報告され、ここで政府に忠誠を尽くしていないと判断された場合、立候補できなくなります。

また、この判断に対し訴訟などで異議を申し立てることはできないとしています。

このほか、立法会議員については、現在70ある議席を90に増やす一方で、市民の直接投票で選ばれる議席は35から20に削減されます。

今回の決定を受けて今後、香港政府が関連法を整備し、中国共産党系のメディアは5月までに新たな制度が固まるという見通しを伝えています。

香港では、ことし後半から来年にかけて立法会議員選挙、行政長官選挙がそれぞれ予定されています。

今回の選挙制度の変更によって体制に批判的な勢力が政治の舞台から排除されることになり、香港の民主化の道は事実上断たれました。

香港行政長官 決定を歓迎

香港政府トップの林鄭月娥行政長官は記者会見し、選挙制度の変更の決定を歓迎する立場を強調しました。

この中で林鄭長官は「先に施行された国家安全維持法とともに、今回の選挙制度の改革が完成することで、香港の発展に向けて政治的な問題を根本的に解決することができる。今後、香港の政治的な環境は安定する」と述べました。

そのうえで、立候補する人を審査するために設置される「資格審査委員会」は香港政府の主要な幹部で構成されるとの考えを示しました。

また、制度変更に伴う条例の改正案を4月中旬に議会にあたる立法会に提出し、5月中の成立を目指すとしています。

今回の選挙制度の変更では、行政長官を選ぶ権限を持つ選挙委員会の委員の数が増やされるうえ、議会にあたる立法会の議員の一部も選ぶようになるなど権限が強化されます。

30日の記者会見で林鄭長官は、この選挙委員会の委員を選ぶ選挙をことし9月に行い、一方で、ことし9月に予定されていた立法会議員選挙については12月に延期することを明らかにしました。

立法会議員選挙は本来、去年9月に予定されていましたが、1年延期されていました。

また、次の行政長官を決める選挙は来年3月に行うとしています。

中国 選挙制度変更を正当化

香港の選挙制度の変更について、中国外務省の華春瑩報道官は30日の記者会見で「新しい選挙制度は香港の政治や社会、法治やビジネスの環境をさらに改善させ、香港はより明るい発展の未来を迎えるだろう」と述べて、中国の決定を正当化しました。

また、欧米各国などが選挙制度の変更を批判していることを念頭に「香港は中国の特別行政区であり、完全に中国の内政だ。香港に介入して中国に圧力をかけようというたくらみは決して実現しない」と述べて、けん制しました。

香港の民主派政党 強く批判

香港の民主派政党、民主党の羅健煕代表は記者会見し、中国が決めた香港の選挙に関する新たな制度について「制度の変更によって直接投票で選ばれる議員が非常に少なくなり、市民の声を反映できないことになる。これは香港の将来にとって非常に問題だ」と強く批判しました。

そのうえで、立候補する人の審査に警察の治安部門が関与することについて「警察が選挙にまで強い影響力を持つことになった。香港の民主化は中国に返還されたときよりも状況が悪くなったと言える」と話しました。

そして、今後、民主派が政治に関与できるかと問われたのに対し「中央政府が決めることだ」と述べ、深い懸念を示しました。

市民から不満の声も

香港の選挙制度の変更について香港の市民からは不満の声が相次いで聞かれました。

このうち70代の男性は「もう選挙には行きません。時間のむだです。投票にどんな意味があるでしょうか」と諦めた様子で話していました。

また、30代の男性は、立候補する人を審査する「資格審査委員会」が新たに設置されることについて「『愛国者』でなければ立候補の資格がないとされていますが、愛国の基準が何なのか分かりません」と話していました。

一方、香港政府は選挙制度の変更を歓迎する看板などを各地に設置していて、中心部にある体育館やホールには「愛国者による香港の統治を実現させよう」などと書かれた大型の幕が掲げられています。

中国 習近平指導部「香港統治のため変更が必要」

中国の習近平指導部は、今回の制度変更の理由について「香港の選挙制度には明らかな欠陥があり、愛国者による香港の統治のため変更が必要だ」と説明していました。

今回の制度変更は具体的には、香港政府トップの行政長官と、議会にあたる立法会議員の選挙について定めた香港基本法の付属文書を改定する形で行われました。

このうち行政長官は、業界ごとの代表や全人代の代表などで構成される「選挙委員会」による間接選挙で選ばれていますが、今回の変更では、この選挙委員の数を現行の1200人から1500人に拡大します。

一方で、区議会議員の代表に割り当てられていた117人の枠は廃止します。

そして、防火や防犯などの地域活動を行っている団体のメンバーなどを新たに加えるとしています。

区議会議員の117人の代表は、おととしの選挙で民主派が圧勝したことから、すべて民主派が占める見通しでしたが、排除されることになり、選挙委員の多くは中国政府に近い人たちで占められる見通しです。

一方、立法会議員については、現在70ある議席を90に増やす一方で、選挙委員から選ばれる枠が新たに設けられ、これに40議席を充てるとしています。

そして残る議席のうち、30議席を業界などの代表に充て、市民の直接投票で選ぶ議席は35から20へと大きく削減されます。

さらに直接投票の選挙に立候補する場合には、複数の選挙委員の推薦が必要だとしています。

このほか、行政長官と立法会議員、選挙委員の立候補者については、去年施行された香港国家安全維持法に基づいて設置された警察の治安部門が、事前に調査します。

調査結果は、新たに設置される「資格審査委員会」に報告され、ここで政府に忠誠を尽くしていないと判断された場合、立候補できなくなります。

また、この判断に対し、訴訟などで異議を申し立てることはできないとしています。

体制に批判的な民主派は、中国や香港政府に対するこれまでの言動などが問題視され「愛国者でない」とみなされて立候補が認められなくなるものとみられます。

民主派政党「香港の将来にとって非常に問題だ」

香港の民主派政党、民主党の羅健煕代表は、記者会見し中国が決めた香港の選挙に関する新たな制度について「制度の変更によって直接投票で選ばれる議員が非常に少なくなり、市民の声を反映できないことになる。これは香港の将来にとって非常に問題だ」と強く批判しました。

そのうえで立候補する人の審査に警察の治安部門が関与することについて「警察が選挙にまで強い影響力を持つことになった。香港の民主化は中国に返還された時よりも状況が悪くなったと言える」と話しました。

そして、今後、民主派が政治に関与できるかと問われたのに対し「中央政府が決めることだ」と述べ、深い懸念を示しました。

外務省「高度の自治を大きく後退させ 看過できない」

外務省は外務報道官談話を発表し「今回の選挙制度の変更は『一国二制度』に対する信頼をさらに損なわせ、また、行政長官やすべての立法会議員の普通選挙による選出を目指す香港基本法の趣旨にも逆行している。香港における高度の自治を大きく後退させるものであり、看過できない」としています。

そのうえで「日本政府として、香港において関連する選挙が幅広い政治的意見を代表する候補者を含む公正な形で実施されることを求める。引き続き国際社会とも連携して、中国側の具体的な対応を求めていく」としています。